新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミック宣言から2週間。感染震源地の中国・武漢では終息に向かっているとされるものの、感染者が6万人を超えたイタリアでは医療崩壊が現実のものとなり、他の欧州各国や米国も「第2のイタリア」になることを恐れて厳戒態勢に入った。日本は「クラスター発生を細かく追跡する」という独自の手法で、急速な感染拡大を何とか食い止めている状態だ。

 猶予のない現状において、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンや治療薬の開発件数が加速度的に増えている。

 ワクチンについては、米Moderna社が手がけるmRNAワクチン(mRNA-1237)の第1相臨床試験が米ワシントン州シアトルで始まった(関連記事)。mRNAワクチンは、病原体の遺伝情報の一部をmRNA(メッセンジャーRNA)に置き換えてワクチンに仕立てたものだ。mRNA-1237を接種すると生体内でSARS-CoV-2のタンパク質の一部(スパイクタンパク)が作られ、SARS-CoV-2の抗体産生などが誘導されるという。第1相臨床試験では健常人45人を対象に、安全性と3種類の投与量による免疫反応が検証される。投与試験は約6週間だが、最初の試験結果は約3カ月後に出され、製品化までには少なくとも1年半はかかるとみられている。

 アンジェスと大阪大学が開発を表明したプラスミドDNAワクチンも、ほぼ同様の作用機序によるものと思われる(関連記事)。また、田辺三菱製薬はカナダにある子会社とともに、人工的に作らせたウイルス様粒子(VLP)を利用したワクチン開発を目指すとしている(表1)。

表1●新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン開発の現状
名称 内容 開発企業等 実施国 被験
者数
完了
予定
開発
段階
情報源
ワクチン mRNA-1273 接種後、体内でSARS-CoV-2のスパイクタンパク質を発現するように設計したmRNAワクチン Moderna(米) 米国 45 2021年6月 第1相 1)
2)
新型コロナウイルス向けプラスミド DNA ワクチン SARS-CoV-2のタンパク質をコードするプラスミドを利用したワクチン。ワクチン原薬は完成しているとのこと アンジェス、大阪大学 未定 未定 未定 非臨床試験 3)
植物由来ウイルス様粒子(VLP) SARS-CoV-2に対応した植物由来ウイルス様粒子(VLP)の作製に成功した 田辺三菱製薬、メディカゴ(カナダ) 未定 未定 未定 非臨床試験 4)
備考:データは、2020年3月24日現在のもの。米NIH Clinical Tsials.govのサイト、開発元や臨床試験実施機関のリリースを基に作成した。

COVID-19に対する治療薬の開発状況

 COVID-19に対する治療薬のトレンドは、既存薬の転用と新規開発に大別される。前者には、新型インフルエンザ治療薬のファビピラビル(商品名アビガン)、エボラ出血熱治療薬のレムデシビル(未承認のため商品名なし、関連記事)、抗マラリア・免疫調整薬のヒドロキシクロロキン(プラケニル)、喘息治療薬シクレソニド(オルベスコ)、抗リウマチ薬のトシリズマブ(アクテムラ)などが有力視されており、既に臨床試験に入ったものが少なくない。

 後者は、SARS-CoV-2を標的とする抗体医薬や核酸医薬が中心で、国内では武田薬品工業がSARS-CoV-2に対する免疫グロブリン製剤「TAK-888」の開発を始めると発表した。完成すれば、感染予防の薬としての使用も期待できるとのことだ。

 表2に、COVID-19に対する治療薬の開発状況をまとめた。

表2● 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する治療薬開発の現状
名称 内容 開発企業等 実施国 被験
者数
完了
予定
開発
段階
情報源
治療薬 トシリズマブ
(商品名アクテムラ)
IL-6シグナルを阻害する抗体医薬。主に関節リウマチで使われる 中外製薬、大阪大学、ロシュ(米) イタリア 330 2022年12月 第2相 5)
6)
サリルマブ
(ケブザラ)
IL-6シグナルを阻害する抗体医薬。主に関節リウマチで使われる リジェネロン(米)
サノフィ(仏)
米国 400 2021年3月 第2、3相 7)
レムデシビル
(GS-5734)
エボラウイルス、マールブルグウイルスなどをターゲットにした未承認の抗ウイルス薬 ギリアド・サイエンシズ(米) 米国、香港、韓国, シンガポール、台湾、日本 600 2020年5月 第3相 8)
9)
ロピナビル/リトナビル配合剤
(カレトラ)
HIVのプロテアーゼを阻害する薬 ロピナビル/リトナビル配合剤はアッヴィ(米) 中国 50 2020年4月 第4相(市販後臨床試験) 10)
UC-MSCs
(ヒト臍帯由来間葉系幹細胞)
詳細は不明。幹細胞の抗炎症効果や免疫抑制効果を期待? ZhiYong Peng(中国)、Tuohua Biological Technology(中国) 中国 10 2020年9月 第2相 11)
Huaier Granule アジュバント効果を期待したキノコ由来成分の薬剤。抗がん効果を持つとの報告も Tongji Hospital(中国) 中国 550 2020年9月 第2、3相 12)
PUL-042 Inhalation Solution 肺の上皮細胞などの自然免疫を活性化する吸入薬。成分にTLR(Toll様受容体)のリガンドなどが含まれる Pulmotect(米) 米国 100 2020年10月 第2相 13)
14)
CD24Fc 増結幹細胞治療後の移植片対宿主病(GVHD)の治療薬として開発中の薬剤 OncoImmune(米) 米国 230 2022年5月 第3相 15)
カリマイシン 抗結核薬の一つ   中国 520 2021年2月 第4相 16)
一酸化窒素 一酸化窒素を吸入することで、血管を拡張させ、呼吸不全の改善を期待したもの   中国 104 2022年3月 第2相 17)
ヒドロキシクロロキン
(プラケニル)
全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、マラリアなどに使われる免疫調整薬。成分が細胞内のリソソームに輸送され、抗原提示抑制、炎症抑制などの効果をもたらすとされる サノフィ(仏) ノルウェー 202 2025年3月 第4相 18)
テトランドリン カルシウムチャネルを阻害。エボラウイルスの感染抑制効果が報告されている。ハーブ抽出物由来 Jinhua(中国) 中国 60 2021年5月 第4相 19)
シクレソニド
(オルベスコ)
吸入ステロイド薬の一つ 帝人ファーマ 未定 未定 未定 第4相? 20)
ナファモスタット
(フサン)
セリンプロテアーゼ阻害薬の一つで、急性膵炎等に使われる。東京大学医科学研究所はSARS-CoV-2の外膜と細胞膜との融合を阻害することを見いだしたと報告 鳥居薬品 未定 未定 未定 第4相? 21)
ファビピラビル
(アビガン)
ウイルスの遺伝子複製酵素RNAポリメラーゼを阻害する抗インフルエンザ薬。同時に、抗HIV薬のロピナビル・リトナビル、レムデシビルを投与する試験を進めている アビガンは富士フイルム富山化学 日本     観察研究 22) 23)
TAK-888 SARS-CoV-2に対する免疫グロブリン製剤 武田薬品工業       今後開発に着手 24)
備考:備考:データは、2020年3月24日現在のもの。米NIH Clinical Tsials.govのサイト、開発元や臨床試験実施機関のリリースを基に作成した。

(タイトル部のImage:monsitj -stock.adobe.com)