「生理前になるとだるくて、やる気が出ない」「旅行中、予定外に生理が来てしまった」など、女性なら誰でも月経周期に振り回された経験を持つのでは。妊娠を望む、あるいは避妊したいといった場合にも、月経周期が問題となる。つまり、月経周期についての正しい知識や情報は、女性が「自分らしい生活や人生」を送る上で不可欠といえるが、驚くべきことに「月経周期に関する医学的な知見」は60年前からアップデートされていないのだという。

 こうした背景があり、国立成育医療研究センター分子内分泌研究部室長の鳴海覚志氏、同社会医学研究部室長の森崎菜穂氏らは、女性の健康情報サービス「ルナルナ」を手掛けるエムティーアイと共同で調査研究を進め、1月23日に記者説明会を開いてその解析結果を発表した。

国立成育医療研究センター分子内分泌研究部室長の鳴海氏(写真:Beyond Health、以下同)
国立成育医療研究センター分子内分泌研究部室長の鳴海氏(写真:Beyond Health、以下同)
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 2000年にKDDIのau公式サイトとしてサービスを開始した「ルナルナ」。そのインストール数は、延べ1400万に上るという。アプリを使って月経周期、基礎体温、服薬などの管理ができるほか、「自分の基礎体温を入力すると排卵日を予測してくれる」といったサービスも受けられる。今回の解析は、ルナルナユーザーの32万人、トータル600万周期をソースにした、世界でも類を見ない大掛かりなものだ。

 鳴海氏は冒頭、解析動機について「日本人女性は、25〜38日の月経周期だと正常と判断される。ただし、根拠とされるのは1962年に約1万6000周期分を解析したときの古いデータ。現代にも当てはまるのか疑問に思い、合わせて日本人女性の周期の全体像を把握したいと考えた」と説明。季節、居住地、年齢のそれぞれと月経周期との関連について解析し、結果を視覚的にも捉えやすいヒストグラム(縦軸に頻度、横軸に周期日数)で表した(図1)。

<b>図1●月経周期と季節の関係</b> 季節は日本人女性の月経周期にほとんど影響がない(出所:2020年1月23日付、国立成育医療研究センター・エムティーアイによるプレスリリース、図2~4とも)
図1●月経周期と季節の関係 季節は日本人女性の月経周期にほとんど影響がない(出所:2020年1月23日付、国立成育医療研究センター・エムティーアイによるプレスリリース、図2~4とも)
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一度周期が短くなって長くなる傾向が浮き彫りに

 今回の共同研究の結果、季節や居住地については、月経周期に一切、影響しないことが分かった(図1、2)。「特定の季節にしか繁殖しない動物が少なくなく、ウマは春から夏だけ仔を産む。ヒトにもその名残があるのかと思ったが、そうではなかった」と鳴海氏。居住地についても、南北に長い日本では日照時間がかなり異なるものの、地域に関係なく(たとえば北海道でも東京でも沖縄でも)、ヒストグラムはほぼ同一になった。

<b>図2●月経周期と居住地の関係</b> 日本人女性の月経周期は居住地による影響はほとんど受けない。
図2●月経周期と居住地の関係 日本人女性の月経周期は居住地による影響はほとんど受けない。
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 一方で、年代ごとの月経周期にはかなり大きな違いがあり、それぞれの年代に特異的な興味深い傾向が見られた(図3)。10代では周期が短めで、頻発月経とされる割合が多かった。

<b>図3●月経周期と年齢の関係</b> 20代から30代にかけて月経周期が連続的に変化。
図3●月経周期と年齢の関係 20代から30代にかけて月経周期が連続的に変化。
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 ただし、個人ごとの周期のばらつきが大きいのも特徴。20代に入ると周期が長くなり、25~29歳で最長に達した。また、頻発月経の割合が減る、個人ごとのばらつきが小さくなるなどの傾向が見られた。30代以降45歳ごろまでは、周期が約3日短くなる傾向にあることも分かった(図4)。つまり、「年代によって、正常とされる周期の範囲に入る割合が変化することが明らかになったといえる」(鳴海氏)。 

<b>図4●月経周期の平均値は25歳ごろに最も長くなり、その後45歳にかけて3日間平均値が短くなる</b>
図4●月経周期の平均値は25歳ごろに最も長くなり、その後45歳にかけて3日間平均値が短くなる
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 20代後半から50代にかけて、一度周期が短くなった後で長くなるメカニズムについては不明とのことだが、「欧米では、年代によって卵胞期(月経終了から排卵までの期間)の長さが変化するとの報告がある。今回の変化も、視床下部を起点とする内分泌系の年齢的な変化を捉えているのではないかと思う」と鳴海氏はコメントした。

心の状態と月経や妊娠についての調査も開始

 研究チームは、新たにルナルナのユーザーに協力を呼びかけ、日々の心の状態が月経や妊娠に影響しているかどうかの調査解析を始めるとしている。合意を得たユーザーに、基礎体温、月経周期、心の状態を調べるアンケート(隔月)の情報を匿名で送ってもらい、解析結果を「女性が活躍しやすく子どもを産みやすい社会のありかた」を考えるために役立てるのが狙いだ。

国立成育医療研究センター社会医学研究部の三瓶氏
国立成育医療研究センター社会医学研究部の三瓶氏
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 国立成育医療研究センター社会医学研究部の三瓶舞紀子氏は、「協力者には妊娠希望モードか避妊希望モードかを選んでもらい、2年の予定で情報を寄せていただくことになる。それぞれ1万人ずつのデータ収集を目指すが、人数が多いほど研究精度が高まるので、この機会にぜひ協力いただきたい」と話す。

 会場に同席したエムティーアイ執行役員でルナルナ事業部長の日根麻綾氏は、「弊社のAIチームでも、女性が自身の健康管理に役立てられるアルゴリズムやプログラム開発を進めているが、基礎研究については、今回のように専門家と共同で行っている」とコメントした。

 少子化や不妊、人材不足などの問題を背景に、一生を通じた女性の総合的ケアが重要視され始めている。もちろん、女性だけでなく、男性、企業、自治体などの協力も必須といえる。今回の成果や試みも、社会全体で女性のケアを考えるための一助になることを期待したい。

(タイトル部のイメージ:monsitj -stock.adobe.com)