高血圧と肥満が、人の寿命を最も短くしている要因である――。そんな研究成果を大阪大学大学院 医学系研究科 遺伝統計学 教授の岡田随象氏らのチームが明らかにした。2020年3月24日(日本時間)に、米国科学誌「Nature Medicine」オンライン版に掲載された。

 この研究は、日本と英国、フィンランドのバイオバンクが保有する合計70万人分のゲノム情報などを活用したもの。具体的には、肥満度や血圧、肝機能、腎機能などのバイオマーカーに関する「ポリジェニック・リスク・スコア(PRS)」と呼ぶ指標を計算。どのバイオマーカーに関するPRSが、人の寿命を伸ばしたり縮めたりする原因となっているかを調べた。PRSに関する研究としては「過去最大規模」と岡田氏は話す。

大阪大学大学院 医学系研究科 遺伝統計学 教授の岡田随象氏(写真:伊藤 瑳恵、以下同)

 これまでにも大規模なゲノム研究によって、ゲノム情報から病気の発症リスクをある程度予測できるようになってきていた。しかし、生まれたときに与えられたゲノム情報は変えることができないため、その結果を医療にどう生かしていくかが課題だった。

 そこで研究チームは、前述のように肥満度や血圧、肝機能、腎機能など環境因子や生活習慣の影響を大きく受けるバイオマーカーを研究の対象とした。今回は、数万~数百万の遺伝子変異の組み合わせをスコア化したPRSを用いて遺伝的リスクを予測した。

性や人種による違いも明らかに

 その結果、高血圧PRS(遺伝的に高血圧になるリスクが高いこと)が、現代人の寿命を大きく縮めていることが明らかになったという。特に、2型糖尿病や脳梗塞、脂質異常症の既往歴を持つ人はその影響が大きく、女性に比べて男性の方が強い相関関係を示すことも分かった。

 さらに、肥満PRS(遺伝的に肥満になるリスクが高いこと)も寿命を縮める強い要因であることが分かった。ただし、肥満PRSに関してはその影響力が人種によって異なる。今回比較した3カ国では、日本人よりも英国人やフィンランド人の方が寿命に与える影響が大きい。

 高血圧と肥満に次いで寿命を縮めている要因として明らかになったのは、高コレステロールや高身長、低血小板だという。病気の発症リスクに加えて、「PRSの新しい活用方法を示すことができた」と岡田氏は胸を張る。

 今回関連が示された高血圧や肥満、高コレステロールといったバイオマーカーは、寿命を決定する直接の原因となっている可能性が高いと研究チームは見る。そのため、こうしたバイオマーカーに関して「生活習慣の改善や治療などの介入を行うことで、寿命を延伸することが期待できる」と研究チームのメンバーである東京大学大学院 医学系研究科 アレルギー・リウマチ学 博士課程の坂上沙央里氏は話す。

東京大学大学院 医学系研究科 アレルギー・リウマチ学 博士課程の坂上沙央里氏

これまで分からなかった因果関係を担保

 実は今回の研究では、ゲノム情報を使うことによって、従来の医学研究の課題を解決している。

 これまで、どのような因子が寿命の長さや生活の質(QOL)などの健康アウトカムに影響を及ぼしているのかを明らかにするために多くの医学研究が行われてきた。原因を特定できれば、医療的な介入によって健康アウトカムを改善できる可能性があるからだ。

 代表的な研究手法として、バイオマーカーと健康アウトカムを直接比較する観察研究が挙げられる。肥満度やコレステロール値などの測定値と、その時点での健康状態に何らかの相関関係があるかどうかを調べる手法である。

 しかし観察研究では、測定値と健康アウトカムに相関関係が認められたとしても、因果関係を特定することが難しかった。例えば、肥満度と寿命の相関関係を調べると、「痩せている人ほど短命である」という結果が得られる。ただし、痩せていたせいで短命なのか、何らかの病気になったために寿命が短くなってしまった上に痩せたのかのかは特定できない──といった具合だ。このように、どちらが原因で、どちらが結果なのかが分からないことが課題だった。

 それに対して、今回着目したゲノム情報は生まれたときから変わらないため、因果関係が担保される。つまり、今回開発した手法を使えば、「寿命に関わるとされてきたバイオマーカーのうち、どれが正しいのか判断できる可能性がある」と岡田氏は期待する。実際、これまで寿命に関連する指標とされていた血清中のたんぱく質であるアルブミンについて調べたところ、アルブミンに関する遺伝情報と寿命には因果関係がないことが明らかになったという。

 研究チームは今後、世界で収集されているゲノム情報や臨床情報を使って、多様なバイオマーカーや臨床データ、人種集団と照らし合わせていきたいとしている。今回開発した手法を使って、個人の健康リスクを正確に予測し、医療によって改善できる課題を見つけることに活用していきたい考えだ。

(タイトル部のImage:伊藤 瑳恵)