人体に安全な光や超音波などのエネルギーを医療機器を使って患部にピンポイントで照射し、そこで薬剤を活性化させ、手術せずにがんを根治させる「ケミカルサージェリー」の開発が進んでいる。東京工業大学科学技術創成研究院教授の西山伸宏氏と東京女子医科大学先端生命医科学研究所教授の村垣善浩氏が、その最新の研究成果を、昨年12月13日に川崎市で開催された第6回COINSシンポジウムで発表した(関連記事:mRNA医薬の可能性に注目集まる)

 外科手術はがん治療における第一選択だが、体への侵襲性や術後のQOL(生活の質)低下、入院に伴う医療コストの増大や就業制限といった課題がある。今回報告された、医療機器と薬剤を組み合わせた技術はケミカルサージェリーとも呼ばれ、低侵襲で入院不要の新しいがん治療法として注目されている。加えて、一般の抗がん剤治療で大きな課題となっている正常細胞への影響による副作用も、ナノマシンに薬剤を内包させて標的細胞に特異的、かつ十分量送達するDDS(ドラッグ・デリバリー・システム)により解決可能だ。

 こうしたメリットを持つ「薬剤×医療機器」による低侵襲治療法として、西山氏はナノ粒子(高分子ミセル)を用いた「光線力学療法」と「ホウ素中性子捕捉療法」の研究開発動向を紹介した。

 一般的な光線力学療法(photodynamic therapy:PDT)では、ポルフィリンなどに代表される光増感剤を投与して、患部に対して光を照射することで光増感剤から一重項酸素などの活性酸素を発生させて患部の細胞を破壊し死滅させる。西山氏らが開発した技術は、腫瘍血管に非常に強く結合することが知られている環状RGDペプチドを付けた光増感剤をナノミセルに組み込み、それを静脈注射し、光を当てるというものだ。

東京工業大学科学技術創成研究院教授の西山氏(左)と東京女子医科大学先端生命医科学研究所教授の村垣氏(写真:Beyond Health、以下同)

 光線を使ったがん治療法では、楽天メディカルが臨床試験を進める、抗体に光増感剤をつける光免疫療法も注目されている(関連記事:[緊急インタビュー] 楽天・三木谷氏が懸けた「光免疫療法」とは)。しかし、この方法ではがん抗原がないと使えず、腫瘍と血液中の抗体濃度比が低いと正常細胞がダメージを受けるリスクがある。これに対してナノミセルを使う方法では、「ミセルの大きさを自由に設計できるため、腎代謝しやすい大きさにすることで血中の貯留を抑えられ、がん細胞での濃度を上げることが可能。光過敏症などの副作用も抑制できる」と西山氏は説明する。実際、動物モデルを用いた研究では、環状RGDペプチドを付けたミセルでは癌細胞に集積し、顕著な抗腫瘍効果が認められたという。