現在も世界を翻弄する新型コロナウイルス(COVID-19)。医療現場が大きな打撃を受けたのはもちろん、世界各地で実施されたロックダウンなどから、一般の医療体制や健康管理も影響を受けた。とは言っても、必ずしも悪影響ばかりではない。世界では新型コロナ流行前後で約20%の人が医療アクセスの改善を実感している。鍵を握るのはオンライン診療に代表される医療テクノロジー(以下、デジタルヘルス)の活用だ。過去1年以内に健康管理についてデジタル技術を使ったという人は世界では約60%にも上る。

 一方、日本でコロナ流行前後での医療アクセスの改善を実感する人はわずか6%。健康管理についてデジタル技術を使ったという人も37%にとどまる。その内訳を見ると、特にオンライン診療を受けた人はわずか7%、電子健康記録は9%、ウエアラブル技術は9%と、世界平均の半分にも及ばない。日常管理から診療まで、日本はデジタルヘルスで大幅に遅れている──。

 そんな調査結果を、コンサルティング大手のアクセンチュアが「ヘルスケアに対する意識・行動に関するグローバル調査~日本のデジタルヘルスの進展に向けた課題と方向性~」として発表した。2021年6月に14カ国1万2000人を対象に実施したインターネット調査の結果をまとめたもので、日本の回答者は約800人だった。そこで明らかになったのが、日本は各国に比べてデジタルヘルス利用意向者の割合が低く、利用経験者の割合も低いという特徴だった。

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アクセンチュアが実施した調査結果より。日本ではデジタルヘルスの利用が遅れており、医療アクセスの向上を感じている人は少ない(出所:アクセンチュア)
アクセンチュアが実施した調査結果より。日本ではデジタルヘルスの利用が遅れており、医療アクセスの向上を感じている人は少ない(出所:アクセンチュア)
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 その理由の一つとして挙げられたのが、日本人が健康管理にデジタル技術を使う上で、データの安全性やプライバシーに対する信頼性を重視しているにもかかわらず、第三者が個人のヘルスケアデータを安全に管理することに対する信頼度が世界平均に比べて全般的に低い点だ。「『かかりつけの医療提供者(医師、病院など)』に対する信頼度は23%と他国(世界平均41%)よりも低く、『現地または国の政府』への信頼度は6%しかない(同18%)」(アクセンチュア ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ マネジング・ディレクターの藤井篤之氏)。

 さらにAI(人工知能)活用に対する不安感も高く、AIによる「診断支援」に不安がある人は46%(世界平均は33%)、AIによる「カルテ記載補助」に不安がある人は35%(同25%)だった。「安心感をどう持ってもらうかが普及の課題と認識している」(藤井氏)。

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日本ではデータの安全性やプライバシーに対する信頼性が重視される一方、第三者が個人のヘルスケアデータを管理することに対する信頼度が低く、AI活用に対する不安感も高い(出所:アクセンチュア)
日本ではデータの安全性やプライバシーに対する信頼性が重視される一方、第三者が個人のヘルスケアデータを管理することに対する信頼度が低く、AI活用に対する不安感も高い(出所:アクセンチュア)
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 日本の医療制度や環境にも原因はありそうだ。米国や英国など、デジタルヘルスが進展する国々は、患者がそれぞれプライマリケア医(GP、ゲートキーパー)を登録し専門医療を受ける際はGPが患者を専門医に紹介する「ゲートキーパー型」医療制度を採用している場合が多い。これに対して、日本は診療機関へのアクセスが容易な「フリーアクセス型」になっており、患者が受診先を選ぶ形になっている。

 「病院アクセスが良いために、年間患者1人当たりの受診回数はOECD加盟国平均の約2倍。デジタルヘルスを活用して健康状態を把握するのではなく、すぐ“先生に会いに行く”。しかも、電子カルテの普及率も47%と海外に比べて低く、医薬品開発でもRWD(Real World Data)を用いた臨床試験数で世界との差が開いており、データを活用して医療・治療の質を向上するという流れにつながっていない。

 連携するデータも特定健診と薬剤情報のみ。シンガポールなどでは連携が進む、要介護認定情報・介護ケアデータや個人健康データなどとの連携も、日本では調査・検討段階に留まる」(アクセンチュア 執行役員 ビジネス コンサルティング本部 ストラテジーグループ日本統括 兼 ライフサイエンス プラクティス日本統括 石川雅崇氏)。

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電子カルテの普及率は低く、データの利用も進んでいない日本。連携するデータも医療分野に限定され、保険や介護まで広がっていないのが現状だ(出所:アクセンチュア)
電子カルテの普及率は低く、データの利用も進んでいない日本。連携するデータも医療分野に限定され、保険や介護まで広がっていないのが現状だ(出所:アクセンチュア)
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 石川氏は、日本では患者が受診先を選択でき、慢性疾患でも管理を専門医に依頼できるという高水準の医療制度が仇となり、受診先が分からずに待ち時間の長い大病院に行ってしまう初診患者と専門医師のミスマッチや、慢性疾患管理ニーズの高さに対する治療遵守率の低さなどの課題が生じているとみる。問診AIやウエアラブルデバイス、在宅検査など、近年急速に進化する医療デジタル化は、こうした課題の解決に欠かせない。