DNA(デオキシリボ核酸)から塩基配列を写し取ってタンパク質を作る役割を持つメッセンジャーRNA(mRNA)を、標的細胞に届けて病気を根本的に治す創薬技術が注目されている。東京医科歯科大学生体材料工学研究所教授の位高啓史氏とバイオベンチャー・アキュルナの秋永士朗氏が、その最新の研究成果を、昨年12月13日に川崎市で開かれた第6回COINSシンポジウムで報告した。

 秋永氏が代表取締役を務めるアキュルナ(東京都文京区)は、東京⼤学特任教授の⽚岡⼀則氏(川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター センター長)らを中心に開発された核酸医薬のナノDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)技術の社会実装を目的に、2015年に設立された企業だ。 現在、siRNAなどの核酸医薬とともに、mRNAを用いた医薬品開発を位高氏らと行っている。

 秋永氏はまず、mRNA医薬に関わる世界の研究開発動向を解説。Moderna、CureVac、BioNTechといった3大バイオテク企業が世界のmRNA医薬開発をリードしており、中でも昨年、新規株式公開(IPO)したModernaは2兆円の企業価値を見積もられたという。アストラゼネカやGSKといった製薬企業も独自の技術でmRNA医薬の開発に取り組んでおり、「mRNA医薬は我が国ではほとんど無視されているが、決してマイナーな医薬品ではない」と強調した。

 mRNA医薬は、体内に直接投与して、mRNAによってコードされたタンパク質をターゲットとする細胞で発現させることにより治療効果をもたらす。通常の遺伝子治療のように核に入れる必要がないため、ゲノムを変異させるリスクがなく安全性に優れるとされる。ただ、mRNAそのものを体内に投与してもすぐ分解されたり、免疫によって排除されてしまう。そのため、DDS技術が不可欠となる。多くの企業では、DDSとして脂質ナノ粒子(LNP)やポリマー粒子が主に用いられている。 アキュルナでは、⽚岡氏らが開発したナノスケールの高分子ミセルを主に用いてmRNA医薬の開発を進めている。

アキュルナ代表取締役の秋永氏(写真:Beyond Health、以下同)

 秋永氏は、海外では既に20種類以上のmRNA医薬が臨床試験段階に入っていると紹介。例えば、アストラゼネカによる、VEGFなどの成長因子のmRNAを用いた心疾患治療薬は第2相の段階にある。インフルエンザやサイトメガロウイルス感染症などに対するワクチンにmRNAを用いる研究開発も進んでおり、Modernaのものは第3相に入っているという。