2020年8月に開業した訪問診療専門の「心越クリニック」。コロナ禍のまっただ中に「走りながら開業した」と理事長の岩間洋亮医師はいう。なぜ敢えてこの時期なのか、その答えを探すため、岩間氏の1日に密着した。

 品川区東五反田。昭和の匂いを残すマンションの一室に心越クリニックはある。呼び鈴を押すと理事長の岩間洋亮氏自ら迎えてくれた。

リハビリテーション科医の岩間洋亮医師(写真:末並 俊司)

 クリニックとはいえ、訪問診療が専門だ。患者が来院することは原則ない。中は普通のマンションの作りだ。特に病院らしくリフォームされているわけでもない。フローリングのダイニングキッチンの奥に6畳の和室。ふすまが外された押入れには薬や医療機器が整理されている。

 キッチンのテーブルでは、医療事務の女性がパソコンの画面を睨みながら何やらデータを打ち込んでいる。岩間医師はその日訪問が決まっている患者のリストを見て、必要な薬剤や医療機器をバッグに詰める。

 訪問診療は通常、医師と看護師がペアになり、患者の待つ自宅や施設に訪問する。岩間医師はリハビリテーション科専門医だ。病気やケガで身体機能が低下した患者に、病気の治療だけでなく、生活のためのリハビリ指導も行う。だから訪問でペアを組むのは看護師ではなく嚥下リハビリなどの専門家である言語聴覚士(ST)だ。同クリニック所属のST関壮一郎氏も出発前の準備に余念がない。

 訪問診療は多くの場合、訪問診療車を使うので、クリニックには専門のドライバーも所属している。出発の時間になり、ドライバーの沢田さんが玄関から顔を覗かせた。

 「先生、そろそろ出かけますよ」

 「おっと、もうこんな時間か」

 岩間医師はバッグを抱えて立ち上がった。