経済産業省が主催する「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト2021」(JHeC2021)の最終審査会が2021年1月28日、東京都内で開催された。コロナ禍の中、登壇者や審査員などを除き無観客での開催となり、一部の登壇者はリモートでプレゼンテーションに参加した(関連記事:[速報] 経産省ヘルスケアビジコン、6代目グランプリが決定)。

 前々回から新設されたアイデアコンテスト部門では、前回からグランプリが選ばれるようになった。今回の最終審査会では、2020年10月に実施された一次プレゼン審査を通過した5組がプレゼンテーションを実施。グランプリは、失われた声を取り戻すデバイス「Syrinx」を開発するSyrinxの竹内雅樹氏が受賞した。

アイデアコンテスト部門のグランプリは、失われた声を取り戻すデバイス「Syrinx」を開発するSyrinxの竹内雅樹氏(写真:寺田 拓真、以下同)

 栄冠に輝いた竹内氏は、Syrinxの現状を「まだアイデア段階であり、ビジネスはこれから」と説明。そんな状況にあってグランプリを獲得できたことは「今後の発展に大きく寄与するものと捉え、さらなる応援をお願いしたい」と訴えて感謝の言葉とした。

 アイデアコンテスト部門の最終審査会に登壇したのは、グランプリの竹内氏のほかに西新井ハートセンターの重城健太郎氏、COVIDVENTILATOR PROJECTの石北直之氏、Tomocloudの小川良磨氏、国際医療福祉大学成田病院の瀧澤玲央氏。以降では、これら5組のプレゼンテーションの詳細を登壇順に伝えていく。

●Syrinx 竹内雅樹氏

 竹内氏は、喉頭摘出者団体「銀鈴会」の協力を得ながら、失われた声を取り戻すデバイス「Syrinx」を開発している。従来、声を失った人たちは「電気式人工喉頭(EL)」と呼ばれるデバイスを喉に当て、振動音を口パクで言葉にして発声してきた。しかし、ELは単一周波数の振動しか生成できないことから「誰が使っても同様の無機質な機械音声しか出せない」(竹内氏)など、利用者にはさまざまな不満があった。

竹内雅樹氏

 Syrinxは、振動パターンに工夫を加えることで「人に近い振動音を再現できる」(竹内氏)のが大きな特徴だ。実際の人の録音データと独自アルゴリズムを組み合わせて振動パターンを作成しており、声を失った人が「過去の自分の声を取り戻して話せる」と竹内氏は説明する。さらに、公共の場で利用しても悪目立ちしないデザイン性もポイントとなっており、デバイスカバーの交換によるカラーカスタマイズにも対応する。

 販売にあたって、まずは2023年からの2年間で、国内の喉頭摘出者の50%にあたる1万5000人への普及を目指す。さらに、2025年からは海外販売も開始する予定だ。また、Syrinxは口や舌を動かせば誰でも利用できることから、竹内氏は「喉頭がん以外のがん患者やALS患者への活用にまで広がれば、潜在ユーザーは世界で140万人にのぼる」と補足した。

●西新井ハートセンター 医師 重城健太郎氏

 重城氏は、WITHコロナ時代でも陽圧呼吸療法ができるパーソナル陰圧マスク「CoroPAP」を紹介した。

重城健太郎氏

 そもそも、急性心不全などの心疾患がある新型コロナウイルス感染者は、ない人と比べて「院内死亡率が約4倍高まる」(重城氏)。また、急性心不全の患者には迅速な呼吸サポートが求められるが、従来はノドに管を入れる「気管内挿管」より、簡単なマスク装着で一定の効果が見込める「CPAP(持続陽圧呼吸療法)」の方が多かった。しかし、CPAPのマスクでは「エアロゾル」がリークする可能性があることから、コロナ禍ではCPAPを使用できない状況に陥ってしまった。この問題を解決すべく、「リークを抑えるCPAP」として生まれたのがCoroPAPである。

 CoroPAPは、頭部全体を覆うことでエアロゾルを防止する。また、緊急時には顎下にあるジッパーを開けることで、素早く脱着できるようになっている。マスク内圧測定検査で「CPAPと同等の陽圧」(重城氏)を確認するとともに、エアロゾルのリーク確認テストも実施済みだ。

 CoroPAPの需要については、感染症にとどまらず「睡眠時無呼吸症候群」の患者も見込んでいる。睡眠時無呼吸症候群の患者は10~20%がフィッティング不良で脱落するため、重城氏は「そのような患者にも有用」と考える。今後は早期の医療機器登録を実現し、2021年の早い段階での市場投入を目指す。

●COVIDVENTILATOR PROJECT 石北直之氏

 石北氏は、3Dプリントが可能な人工呼吸器を開発する「#O24U - COVIDVENTILATOR PROJECT」から生まれた「?VENT」について語った。石北氏は、設計図データと3D プリンタがあれば「世界中どこででも人工呼吸器を製造できる」ということに2013年から着目し、その研究プロジェクトではすでに宇宙ステーションでの製造・動作に成功している。

石北直之氏

 その研究技術を開放し、3Dプリンタを活用できれば「世界中に人工呼吸器を普及できる」と考えて#O24Uを立ち上げた石北氏。当初は「データを無償公開すれば、あとは勝手に広まる」と考えていたそうだ。しかし、実際には低品質な造形や改造品の混入が重大な医療事故のリスクになることから、厳格な「品質管理」が求められることがわかった。

 さらに、人工呼吸器はクラスIIIの高度管理医療機器に該当し、各国における薬事認証申請が必要となるほか、製造者認可も課せられる。研究開発や申請には多額の費用も必要となることから、石北氏は「研究や申請に必要な資金を調達し、各国の承認申請をクリアする方針に転換した」とこれまでの経緯を説明する。

 「?VENT」として開発する製品は3つある。あらゆる場所での分散型製造が可能な「3Dプリントモデル」、より高精度で使い捨ての「金型整形樹脂モデル」、圧力と空気流速の設定値をスマホ画面に表示する「アプリ」である。デバイスとスマホを連動させることで「精密な呼吸管理を実現する」(石北氏)。

●Tomocloud 小川良磨氏

 Tomocloudは、ポータブル電気CTスキャン「LTモニタ(リンパ浮腫トモグラフィックモニタ)」の開発を進めている。リンパ浮腫は、乳がんや婦人科がん手術後の約3人に1人が発症する後遺症である。手足が腫れてしまう病気で、症状が進むと手の施しようがなくなるため「見放された後遺症」(小川氏)とも呼ばれている。しかし、従来の経験と勘に頼った「古典的な診断手法では、早期発見や重症化予防ができない」(小川氏)ことから、画像による客観的な早期診断を実現するLTモニタの開発をスタートした。

小川良磨氏

 LTモニタのコア技術となるのが、電気を使った独自の画像化診断技術「EIT(電気インピーダンストモグラフィー)」である。リンパ液は異なる電気特性を持っているため、「体内のわずかな電気化学的変化をとらえることで、リンパ浮腫を診断する」(小川氏)。利用にあたっては、ポータブルなウェアラブルセンサーを患者の腕や足に巻き、クラウド連携やEITによって測定場所の断面をリアルタイムに画像化する。

 製品展開はまず、医療機関向け「LTモニタPro」と個人使用を想定したセルフケア向け「LTモニタLite」をリリースする。LTモニタProは「3D+時間」の診断が特徴で、断面の画像だけでなく時間軸での流れも確認することで、「ステージ判断」「原因特定」「将来リスク予測」などを可能にする。LTモニタLiteは、患者によるモニタリングや自己管理を実現する。

●国際医療福祉大学成田病院 血管外科 医学部助教 瀧澤玲央氏

 瀧澤氏は現在、「バイオミメティクスを応用した血管内留置カテーテルの開発」を手掛けている。瀧澤氏によれば、人工血管やカテーテルなどの人工物には「常に感染のリスクがある」とともに、従来の感染対応法では「根本的な解決にならない」という課題がある。そこで「バイオミメティクス(生物模倣)」に着目し、カテーテルの「構造自体を変更することで感染を防げないか」と考えた。

瀧澤玲央氏

 最初に目を付けたバイオミメティクスは、ミクロの構造が抗菌作用を生み出す「鮫肌構造」である。さらに、瀧澤氏が現在もっとも興味を示しているのが、セミやトンボの羽に見られる「ナノピラー構造」である。こちらも、鮫肌構造と同様に「抗菌作用がある」と発表されている。

 瀧澤氏が実際にナノピラー構造を人工的に模倣して作ってみたところ、抗菌作用とともにカテーテルに有益な「超撥水」の効果もあったという。また「大腸菌を死滅させる」ほか、「人体の細胞には悪影響を及ぼさない」といったことも確認できたそうだ。そしてこれらの結果から、この技術を応用すれば「理論上、感染しないカテーテルの製造は可能」と確信した。

 ただし、開発においては「さまざまな素材での検証」や「安全性・抗菌効果判定の検証」などが、課題として挙げられる。しかし瀧澤氏は、技術を確立できれば「感染リスクの回避や医療コストの削減、他の医療品への応用などが可能になる」と訴えた。

(タイトル部のImage:寺田 拓真)