COI東北拠点は2021年2月9日、「未来社会のライフスタイルと“食”の健康イノベーション~ヘルスケアの未来に向けた取り組みと今後~」と銘打つシンポジウムをオンラインで開催した。本記事では、同シンポジウムにおける基調報告の様子をレポートする。

 基調報告では、「COI東北拠点の推進するBUB体制と「食」を通じたイノベーションの実現」と題し、COI東北拠点 副拠点長 研究統括(RL)で東北大学 産学連携機構 特任教授の末永智一氏と、COI東北拠点 拠点長 プロジェクト統括(PL)でフォーネスライフ チーフテクノロジーオフィサー、NECソリューションイノベータ プロフェッショナルフェローの和賀巌氏が登壇。末永氏がCOI東北拠点の概要などを説明し、和賀氏がCOI東北拠点の取り組みなどについて語った。

柱は日常のさりげないセンシングによる「日常人間ドック」

 前半に登壇した末永氏は、まずCOI東北拠点について紹介した。COI東北拠点は「自分と大切なひとのために」をモットーとしており、「センサー技術やIoT、AIを活用し、自助と共助をベースとした健康社会を作る」ことも目標としている。

COI東北拠点 副拠点長 研究統括(RL) 東北大学 産学連携機構 特任教授の末永智一氏(写真:オンライン画面キャプチャー、以下同)

 そのための柱となるのが、日常のさりげないセンシングによる「日常人間ドック」である。さまざまなセンサーを使って健康状態をさりげなく計測し、そのデータを解析して「異常を見つけ出したり、その結果をわかりやすい形で自分や親しい人と共有したりできる」(末永氏)ような技術開発をこれまで進めてきた。さらに末永氏は、それらのデータを活用して「我々自身や社会が変わることが重要だ」と説いた。

 実際、COI東北拠点では「頻繁にバックキャストに取り組んでいる」(末永氏)。例えば、昨今のコロナ禍においては「アフターコロナの時代がどうなるか」に着目し、人や社会の変化、デジタルトランスフォーメーションのあり方などについて考えたそうだ。そして、アフターコロナの社会は「分散型健康生産社会」になるだろうと結論付けた。従来は病院を中心にした集約型で健康を見守るシステムだったが、これからは「在宅で医者や医療関係者の助言を受けながら、自分で自分の健康を見守るようなシステムになる」と末永氏は説明する。

新拠点として「未来社会健康デザイン拠点」を設立

 社会実装については、COI東北拠点は9年間のプロジェクトで3年ごとにフェースを区切っており、フェーズ1では基盤的な研究、フェーズ2では応用研究や実用化研究に取り組んできた。そして、2019年から開始したフェーズ3では、大学をプラットフォームとして複数企業が参画する「BUB(Business to University to Business)体制」での社会実装を進めてきた。BUBはテーマごとに分かれており、例えば「食事BUB」「運動BUB」「旅行BUB」「鏡時間BUB」「暮らしBUB」などがある。

BUB企業群テーマ

 例えば、カゴメとオムロン ヘルスケアが中心となっている食事BUBは、オムロン ヘルスケアが開発した尿中のナトカリセンサーを用いた減塩指導を宮城県登米市で実施。「1万人以上の住民の血圧が低下した」(末永氏)という結果が得られており、全国展開も視野に入れている。また、カゴメはナトカリ比を正常に保つための食事提案をしており、この試みは厚生労働省の大規模実証事業に採択された。

 一方で、COI拠点間連携による研究推進にも取り組んでいる。具体的には「弘前大学COIが実施する岩木健康増進プロジェクト健診への参加」「旅行BUBにおける東京藝術大学COIとの連携」「データ標準化をテーマとするシンポジウムの東京大学COIとの共催」などがある。そのほか、ポストCOIに向けた取り組みとしては「若手育成」「病院連携」「メンバーシップ体制の構築」などについても触れた。

 このように、COI東北拠点はさまざまな活動に取り組んでおり、末永氏は「多くの成果が出してきた」と自負する。また、残り1年余りの活動となるCOI東北拠点は、この成果を次のステップにつなげるべく、新たな拠点として「未来社会健康デザイン拠点」を2021年4月1日に設立する予定だ。新拠点は「COI東北拠点がこれまで培ってきたさまざまな財産を引き継ぐとともに、各大学との連携も継続していく」(末永氏)という。

 なお、末永氏によれば、新拠点でも“食”にフォーカスしたBUBは「重要な検討課題」となるそうだ。センシング技術を活用した「食事・健康」の見える化などを進めることで、「新たな研究展開や社会実装が新拠点から発信される」との考えを示した。

これが「食」イノベーションの3つのトピック

 後半は和賀氏が登壇し、COI東北拠点が推進するライフスタイルと「食」のイノベーションについて説明した。和賀氏が1つ目のトピックとして挙げたのは「COVID-19と生活習慣」である。

COI東北拠点 拠点長 プロジェクト統括(PL) フォーネスライフ チーフテクノロジーオフィサー NECソリューションイノベータ プロフェッショナルフェローの和賀巌氏

 COVID-19によってさまざまな変化が起きているなか、ヘルスケアにおいては「COVID-19の重症化と基礎疾患の課題」が見えてきた。実際、以前も基礎疾患のある人はインフルエンザでの死亡率が高かったが、COVID-19でも循環器系疾患や糖尿病、いくつかのがんといった多くの慢性疾患の関連がわかってきている。しかし和賀氏によれば、「これらの慢性疾患の約80%は、ライフスタイルを変えることで回避できる」という論文があるとのこと。そこでCOI東北拠点はその実現に向け、日常人間ドックをさまざまな形で進化させている。

 例えば、精製糖質や塩分摂取の課題、うつや孤独による病、マイクロバイオームの破綻などを問題点として捉え、「我々のライフスタイルの中には、これらが健康に対する落とし穴として存在する」と指摘する。さらに、ある大規模調査によると、世界のどの地域でも「精製された炭水化物や甘いジュース、加工された肉などは、テロメア(細胞死と密接にかかわる染色体の末端構造)に悪い影響を与えるが、美味しいからつい食べてしまう」(和賀氏)そうだ。一方で、魚や低脂肪高品質なたんぱく質、野菜、果物、全粒穀物などには「薬効がある」ことから、和賀氏は「食はとても大事であり、日常人間ドックでもその点を重視する必要がある」と訴えた。

 2つ目に挙げたトピックは「海外フードテック革命」だ。コロナ禍では食のデリバリーなどの新しいビジネステックが増えているなか、「フードロスやパーソナライズされた栄養などに着目したビジネスモデルも多く登場している」(和賀氏)。

 参考事例としては、利用者のDNAを調べるとともにそれに最適なヘルスケアを提供する「DnaNudge」、利用者のDNAに基づく食品を提供するテイクアウトレストラン「Vita Mojo」、その日の体調に合わせたお茶をサブスクリプションで提供する「Lify Wellness」などを紹介。新しい解釈によって食にまつわるさまざまなビジネスが生まれることで、「世の中はもっと良くなっていく」と和賀氏は語った。

 そして、3つ目となる最後のトピックは「日常人間ドックとPDS」である。COI東北拠点は日常人間ドックにおいて「自助と共助のビジネスをエコシステムで立ち上げていく」(和賀氏)考えだ。例えば、食事管理・ダイエットアプリ「あすけん」を開発・運営するaskenはCOI東北拠点と連携していることから、拠点内でフードテックが広がる一助となっている。そんななか、和賀氏がaskenに続く企業として挙げるのが、血液ビックデータ検査サービスを開始したフォーネスライフだ。

フォーネスライフによる血液ビッグデータの活用イメージ

 フォーネスライフは、東北大学の協力のもと「いまの血液から4年以内で脳梗塞や心筋梗塞などで倒れるリスク」を予測するシステムを開発。ここで得らえた血液のビックデータを活用することで、心筋梗塞のモデルでは「4年以内に70%がイベントを起こす“グループ10”の人々が、4年間安心して暮らせる“グループ1”になる」ような食事介入(あるいは運動、睡眠も含む)を目指している。

 さらに、このシステムは「COVID-19で重症化する人を見つけられる」(和賀氏)ことも確認できたそうだ。これを実用化できれば、「あらかじめ重症化する人は病院でケアし、そうでない人は在宅にするといった対応も可能になる」と補足した。

(タイトル部のImage:monsitj -stock.adobe.com)