車椅子の人にもうれしいデザイン

ぱっと見、普通のジーンズですよね。特徴があるとすれば、脇に持ち手があるくらいでしょうか。

上田 介護者が介護しやすいのはもちろんですが、車椅子の利用者にも配慮したデザインにしました。このジーンズのデザインには、すべて意味があります。

 前部はストレッチ素材にしていて、トレーニングパンツやパジャマに近い質感で柔らかく、履いていても疲れにくいようにしています。逆に臀部は体重を支える強度が必要なので、伸びないデニム生地にしています。

 市販のジーンズの臀部に見られるような裏側の縫い目やポケットはなくし、段差をなくしました。臀部にわずかでも段差があると毛細血管が圧迫されて、褥瘡(じょくそう)になりやすいからです。また、後ろ側の腰まわりを深めにデザインしました。これにより、座っている状態でも背中が包まれる格好になるので、背中から上着の服が出るようなことが少なくなります。

臀部は縫い目をなくして座面部の履き心地を高めた(写真:筆者が撮影)
臀部は縫い目をなくして座面部の履き心地を高めた(写真:筆者が撮影)
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 ジーンズの脇に縫い付けている持ち手は、根元の縫い目を3重に強化してフェイルセーフにしました。体格の良い人向けにLLサイズのジーンズを用意していて、こちらは持ち手を支える部分に帆布を使っています。帆布は普通の布よりも強いためです。

持ち手の根元の縫い目を3重に強化してフェイルセーフに(写真:筆者が撮影)
持ち手の根元の縫い目を3重に強化してフェイルセーフに(写真:筆者が撮影)
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 移乗の際に使うピーヴォにはマジックテープ的な素材の「面ファスナー」を使いました。これはマイクロファイバーを使っていて、足に巻き付けた状態では縦方向には簡単にはがれますが、横方向の動きには強いので移乗の際にも安心です。介護の世界では「介護する相手が自分の意思で外せない拘束をするのは避けるべき」とされているのですが、この素材であれば自分で外せるので拘束になりません。

利用者の感想はいかがでしょう。

上田 おかげさまで介護する人も、介護される人も楽になったというお声をいただいています。AUNではユニバーサルデザインの商品を複数開発・販売しているのですが、このリフトアシストジーンズが一番多くお礼状をいただいています。

 2017年から販売していて、これまで500本くらい世に出て利用いただいています。大きな広告宣伝もしていないのですが、介護分野のイベントで出店をすると、その場で買っていかれるというケースが多いですね。

 車椅子を使っている人は、それまで普通に生活していて、事故で突然歩けなくなったという人も多くいます。おしゃれにはそれ以前と変わらず関心があるのだけど、服選びに困ってしまうそうなのです。こちらは普通のジーンズとして違和感なく履けて、介護者も楽に移乗できるということで、好評の声をいただいています。

 デザインとしては健常者の人も履けるようにしています。実際、私が今日はいているのはこちらのジーンズです。介護用であっても普通に使えるものとしてデザインするというのは私のこだわりです。

上田氏が履いているのもリフトアシストジーンズである(写真:筆者が撮影)
上田氏が履いているのもリフトアシストジーンズである(写真:筆者が撮影)
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単価は、リフトアシストジーンズのみで税込み2万1450円、ビーヴォ付きですと同じく税込み2万8050円です。もちろん介護向けという付加価値があるわけですが、普通のジーンズとして見ると高級品の価格帯に当たります。下げられる見込みはありますか。

上田 いわゆる「児島ジーンズ」としては通常の価格帯に当たりますが、海外製と比べると高く思えると思います。製品の性質上量産しづらいことから、現在の単価から下げるのはなかなか難しいですね。服は介護保険が適用されない領域なので、なおさら難しいところがあります。

 本格的に普及させて単価を下げるとなると海外で生産することになります。ですが今は、このジーンズを地元産業の活性化手段として位置づけており、「ジーンズの聖地」と呼ばれる児島産のデニムを使い、繊維産業があるこの倉敷でつくることにこだわっています。機能性、児島というブランド、地域活性化、そして単価の高さという特色を踏まえて、ご家族がプレゼントとして選ばれるケースが多いですね。

リフトアシストジーンズの原型となった移乗機能付き座イスの「リフティピーヴォ」(赤色のもの)。写真では車椅子に乗せている。色や素材に配慮し、部屋を明るくするようなデザインにしたという。筆者はこちらで上田氏を相手に移乗介助を初めて試したが、難なくこなせた(写真:筆者が撮影)
リフトアシストジーンズの原型となった移乗機能付き座イスの「リフティピーヴォ」(赤色のもの)。写真では車椅子に乗せている。色や素材に配慮し、部屋を明るくするようなデザインにしたという。筆者はこちらで上田氏を相手に移乗介助を初めて試したが、難なくこなせた(写真:筆者が撮影)
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 今後は種類を増やす方向で、スラックスタイプを開発中です。特に強く要望されたのは、ヘルパー派遣会社を経営されている安藤信哉さんです(記事の最後にミニインタビューを掲載)。安藤さんはリフトアシストジーンズのユーザーでもあり、公的な場でお話をすることが多いためです。

 気温が高いアジア地域向けに半ズボンタイプを用意し、提供していきます。香港でこのリフトアシストジーンズを出展したところ、非常に好評でした。アジアに販路が確保できれば、このリフトアシストの可能性が広がりそうです。