介護の機能をライフスタイルの中に置く

介護用品はいかにも機能性重視というイメージがありますが、それを押し付けるのは健常者やいわゆる現役世代の発想なのでしょうね。以前、「車椅子の方が、出かけるときのスニーカー選びにこだわっている」という話を聞いて、先入観を持っていたことに気付かされました。

上田 ジーンズを作業着ではなくファッションとして履き始めた世代がこれから後期高齢者に突入しますので、ジーンズ製品のニーズは高まっていくと思っています。

 AUNではライフスタイルを提案することをコンセプトにしており、介護用品を介護という枠に押し込めず、生活の中に溶け込むシンプルな製品を意識しています。「介護する側、される側を格好で区別しない」と言い換えることもできます。

 介護用品というといかにもなデザインになりがちですし、しかも介護というと何か特定の目的のために、専用の製品を個別に用意するケースが多い。ところがそのような介護製品に囲まれた生活は、うれしい気持ちになるとは言いにくいように思います。

 このAUNブランドの製品は、あくまで生活の延長線上に置くという考え方で開発しています。その1つの切り口が、ジーンズというわけです。

 リフトアシストジーンズを開発したきっかけは、父親の病気でした。父を車椅子に乗せるとどうしてもずり落ちてしまうことが多く、母親が古いジーンズを加工して布で椅子に固定できるようにしたのです。あくまで急場しのぎの策でしたが、それで出かけると「おしゃれですね」と声をかけられ、父がうれしそうだったのが印象的でした。

 車椅子を使う生活になっても、優れたデザインのファッションを身につけることができたら、明るい気分になれる。おしゃれで快適、ワクワクしたユニバーサルデザインのファッションを市場に送り出せば、これからの高齢化社会をもっと明るくできるんじゃないかと考えています。

「服が活動の幅を広げる」

頚椎損傷を乗り越えてヘルパー派遣会社の経営者として活動している安藤信哉氏は、リフトアシストジーンズのユーザーである。全国を車椅子で移動しながら、医療・福祉に関する啓発活動や意見交換活動を行っている。安藤氏に感想を聞いた。

安藤信哉(あんどう・しんや)氏
安藤信哉(あんどう・しんや)氏
パーソナルアシスタント町田取締役。神奈川県出身。18歳の時、交通事故により頸椎損傷の重度障害者となり、車椅子での生活が始まる。2001年に関東学院大学大学院修士課程を修了。03年、まちだ在宅障がい者「チェーン」の会の代表となり、積極的な障害者活動を行う。著書に『事故ル!18歳からの車いすライフ」(幻冬舎ルネッサンス)がある(写真は安藤氏提供)
[画像のクリックで別ページへ]

 一言でいうと、リフトアシストジーンズの使い勝手はとてもいい。私は頚椎損傷により手足が動かない。自宅では移動リフトを使っているが、仕事柄出張に出ることも多く、外出先でこのジーンズがとても重宝する。ヘルパーさんの腰の負担が大きく軽減するし、私自身、移動時に体に服が食い込むこともない。また、見た目も格好いい。まるきりジーンズで、“福祉っぽい”感じがしないところがとても気に入っている。

 今AUNの上田氏にお願いしてデザインしてもらっているのがスラックスタイプである。仕事柄、講演会などで人の前に出ることが多く、スラックスタイプのほうがありがたいためだ。

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて、日本全国でバリアフリー化の動きがさらに盛んになってきている。障害者向けのインフラが整ってきているのは非常にありがたいことだが、障害者が外に出て活動するうえで、服というのは見逃せないポイント。ジーンズタイプはもちろん、スラックスタイプが出てくれば、障害者の就労参加はもっと進むことだろう。

(タイトル部のImage:エナジーフロントの提供)