新型コロナウイルスの感染の沈静化が見えない中、ウイルスをいかにコントロールするか、政府ばかりではなく、企業も研究機関も知恵を絞る日々が続く。2月27日、 一般社団法人レジリエンスジャパン推進協議会(会長:三井住友海上火災保険常任顧問の江頭敏明氏)は新型肺炎対策緊急提言とオリンピック・パラリンピックに向けた感染症対策「STOP感染症2020フォーラム」を開催。新型コロナウイルス感染症をはじめ新興感染症の発生・拡大に対して国や企業、国民がどのように取り組むべきかを示す「7つの提言」を発表した。

 同協議会は、安倍晋三首相が本部長を務める国土強靱化推進本部によって決定された「国土強靱化基本計画」(2014年6月閣議決定)に基づき、国土強靱化(ナショナル・レジリエンス)につながる施策を進めていく企業や研究機関などによる一般社団法人。STOP感染症2020戦略会議はそのワーキンググループの1つとして、昨今ボーダレス化して脅威となっている様々な感染症を未然に防ぐためのソリューション提言を行うことを目的に3年前に設立された。

感染症は災害そのもの

 フォーラムでは、STOP感染症2020戦略会議の座長を務める東北医科薬科大学特任教授の賀来満夫氏が「感染症対策7つの提言」について説明した。同協議会は去る2月10日に、新型肺炎対策について「STOP感染症・7つの約束」として、普段の生活で心掛けるべきポイントを発表している(関連記事:新型肺炎予防の鍵は「新生活習慣」「持続除菌」)。今回は、政策や施策まで国の体制に関して求められる対応について整理した。

感染症対策7つの提言
    1.医療体制、専門家対策チーム体制、意思決定系統などの見直し
    2.感染症検査体制・検疫体制の拡大と仕組みの再構築
    3.平時も利用可能な「医療コンテナ」の導入
    4.有事処方制度の導入と平時からの情報システムの構築
    5.あらゆるセクター、業界、企業における感染症BCP策定およびテレワークの加速度的な導入促進
    6.学校、職場、公共交通機関、イベントなどマスギャザリングにおける環境消毒習慣の実行と徹底
    7.国民一人一人が「7つの約束」の実行と遵守を

 まず、「医療体制、専門家対策チーム体制、意思決定系統などの見直し」。感染症を取り巻く環境として、人ばかりではなく、動物や環境も含めて「One Health」と見なす必要があると説明。グローバル化やボーダレス化で世界に感染症が広がり、人だけ見ていても不十分になっている。「災害そのものであり、社会全体がゆがむ状況になっている」と話した。新型コロナウイルスの問題点についても指摘。「感染源が特定されていないことから終息したとしても再び起こる可能性がある。海鮮市場で起きたとされているが、最初は市場で発生したわけではない。動物を処分して解決するかも分からない」と述べた。

「医療コンテナ」の整備を

 さらに、新型コロナウイルスについて分かっていないこととして、定着性や病原性、伝搬性などがあるとした。「上気道にも下気道にも、腸管の中にもいく。環境の中でどれくらい定着するか分かっていない。大阪で先日に陽性となった人が再び陽性になる。持続感染があるかもしれない。病原性もよく分かっていない。免疫系のサイトカインストームなども不明だ。伝搬も接触だと思うが、飛沫感染、エアロゾルも言われている」

 「社会・組織・個人としての対応の在り方が問われる。総合的な感染症危機管理システムが必要」と賀来氏は強調。平時から感染症を意識し、非常時にシームレスに対応できるようにすることが大切であり、感染症学ばかりではなく、情報学、環境学、集中医療学、免疫医療学、リスクコミュニケーションを含めた対応が重要であるとして、政府にも求めていく考えを示した。ソフト面やハード面の両面での医療体制の構築が必要であり、既存の国立感染症研究所では職員数が圧倒的に少ないと述べ、日本版CDC(疾病対策センター)の設置も求めた。

東北医科薬科大学特任教授の賀来氏(写真:飯塚 寛之、以下同)
東北医科薬科大学特任教授の賀来氏(写真:飯塚 寛之、以下同)
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 「感染症検査体制・検疫体制の拡大と仕組みの再構築」に関しては、無症候感染者の特定ができないことや、保険の仕組みがなく持ち出しで検査をする必要があること、検査センターへの検体の輸送の問題、検査装置のメーカーやトレーナーのキャパシティーの問題などを挙げた。保険適用の条件による縛りのため新興感染症の検査がしづらいなど、平常時から検査の仕組みを維持できるコスト負担の仕組みも必要と提案した。

 続いて「平時も利用可能な『医療コンテナ』の導入」について言及。病院と隔離できて、感染リスクを低減でき、トリアージを院外でできて院内にウイルスを持ち込むリスクも減らせるなどの利点を挙げた。さらに港などで、感染症にかかった人とかかっていない人をグリーンゾーン、レッドゾーンで分ける対応がしやすくなると説明。X線やCTなどを搭載して診断能力を高められると説明した。院内の汚染も同様に避けられると指摘。「移動式で災害時にも有用だ」と説明した。

 「有事処方制度の導入と平時からの情報システムの構築」に関して、既存のお薬手帳では、ポリファーマシーの評価や処方優先度が明確ではなく、災害時などに必要な薬が使われずに病気を悪化させる恐れがあると指摘。マイナンバーやICT(情報通信技術)を使った電子お薬手帳を導入して、災害時も効果的な処方をできるようにすべきだとした。

学級閉鎖をゼロにする取り組みも

 「あらゆるセクター、業界、企業における感染症BCP策定およびテレワークの加速度的な導入促進」について賀来氏は、災害対策と同じように、感染症についても事業を継続していくための計画を取り決めておくBCP(business continuity plan:事業継続計画)が求められると説明。「テレワーク推進は、東京オリンピック・パラリンピック対策の一過性の取り組みに終わらせないことが重要」と話した。

 「学校、職場、公共交通機関、イベントなどマスギャザリングにおける環境消毒習慣の実行と徹底」に関しては、学校や職場など、多くの方が集まるマスギャザリングで環境消毒をするのが重要だが、必ずしもできていない課題があると説明。新しい除菌剤などの技術を使い、高効率に環境消毒をできる商品の周知も重要だと指摘した。

 最後の「国民一人一人が『7つの約束』の実行と遵守を」では、この2月に公表した7つの約束を守るのが重要だと説明した(関連記事)

STOP感染症・7つの約束
    約束1 正しく恐れる
    約束2 ウイルスや菌の顔と性格を知る
    約束3 “STOP感染「新生活習慣」”を作る
    約束4 最新の対策技術にも目を向け情報収集する
    約束5 喉元過ぎても熱さを忘れない
    約束6 新型肺炎以外の感染症にも目を向ける
    約束7 防災用品だけでなく、感染症対策用品も備蓄を!

 感染症を迎え撃つためのテクノロジーも重要になる。緊急の状況でのニーズに応える中で、平時には気づきにくい新しい価値が生まれてくる可能性もある。それはディスラプティブイノベーションの一つの形と言っていいかもしれない。今回のフォーラムでは、協議会が進めるワーキンググループの参加企業による研究報告も行われた。

富士フイルムメディカルシステム事業部統括マネージャーの阿部氏
富士フイルムメディカルシステム事業部統括マネージャーの阿部氏
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 富士フイルムメディカルシステム事業部統括マネージャーの阿部洋史氏は、エタノールを使い、銀イオンも配合した消毒液である「Hydro Ag+」による学校での感染対策研究について紹介。インフルエンザによる学級閉鎖を大幅に減らせる可能性を示した結果を説明した。開発の経緯は、銀イオンを含む写真フイルムが長期保存してもカビにくい特徴に着目したことだという。製品の塗布面に溶媒が付着。中で銀イオンが動き、銀イオンの膜が作られて抗菌性が出てくると解説した。

 阿部氏らは東海大学と共同で、神奈川県内の中学校において製品を使った消毒の試験を実施。学校で体が接触する場所の環境消毒を1日1回実施して、インフルエンザ患者や学級閉鎖の推移を確認した。看護の現場で、接触する場所を重点的に消毒する対応にならったものだ。全国的には30%のクラスで学級閉鎖があるのに対して、対策をした148のクラスの中で学級閉鎖したところはゼロだったと説明。患者数も対策をしていない前年は25%だったのに対し、10%程度に減ったと成果を話した。

紫外線照射で10秒以内に細菌やウイルスを死滅させる

 次に、ミヤリサン製薬事業戦略部長の高橋志達氏は、腸内細菌のバランスを整えることによる感染症防御の可能性について説明。同社は体に良い効果をもたらす微生物、プロバイオティクスとして酪酸菌を製造販売しており、腸内細菌の働きについて解説した。

ミヤリサン製薬事業戦略部長の高橋氏
ミヤリサン製薬事業戦略部長の高橋氏
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 近年、腸内細菌と様々な疾患との関連が徐々に明らかになってきている。感染性胃腸炎や炎症性腸疾患といった消化管の病気ばかりではなく、自閉症や多発性硬化症などの多様な疾患との関係が分かってきている。酪酸菌は腸内で酪酸という「短鎖脂肪酸」を作り出している。こうした短鎖脂肪酸は、体に取り込まれ、腸管粘膜のエネルギー源になるほか、水分吸収や腸管上皮細胞の増殖を促進したり、唾液腺からのIgA分泌を促して口腔や喉頭で抗ウイルス作用を発揮したり、制御性T細胞の増殖・活性化を促して炎症を抑えたりするなど多様な機能が分かっている。

 高橋氏は、免疫機能の活性化にもつながり、感染症防御にも効果を示す可能性があると説明した。平時から、腸内フローラを整えることで、災害時にも備えられるとした。感染症対策の一つとしてプロバイオティクスも大切になりそうだ。

エネフォレスト代表取締役の木原氏
エネフォレスト代表取締役の木原氏
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 最後に、エネフォレスト代表取締役の木原寿彦氏が、自社で開発販売している「エアロシールド(AEROSHIELD)」という紫外線による微生物除去装置について説明した。木原氏は、接触感染や飛沫感染は対策があるものの、空気感染は一般的な対策が難しいと指摘。ティッシュ箱くらいの大きさで3kgほどの装置を天井に設置すると、この中に室内で対流する空気を取り込み紫外線照射。10秒以内に細菌やウイルスを死滅させる。

 医療機関を中心に導入を進め、今では幼稚園や保育園、学校の給食センター、飲料工場、コールセンター、デパート、駅などに設置を増やしている。新型コロナウイルスの影響では、福岡県の中国駐福岡総領事館から依頼を受けて、ビザ申請の事務所に設置。「感染症対策はインフラである」と強調した。

 こうしたイノベーションによって感染症に強い社会を作っていくことになる。

(タイトル部のImage:飯塚 寛之)