野村総合研究所は、「デジタル社会における発達障害人材の更なる活躍機会とその経済的インパクト」に関する調査を行った。日本には自閉症スペクトラム(ASD)や注意欠如・多動性障害(ADHD)といった発達障害と診断されたことがある人が約140万人いると推計する。こうした人材を十分に活用できていないことで、労働関連の損失額は約1兆7000億円に上るとした。少子高齢化が進み人材不足が深刻化する中、発達障害人材は特に不足する高度IT人材の有力な担い手になり得るとし、人材を生かすマネジメント体制の構築が不可欠とする。

 今回の発表は、毎年4月2~8日に定められた「発達障害啓発週間」にちなみ、発達障害に対する理解を深める活動の一環として行なった。世界的に人材獲得競争が激しくなる中、発達障害人材が企業競争力の向上につながるとの認識が高まっており、特に海外大手企業では取り組みが進んでいる。「集中力が高い」「高度な分析的思考ができる」「テクノロジーに長けている」といった職務適正に着目し、ソフトウエアのテスターやプログラマーといった高度IT専門職として採用・育成する企業が目立つという。ドイツのソフトウエア会社SAPや企業向けサーバーなどを扱う米Hewlett Packard Enterprise社といったIT企業のほか、金融や製造といった業界でも活用が進んでおり、デンマークSpecialisterne社のように発達障害者雇用を支援する企業もある。

 海外に比べると日本は遅れをとっている。ソフトウエアのデバッグなどを手掛けるデジタルハーツなど発達障害人材の積極的活用を進める企業や、雇用を支援するKaienなどの企業も存在しているものの、まだまだ数が少ないのが現実だ。

支援ノウハウの構築が不可欠

 野村総合研究所では「発達障害人材の現状に関するアンケート調査」の実施に加えて、政府統計や学術論文の調査、関係者インタビューなどを行った。その結果、発達障害人材を十分に活用できていないことによる、日本の経済損失額を年間2兆3000億円と推計する。そのうち約1兆7000億円は、低年収による損失、非就業損失、休業による損失、生産性低下による損失から成る労働関連の経済損失とする。

 同アンケート調査によれば、発達障害(ASD、ADHD)と診断されたことがある人の生産性は一般平均よりも1割ほど低いとの結果が得られており、金額換算すると年間4200億円の損失に相当する。また、転職回数5回以上の人が約1/4を占めるなど、厳しい就業環境がうかがえる。

 アンケート調査では、発達障害(ASD、ADHD)と診断されたことがある人のうち、約8割が障害者雇用などではなく一般雇用として就業しており、さらにその一般雇用者の約半数は職場でのサポートを受けていないことなども明らかになった。ただし、十分なサポート制度があった場合は一般平均よりも生産性が高くなる傾向がうかがえたという。また、上司や同僚などに発達障害であることを伝えている場合も、生産性が一般平均とほぼ同等になることが分かった。一方で、「理解してもらえない」「仕事能力に不足があると思われたくない」といった理由から自身の発達障害を伝えることに抵抗を感じる人も多く、約4割は職場で誰にも発達障害であることを伝えていないとの課題も明らかになった。

 加えて、同アンケート調査では日本ではADHDでありながら未診断である人が多い可能性も明らかになった。今回の調査では、ADHDと診断されたことがある人の対人口割合が1.0%であったのに対して、成人期のADHDの自己記入式症状チェックリスト(ASRS-v1.1)パートAにより成人期のADHDに該当する症状を持っている可能性が高いと考えられる“潜在者”の割合は2.5%だった。WHOの調査によれば高所得国におけるADHD有病率は3.6%であり、診断のある患者と潜在者を合計すると同等になる。また、ADHD潜在者は必ずしもADHDであるわけではないものの、ADHDと診断されたことがある人と同様、一般平均より生産性が低いことが分かり、人材活用においては無視できないとみる。

 野村総合研究所 コンサルティング事業本部 グローバル製造業コンサルティング部 主任コンサルタントの高田篤史氏は「日本企業は特例子会社や特定部門での障害者雇用ではノウハウや経験の蓄積があるが、一般雇用における支援ノウハウが足りていない。従来型の雇用環境からジョブ型雇用へと移行する中、能力に凹凸のある人や障害者への配慮や能力開発は人事部や特定部門の仕事ではなく、一般の課長・部長にとって当然有するべきマネジメントスキルにすべきだ」との見方を示した。

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