国立国際医療研究センター(東京都新宿区、略称:NCGM)は3月23日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗ウイルス薬レムデシビル(Remdesivir)の治療効果を調べる医師主導治験に着手すると発表した。米国立衛生研究所(NIH)が主導する国際多施設共同治験にNCGMも参加する。COVID-19患者が世界的に増える中で、抗ウイルス薬による治療を模索する動きが活発化している。

50代以上から高まる致死率

国立国際医療研究センター理事長の國土氏(写真:Beyond Health、以下同)

 発表では、まずNCGM理事長の國土典宏氏が、NCGMが今年1月以降COVID-19への対応に当たっている状況を紹介した。その中で、2019年8月までアフリカのコンゴでのエボラ出血熱流行時に使われたレムデシビルがCOVID-19に有効である可能性が示され、治験に着手することになったと説明した。

 続いてNCGM国際感染症センター長の大曲貴夫氏が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染し肺炎を起こした患者の胸部X線画像を示し、その特徴について触れた。

 提示したのは60代男性の胸部X線画像で、当初はかぜ症状だったが、1週間で容体が悪化。悪化から1日ほどで画像は真っ白になり炎症が急速に広がった。人工呼吸器に加え、人工心肺も使用。この男性は一命を取り留めたものの、救命が困難であるケースもあると指摘。急がれるのは、標準的な治療の確立だと強調した。中国でのデータによると、年齢別では50代以上で特に致死率が高まっていると解説した(図1)。40代以下は、致命率が0.4%以下だが、50代は致死率が1.3%と上昇。60代で3.6%、70代で8%、80代で14.8%と上昇する。大曲氏は「これまでに喫煙率や血圧が高いことと亡くなるリスクが関係すると分かってきた」と話す。

図1●年齢別に見た新型コロナウイルス感染症の致死率 (NCGMメディア勉強会配布資料より、原典:JAMA. Published online February 24, 2020.)

培養細胞による研究から効果に注目

 現在、救命手段として酸素吸入が行われているが、いかにウイルス増殖を抑えるかが重要になる。現在までに様々な候補薬剤の使用が検証されている。例えば、抗HIV(ヒト免疫不全ウイルス)薬でプロテアーゼ合成阻害薬のロピナビル・リトナビル(商品名カレトラ)のほか、急性膵炎に使われるセリンプロテアーゼ阻害薬のナファモスタットやカモスタット、新型インフルエンザ治療薬であるファビピラビル(アビガン)、吸入ステロイドのシクレソニド(オルベスコ)、そしてRNA(リボ核酸)ウイルスの増殖を抑えるレムデシビル。抗マラリア薬のヒドロキシクロロキン、RNA合成を抑えるリバビリン、免疫機能を高めるインターフェロンも検討されている。

 今後、研究によってどれが有効であるのか見極めが進むことになる。日本では4薬剤の研究が進む。上記のカレトラ、アビガン、シクレソニド、レムデシビル。治療データを登録することに加えて、プラセボ(偽薬)などと比べて、治療効果が確かに存在するのかを見極めるのは重要だ。作用機序などから効果を示すと考えられても、死亡率の低下をはじめとした効果に本当につながるのかは、科学的に証明する必要がある。思わぬ副作用により、むしろ有害である可能性もある。

国立国際医療研究センター国際感染症センター長の大曲氏

 今回、治験への着手が発表されたレムデシビルは、SARS-CoV-2の感染した培養細胞を使って行われた基礎研究から効果を発揮する可能性が示されている。「EC50」(50%効果濃度:薬の効果が最低値から最大値までの半分の値を示す濃度)に基づき、とりわけ低用量でウイルス増殖を抑えられそうだと分かったからだ。安全性のデータとしてエボラウイルスへの使用実績、薬理効果から投与する妥当性もあり、治験の計画に進んだ。2019年8月までアフリカのコンゴでエボラ出血熱が発生した際に、フィロウイルスと呼ばれる一本鎖RNAウイルスの1つ、エボラウイルスに実際に使われていた。大曲氏は、「モノクローナル抗体を使った治療の方が効果があるとされたが、人に使われて安全性が確認されたのが重要」と説明した。

 なお、レムデシビルは、米ギリアド・サイエンシズ社が保有する薬剤。ウイルスの持つRNA産生を減らす。ウイルスにはRNAウイルスとDNA(デオキシリボ核酸)ウイルスがあり、それぞれRNAとDNAという塩基がつながる構造だ。RNAウイルス、DNAウイルスのいずれも1本の塩基鎖からなるものと、2本の塩基鎖からなるものがある。レムデシビルは、一本鎖のRNAウイルスへの効果が確認された。一本鎖RNAウイルスには、呼吸器疾患の原因として知られるRSウイルスや、発熱などを特徴とするラッサ熱の病原体ラッサウイルス、ニパウイルスなどがあり、コロナウイルスもここに当てはまる。

ランダム化比較試験で否定された候補薬も

 今回NIHが主導する国際共同医師主導治験は、米国や日本のほか、韓国やシンガポールなどの医療機関も参加し、最終的に440人の被験者を集める計画。今後、より効果的な治療法が出てきた場合に、レムデシビルがその薬の比較対照になる可能性もある「アダプティブ」という方式を取る。

 治験の主要評価項目は、投与から15日後の臨床状態により表1のような8段階の順序尺度で評価される。

表1●レムデシビルに関する国際共同医師主導治験の主要評価項目
    ・死亡
    ・入院、侵襲的機械的人工換気又はESMOの使用
    ・入院、非侵襲的人工的喚気又は高流量酸素装置の使用
    ・入院、酸素補給が必要
    ・入院、酸素補給が不要─治療の継続は必要(COVID-19関連またはそれ以外)
    ・入院、酸素補給が不要─治療の継続も不要
    ・入院なし、活動の制限及び/又は自宅での酸素療法が必要
    ・入院なし、活動に制限なし

 被験者として選択する基準としては、COVID-19の症状があって入院している人で、採取された口頭咽頭のスワブを使ったPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査でSARS-CoV-2の感染が確定された人など、条件が設定されている。人工呼吸が必要などの理由で別病院への搬送が予定されるなど被験者から除外される条件も設定される。

 被験者はランダムに2つのグループに分けられて、実薬群にはレミデシビル、対照群にはプラセボが投与される。最長で10日間にわたって投与が行われる。大曲氏は、「標準治療は定まっていない現状で、プラセボと比べて効果を確認することは重要。薬が効きそうだからと、治療を不用意に使うことは患者を不利益にさらしたりする可能性もある。標準治療を見極めることで、新しく薬が出ても評価できるようになる」とプラセボ対照比較試験を行う意義を強調した。

 NCGMの治療の考え方としては、肺炎の有無から、ない場合には喘息の薬であるシクレソニドの投与を実施。肺炎がある場合には、さらに治験適格性がある場合はレムデシビルの投与を実施。治験適格性がない場合は、ファビラビルとナファモスタットの併用が検討される。極めて重症と判断される場合は、救命治療が行われる。

 大曲氏によると、今後、100人が登録されたところで中間評価される予定で、試験が適切であるかなど検討されることになる。治験結果を踏まえた薬剤の承認申請などは開発元のギリアド社と調整することになる。

 COVID-19治療薬の臨床試験を巡っては、3月18日、権威ある医学誌『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』において、抗HIV薬のカレトラがCOVID-19に対して効果を示されなかったと報告された。99人がカレトラ群、100人が標準ケア群の2群にランダムに分け、臨床症状の改善までの時間を比べると差はないという結果になった。試験開始28日時点の死亡率は差がなく、ウイルスRNAの検出でも同様だった。薬が無効であると見る向きはあるが、大曲氏は「エンドポイントの設定には議論があり、致命率など傾向として差があるように見えるところも。治療をして肺炎を防ぐことは大事」など、臨床研究で議論すべき点は残るとみる。COVID-19 を巡って候補薬剤の効果検証は続くが、その結果は継続的に注目される。

(タイトル部のImage:monsitj -stock.adobe.com)