患者は情報弱者で、自身で治療方針を決めるのは難しい──。我が国の医療現場ではまだ一般的かもしれないこうした見方は「医療者の誤解」であり、医師と患者が同じ目線で検討や最終決定に関わることは十分に可能である。そんな「シェアード・ディシジョン・メイキング(共同意思決定)」と呼ばれる考え方が、海外から日本にじわじわと広がりつつある。

 米国医療機器・IVD工業会(AMDD)は1月27日に、「医療現場におけるシェアード・ディシジョン・メイキングの実践」と題したメディア向けレクチャーを都内で開催し、この分野を専門とする医師らが、医師と患者の関係性の変化について講演した。

「医療者は誤解していた」

 最初に登壇したのは、群馬大学大学院医学系研究科 医療の質・安全学講座教授の小松康宏氏。もともと腎臓内科で透析医療に携わってきたが、医療安全に関わるようになり、患者との関係性が変わる現状を認識するようになったという。同氏はまず、米ハーバード大学公衆衛生学教授のアトゥール・ガワンデ氏による次の言葉を、医師と患者の関係の変化を示すものとして紹介した。

 「医療者は医学の仕事を誤って理解していた。我々の仕事は健康と生存期間延長を目指すものと考えてきた。しかし、本当のところ、それ以上のものである。ウェルビーイング(well-being)を可能とすることであり、ウェルビーイングこそ、私たちが生きたいと願う理由である」

群馬大学大学院医学系研究科 医療の質・安全学講座教授の小松氏(写真:Beyond Health、以下同)

 ウェルビーイングとは、健康にとどまらず、生きる幸福感も含めた幅広いよりよい生き方を示す概念。小松氏は、「医療を提供するときに、血圧やコレステロールなどの異常値、がんの生存率を改善することに目がいきがちだが、患者がどういう人生を歩みたいかを重視すべき時代に変わっている」と言う。患者の希望によっては、必ずしも強い治療を行っていくことが正解とは限らないという考え方に通じる。

 小松氏によると、21世紀の医療の中心的な概念は「患者中心のケア」「患者家族参加」「共同意思決定」だという。およそ20年前に、医療現場で医療者が「患者様」という呼び名を使うようになったが、当時の考え方とは違うものだ。小松氏は、「患者中心という考え方が患者の要求を通すことだと受け止められていたのは誤解。患者にとって大事なことを目指すことが重要。医療に患者も参加して、患者が何を大事にしているかに目を向けて、一緒に医療に取り組む姿勢が大切」と強調した。