COI東北拠点は2021年2月9日、「未来社会のライフスタイルと“食”の健康イノベーション~ヘルスケアの未来に向けた取り組みと今後~」と銘打つシンポジウムをオンラインで開催した。本記事では、同シンポジウムにおける基調講演の様子をレポートする。

 基調講演には、カゴメ 代表取締役社長の山口聡氏が登壇。「健康寿命を延ばす ~『野菜の会社』に向けたカゴメの活動~」と題して、野菜に関連するカゴメのさまざまな取り組みを紹介した。

カゴメ 代表取締役社長の山口聡氏(写真:オンライン画面キャプチャー、以下同)
カゴメ 代表取締役社長の山口聡氏(写真:オンライン画面キャプチャー、以下同)
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 カゴメは、2025年までに「トマトの会社から野菜の会社に」という長期ビジョンを掲げている。山口氏は「野菜を美味しく上手に摂る方法や、野菜の機能性価値を世の中に広め、野菜の摂取量を増やすことで健康寿命の延伸に貢献する企業になる」と説明する。

 この長期ビジョンの実現に向けて、カゴメは「日本人の1日の野菜摂取量を350gに、緑黄色野菜の供給量シェアを20%にする」という定量指標(2025年)を定めている。そもそも、日本人における野菜摂取量の平均値の年次推移(20歳以上)は「この10年ほとんど変わることなく290g前後で推移している」(山口氏)。そして、この状況を変えるためには「生活者の食に対する行動変容をサポートする必要がある」と山口氏は指摘する。

日本人の野菜摂取量の平均値の年次推移(20歳以上)(出所:カゴメ、以下同)
日本人の野菜摂取量の平均値の年次推移(20歳以上)(出所:カゴメ、以下同)
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「ベジチェック」の有用性を示すエビデンスを獲得していく

 野菜の摂取量を増やす活動としては、キャンペーンを統合して情報発信を強化する「マーケティング」と、アカデミアと連携して技術的なイノベーションやエビデンスを創出していく「アカデミア/イノベーション」の2つを進めている。山口氏は、この2つが両輪となり「相乗的に効果を上げていくことが重要だ」とする。

カゴメが取り組む「野菜の摂取量」を増やす活動
カゴメが取り組む「野菜の摂取量」を増やす活動
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 前者のマーケティングでは、2020年1月から野菜摂取推進活動「野菜をとろうキャンペーン」を展開している。このキャンペーンでは「野菜をとろう、あと60g」というスローガンをキーメッセージとし、メディアを通じた情報発信やスーパーなどでの店頭活動を行っている。さらに、この提案に賛同した19の企業・団体と連携した情報発信を展開するほか、2021年はさらに力を入れてキャンペーンを継続するとともに、行動変容のステージモデルを意識した「自覚」「理解」「行動」に分解した啓発や施策を展開する予定だ。

 後者のアカデミア/イノベーションついては、取り組みの1つに弘前大学COIと連携する「ベジチェック」がある。ベジチェックは「手のひらでセンサーに触れると、数十秒で野菜の推定摂取量を推定できる」(山口氏)という仕組みで、ドイツのBiozoom sevices社と共同で開発。野菜の色素成分であるカロテノイドは皮膚にも蓄積することから、皮膚のカロテノイド量を測定するBiozoom sevices社のセンサー技術とカゴメが蓄積してきたデータを組み合わせることで、「野菜摂取レベル」や「推定野菜摂取量」を表示できる。

 さらに、ベジチェックを弘前大学COIの岩木健康増進プロジェクト健診に持ち込み、ベジチェックの測定値と生活習慣や健康状態の関係について研究している。この研究では「ベジチェックで測定した野菜摂取レベルが高い人は、メタボの指標が健康的」という結果も出ており、さまざまなデータ解析を進めることで「ベジチェックの有用性を示すエビデンスを獲得していく」と山口氏は説明した。また、これらの研究成果も踏まえ、弘前大学COIが事業化を進める新健康チェック・啓発プログラム「QOL健診」にベジチェックが採用されたことから、そこでの実装・検証も進めている。

簡単な尿検査のナトカリ比の測定が可能に

 もう1つ、アカデミア/イノベーションに関する取り組みとして、COI東北拠点と連携した「ナトカリ」がある。塩と野菜の摂取バランスを示す、ナトリウム・カリウムの比のことだ。

 このナトカリ比を「食に対する行動変容をサポートする新たな指標にしていきたい」と山口氏は語る。例えば、「ナトカリ比が高いと血圧などに悪影響がある」という研究が多数あることから、高血圧の予防のためにナトカリ比を下げるアプローチとしては「減塩(ナトリウムを減らす)だけでなく、野菜(カリウム)を多く摂ることも有効ではないか」(山口氏)と提案する。現在は、オムロン ヘルスケアによって簡単な尿検査でのナトカリ比の測定が可能になったことから、「今後、ナトカリ比が身近な指標になってほしい」と山口氏は願う。

 カゴメとしては、ナトカリ比とその指標に基づいて食行動を変える仕組みの普及を、COI東北拠点で進めている。その取り組みの1つとなるのが、縦軸をナトリウム量、横軸をカリウム量とした表にさまざまなメニューを配置した「ナトカリマップ」の作製である。ナトカリ比が高いメニューや低いメニューを視覚的にわかりやすくすることで、食に対する行動変容をサポートしている。また、ナトカリ比を改善する「食の提案」の実証も実施しており、これらのナトカリの取り組みは「厚生労働省の大規模実証事業にも採択された」(山口氏)。

ナトカリマップのイメージ
ナトカリマップのイメージ
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 最後に山口氏は、「カゴメは野菜のチカラで、皆様の健康な毎日に貢献する」とし、あと60gの野菜摂取量を増やす活動に「本気で取り組んでいく」考えだ。ただし、その実現は簡単ではなく、カゴメのみでできることも限られていることから、「この活動をより大きなムーブメントにしていくために、多くの企業や団体とさらに連携を深めていく」として講演を終えた。

(タイトル部のImage:monsitj -stock.adobe.com)