日本ケアテック協会の主催で2021年1月21日に東京都内で行われた介護事業所とケアテック企業などをつなぐマッチングイベント。第2部には、現場を運営しながらテクノロジーやサービス開発を進める介護事業所が登壇した(前編はこちら)。他の介護事業所やテック企業、地方自治体、福祉関係者など対し、自分たちの取り組みをアピールし連携先を募ったプレゼンの様子を以下、順に見ていこう。

●ポラリス

 ポラリス(兵庫県宝塚市)は2002年の設立以来、「自立支援特化型」の通所介護(デイサービス)を理念に掲げ、特に「歩行能力」の改善・維持に力を入れてきた。代表取締役社長の森剛士氏は、もともと心臓外科医だったが、祖母の脳梗塞を機にリハビリ医に転身。2001年に、リハビリがメーンの森クリニックを宝塚市に開業すると、医療ではできないことを介護で行うため、翌年ポラリスを設立した。現在、フランチャイズを含めて全国70カ所近くの通所介護事業所を展開する。

 「自立支援で高齢者を元気にする」がポラリスの経営理念。「歩けない」「1人で生活できない」といった課題の解決に向け、専用の機器を用いた「パワーリハビリテーション」を中心とした機能訓練を行い、歩行機能や体力の改善を目指す。

 パワーリハビリは、低負荷で全身をバランスよく活性化させる運動を繰り返し行う。「人は歩かなくなると歩けなくなる」と森氏。そのため、老化や、入院・手術、疾患などによって歩くことを“忘れてしまった”体に、歩く練習によってもう一度歩く技能を身につけさせるべく、低負荷反復運動を行っているというわけだ。

 他にも、自立を支援するために、科学的根拠に基づき、水分摂取や食事管理、排泄ケアなどに気を配り、身体機能に加え、意欲や自信の向上を促している。

 利用者の最終的な目標として掲げるのは、介護保険からの「卒業」。結果を残しており、データ分析を始めた2013年以降、介護保険の適用から脱した人は700人近くに上るという。

 ポラリスの自立支援ノウハウに対しては、他の業界からも熱い視線が注がれ、いくつも協業案件が生まれている。例えば、パナソニックとは、2018年2月に業務提携し、AIを用いてリハビリ効果を高める取り組みを開始。ポラリスのリハビリプログラムによる運動機能改善事例を分析して、自立支援につながる最適なリハビリ計画やケアプランをAIが自動作成するプロジェクトが進行中だ。既に実装済みで、高クオリティで各利用者に合わせた個別リハビリのプランを一般スタッフでも作成できるようになっている。

 お寺やホテルとの協業も進む。昨年8月には、三重県津市の塔世山四天王寺に通所介護施設を新設。単なるデイサービスではなく、お寺ならではのサービスを融合し、禅脳を導入した自立支援介護、精進料理を取り入れた食生活の支援などを行う。この新たな取り組みは、コミュニティの中心としてのお寺の役割を復活させたいとの思いを持つ住職が声をかけたことがきっかけになったという。

 ホテルに関しては、昨年10月に大阪市北区のリーガロイヤルホテル、12月に長崎県佐世保市にあるハウステンボス内のホテルヨーロッパで、それぞれポラリスとタッグを組む形で、歩行機能回復などのリハビリ支援を受けられる新プランの売り出しを開始した(関連記事:「ホテルリハビリ」登場――車椅子でチェックイン、歩いてチェックアウト)。コロナ下で宿泊需要が落ち込む中、リハビリ施設に通いづらくなっている高齢者のニーズを見込む。

 以上を紹介した上で「介護は従来のお世話型ではなく、できる限り自立支援に向けて効率的で無駄のないケアを目指すべき」とまとめた森氏。「これからも様々な業界からの協業提案を積極的に受けていきたい」と力を込めた。

ポラリス代表取締役社長、医療法人社団オーロラ会理事長の森 剛士氏
ポラリス代表取締役社長、医療法人社団オーロラ会理事長の森 剛士氏
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●アカリエ

 横浜市神奈川区に本社を置くアカリエは2013年から訪問介護、居宅介護支援、総合福祉支援のサービスを手掛けてきた。それらの介護事業に加え、現在、同社の柱となっているのがIT事業。会社設立時より人手不足に悩まされる中、これを業界全体の課題ととらえて、自社でIT人材を積極採用し、介護職員の採用活動の効率化や離職対策のプロジェクトを進め、複数の製品化にこぎつけた。

 同社の看板商品は「HRモンスター」。採用活動の自動化を実現するプラットフォームで、日程調整業務から24時間対応業務、応募者管理、スカウト機能(自社HPに訪れた人への自動メール配信)、データの転記業務など、様々な業務を担う。チャットボットの仕組みを使い、入社前に実際の業務シーンなどをいくつか投影させ、入社後の仕事内容を再現するといった機能も備えている。その意図として、代表取締役社長の高橋健一氏は「自社に対する理解を深めると同時に、入社後のアンマッチを防ぐ狙いがある」と明かす。

 HRモンスターを開発したのは、「介護従事者が本来やるべき業務に集中できるようにするため。そして仕事にもっとワクワクを届けたい」と高橋氏は語る。

 2021年8月にはIT事業のさらなる充実を図るため、同社の開発システム部門を分社化して、robottte(ロボテ)を立ち上げた。現在、HRモンスターを導入する介護事業所数は2300カ所に上る。

 HRモンスターの今後の展開としては、「対応領域の拡大を進めたい」と高橋氏。選考系のみならず、総務系や営業系、研修系の機能も持たせるイメージだ。

 今回のプレゼンで高橋氏は、HRモンスターの導入を希望する介護事業所に対し、通常1カ月の無料トライアルを3カ月にすることを約束。加えて、介護事業所ならびにテック企業などから、この機能を付加してほしいとか、自社のこのサービスと連携できるようにしてほしいという提案があれば、「お気軽に話をさせてほしい」と呼びかけた。

アカリエ/robottte代表取締役社長の高橋健一氏
アカリエ/robottte代表取締役社長の高橋健一氏
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●社会福祉法人藤野園

 群馬県藤岡市にある社会福祉法人藤野園は、養護老人ホームと軽費老人ホームの組み合わせに、訪問介護事業所、居宅介護支援事業所を運営する、職員数30人ほどの小規模法人だ。

 法人本部長の大嶋茂氏によると、「とにかく使えるお金がない」。だが、必要なものは欲しいので、「『DIY福祉』を進めてきた」という。自分で何かを作ったり修繕したりするのがDIY。「(人手もお金も)無い無い尽くしの解決策は一つ。無いものは作る、作る知識がなければそれを習得すること」と大嶋氏。本当に何が必要かを吟味し、施設の課題を解決するために作るので、「痒いところに手が届くオーダーメイドなものができあがる」とメリットを語る。

 もともと趣味が木工だった大嶋氏。脱衣所の限られたスペースを最大限生かした長椅子を作ってみたり、木工旋盤を使って湯呑みの蓋を作ったりといった取り組みから始め、今では様々なテクノロジーも活用しながら、システムや機器の開発を進めている。

 例えば、Raspberry Pi やGoogle ドライブを活用し、ほぼすべての文書をデータとしてクラウド上に保存し、職員間で共有することでペーパーレス化を実現。2年前には3Dプリンターを購入し、映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場するロボット、「R2-D2」を実寸大で製作し、施設内を巡回して見守る機能を持たせた。公開されているCAD(コンピューターによる設計)データを使い、製作には1年半を要したという。

 今後の課題として大嶋氏は、プログラミング言語の「Python」をもっと習得する、CADの製作スピードをアップする、クラウド上のファイルを自動ソートしてくれるスクリプトを探すといったことを掲げており、手助けしてくれる企業などからの提案を呼びかけた。同時に、「こんな試作品を使ってみてほしいとか、製品企画の段階での持ち込みもwelcomeで、協業していいものをつくりあげていければ」と結んだ。

社会福祉法人藤野園法人本部長の大嶋茂氏
社会福祉法人藤野園法人本部長の大嶋茂氏
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(タイトル部のImage:monsitj -stock.adobe.com)