世界の爆発的な人口増加を背景に、深刻な食肉不足が現実味を帯びている。これを受け、より肉の食感や味に近づけた大豆由来の代替肉が市場に出回るようになった。実際の肉組織から研究室で培養する培養肉を手がけるベンチャーも急増しており、フードテック界隈を中心に次世代の食肉を開拓する動きが加速している。

 この培養肉生産の領域に大阪大学大学院工学研究科、島津製作所、シグマクシスが産学連携のアライアンスで参入することを、2022年3月28日の記者会見で発表した。阪大大学院が要素技術となる3Dバイオプリント技術を提供し、島津製作所と培養肉の自動生産装置を共同開発。シグマクシスがフードテック・コミュニティや各スタートアップとのマネジメントを担う。このスキームにより、早い段階での3Dバイオプリント技術の社会実装を目指す。

 3Dバイオプリント技術を開発したのは、大阪大学大学院工学研究科 教授の松崎典弥氏だ。筋肉組織構造を自在に作製できる点が特徴で、実物に近い培養肉への利活用が期待されている。既に2021年8月に凸版印刷などとの共同研究で本成果を発表しており、今回のアライアンスにより、実現化に向けて一歩先に進んだことを示した。

大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 教授 松崎典弥氏(写真:小口 正貴)
大阪大学大学院工学研究科応用化学専攻 教授 松崎典弥氏(写真:小口 正貴)
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 従来の培養肉はほとんどが筋繊維のみで構成されるミンチ状の肉であり、食肉の複雑な組織構造を再現することは難しいとされてきた。一方、松崎氏が開発した培養肉は、筋・脂肪・血管といった異なる繊維組織を3Dプリントによって作製し、金太郎飴のように折り重ねながら統合する。松崎氏は、ほかの培養肉との違いとプロジェクトの狙いを次のように語る。

 「本来、肉は脂肪細胞と筋繊維がきちんと構造化されたものであり、非構造化の培養肉では“肉のサシ”のような部分を再現するのは不可能。我々は3Dバイオプリント技術によって従来の肉と同じ構造の培養肉を生産する。

 具体的には和牛肉の組織構造を設計図として、筋繊維、脂肪、血管とそれぞれのファイバーを制御して統合。現在は金太郎飴の技術を模して手作業で筋・脂肪・血管ファイバーを重ねているが、非常に生産力が低い。将来的に世界のどこにいても再現できるためには自動生産装置が必須となる。そこで島津製作所と共同で装置開発を行ない、シグマクシスが各所へのコーディネートを担当しながら3者で協業することにした」(松崎氏)

筋・脂肪・血管ファイバーを統合した培養肉。およそ5mm角の大きさ(出所:大阪大学)
筋・脂肪・血管ファイバーを統合した培養肉。およそ5mm角の大きさ(出所:大阪大学)

 共同で自動生産装置を手がける島津製作所では、これまで取り組んできた食品開発や細胞培養に関するソリューションを応用する。例えば細胞培養システムは創薬支援や細胞を用いた有用物質生産などに活用されている。

 現在の実験ではプリントセルと呼ばれる立方体の容器を採用。これは3Dバイオプリントのキャンパスとなる容器であり、筋・脂肪・血管のプリントセルを大量に生産して繊維状細胞を集約し、ステーキ状に成型する自動化システムを開発しようとしている。

本プロジェクトにおける培養肉の自動生産装置のイメージ(出所:シグマクシス)
本プロジェクトにおける培養肉の自動生産装置のイメージ(出所:シグマクシス)
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 さらに島津製作所は、食感、風味、噛みごたえなど官能的な部分や、栄養分の含有量など機能性に関する部分の評価も担当。島津製作所 専務執行役員分析計測事業部長 馬瀬嘉昭氏は「食べごたえがあり、栄養面でも価値の高いテーラーメイド培養肉ステーキを提供できるように開発を進めていく」と展望を語った。

島津製作所 専務執行役員分析計測事業部長 馬瀬嘉昭氏(写真:小口 正貴)
島津製作所 専務執行役員分析計測事業部長 馬瀬嘉昭氏(写真:小口 正貴)
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