がん検診の受診率を高めるため、さまざまな取り組みが行われている。例えば、がん検診の費用を会社が負担したり、申し込み方法を簡素化させたり、受診勧奨を行ったり──といった具合だ。厚生労働省の委託を受けた国家プロジェクトである「がん対策推進企業アクション」では、推進パートナーとなった企業・団体が、がん検診の受診率向上を目指している。

 各社が工夫を凝らす中、どのような取り組みが受診率の向上に寄与するのか。相関関係が高い取り組みを調べるため、キャンサースキャン 代表取締役社長の福吉潤氏らが調査を実施し、その結果を2022年3月4日に開催された「令和3年度 がん対策推進企業表彰式」で発表した(関連記事:治療と仕事の両立へ、企業のがん対策が続々

キャンサースキャン 代表取締役社長の福吉潤氏(写真:がん対策推進企業アクション事務局)
キャンサースキャン 代表取締役社長の福吉潤氏(写真:がん対策推進企業アクション事務局)
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 調査は、がん対策推進企業アクションに参加している推進パートナー企業・団体704社を対象に2021年12月にアンケート形式で行った。

 まず、アンケート調査で受診率を回答してくれた企業の5大がん検診の受診率を見てみると、胃癌や肺がんの検診受診率はそれぞれ62%、83%であるのに対し、子宮頸がんの検診受診率は46%と比較的低かった。他のがん検診は、対策型検診であれば40歳以上が主な対象者であるのに対し、子宮頸がん検診は20歳以上が対象者であることを考えると、「企業のほとんどの女性従業員にとって関係のある子宮頸がん検診の受診率向上が非常に重要になるのではないか」と福吉氏は指摘する。

 企業の規模ごとに検診受診率を見てみると、一見、企業規模が大きくなるほど、検診受診率が低くなる傾向が見られた。ただし、注意しなくてはいけないのが、必ずしも全ての企業が受診率を把握しているわけではないということである。把握できているかどうかを調べると、受診率とは逆の傾向が見られ、大企業ほど受診率を把握できている割合が高く、中小企業は把握する仕組みがあると答えた企業が少なかった。

 つまり、企業規模によって受診率が決まるのではなく、受診率を把握する仕組みがある一部の中小企業で受診率が高かったというわけだ。「企業規模を問わず、受診率を把握する仕組みを作るなどがん対策に力を入れている企業では、総じて受診率が高いという傾向が見られた。がん検診を受診しているかどうか把握して、受けていない人には受診勧奨をするということが、がん対策の一丁目一番地ではないかと思っている」(福吉氏)。

限られた取り組みで受診率を上げるには…

 調査では、受診率向上のために行われている策の中から事前に36の取り組みをピックアップし、それぞれの取り組みの状況を調べた。すると、企業規模が大きくなるほど多くの取り組みを実施していることが分かった。例えば、がん検診の費用を会社で負担しているという大企業は90%に近いが、中小企業では50%程にとどまった。これは、「大企業では予算内でできることが多く、中小企業では限られた予算の中で厳選した策を実施しているのではないか」と福吉氏は見る。

 もちろん、多くの取り組みを行っているほど受診率は向上するだろうが、限られた取り組みでも受診率を上げられればそれに越したことはない。そこで福吉氏らは、どういう取り組みが効果的に受診率を向上させるのかを調べた。

 分析するに当たり、受診率を回答した企業を特徴や傾向に応じて3つのグループに分けた。それぞれ、(1)36の取り組みのほとんどを積極的に実施している企業241社、(2)36の取り組みをある程度実施している32社、(3)36の取り組みをほとんど実施していない136社、の3つだ。

 それぞれの企業群において受診率を比較してみると、予想通り(1)と(3)の間には大きな差があったが、(1)と(2)は近い受診率を得られていた。つまり、限られた取り組みを行うだけでも受診率の向上がかなり見込めることが分かったというわけだ。そこで、(2)の企業が特異的に行っていた12の取り組みを割り出した。

 (2)の企業の中で、最も多くの企業が行っていたのが、「受診対象者には文章やメール、口頭などで受診を促すお知らせをしている」こと。次いで、「従業員のがん検診(一次検診)の受診状況を把握する仕組みがある」「精密検査の受診状況を把握する仕組みがある」だった。

受診率に効く12の取り組み(資料:福吉潤氏)
受診率に効く12の取り組み(資料:福吉潤氏)
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取り込みを行う過程で機運が高まった可能性も

 福吉氏は当初、費用負担をすることが最も有効な取り組みだと思っていたそうだが、(2)の企業の中で最も多く行われていたのは費用負担ではなく受診勧奨の取り組みだった。「予算がなく、費用の負担までは難しいという企業でも、別の対策で十分受診率を向上させられる可能性があることが分かった」と同氏は話す。

 この12の取り組みは、これまでがん対策推進企業アクションを進めてきた中で、初めて見えてきた新しい知見だという。ただし、「この取り組みそのものが受診率を向上させるのか、取り組みを行うプロセスにおいて議論が行われることが社内のがん対策に対する機運を高めていくのかは分からない」と同氏は指摘する。

「12の取り組みは、初めて見えてきた新しい知見」と語る福吉氏(写真:がん対策推進企業アクション事務局)
「12の取り組みは、初めて見えてきた新しい知見」と語る福吉氏(写真:がん対策推進企業アクション事務局)
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 例えば、12の取り組みのうちの一つである「管理職から従業員へ受診勧奨するよう管理職に対する通知をしている」ことを行っている企業は受診率が高かった。この取り組みを行うに当たり、管理職が受診勧奨をすることを社内でルール化するには、経営会議の中でも議論が行われている可能性が高い。つまり、管理職が受診勧奨を行うことが効果的であると同時に、「こうした取り組みを行うために経営層が議論をしたということが、社内におけるがん検診やがん対策の位置づけを向上させた可能性もある」と同氏は見ている。

(タイトル部のImage:monsitj -stock.adobe.com)