慢性中耳炎などを患い破れてしまった鼓膜は、その穴が小さい場合には自然に塞がるが、穴が大きくなるとうまく塞がらないことがある。日本では、高齢者を中心に難聴に悩む人は100万人近く存在するとみられており、毎年2〜3万人近くが聴力を取り戻すために、破れた鼓膜を塞ぐ手術を受けている。こうした状況が、ある耳鼻咽喉科医が発明した治療法により一変するかもしれない。

 その治療法とは、鼓膜再生の“足場”としてゼラチンスポンジにb-FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)を含浸させ、これを鼓膜欠損部に留置して組織接着剤(フィブリン糊)で固定するというもの。足場のゼラチンスポンジは生体内で徐々に加水分解されて消失していく一方で、b-FGFが徐放され、鼓膜の修復を促進する仕組みだ(図1)。

図1●鼓膜再生療法の流れ(出所:田附興風会医学研究所北野病院ホームページ「鼓膜穿孔に対する鼓膜再生療法」)

 田附興風会医学研究所北野病院(大阪市北区)耳鼻咽喉科・頭頸部外科主任部長の金丸眞一氏が考案したもので、神戸医療産業都市推進機構医療イノベーション推進センター(TRI)の支援の下、京都大学医学部附属病院や慶応義塾大学病院などで、鼓膜穿孔患者を対象にした医師主導治験が行われた。その結果、有効性と安全性が確認されたことからノーベルファーマが2018年9月に製造販売承認申請を行い、2019年9月に「鼓膜穿孔」の効能・効果で承認され、「リティンパ耳鼻科用250μgセット」の商品名で11月に保険適用となった。薬価は3262点(3万2620円)、手術手技料として1580点(1万58000円)が付いている。

慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科教授の小川氏(写真:Beyond Health)

 2月13日にノーベルファーマが都内で開催したメディア向け講演会で、金丸氏のほか、開発に携わった慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科教授の小川郁氏が登壇し、「長い間、難聴を治すための新しい薬が出てこなかった。難聴や耳鳴りは治療が難しい分野だった。今回、日本発の新薬が出てきたのは画期的」と意義を強調した。