GEヘルスケア・ジャパンは2022年4月末、2022年の成長戦略発表会を都内で開催。同社 代表取締役社長兼CEO 多田荘一郎氏、執行役員 アカデミック本部長 兼 エジソン・ソリューション本部長 松葉香子氏が登壇し、同社のビジョンについて説明した。

 多田氏が示したのは、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)で実現する新たなヒト中心の医療」。新型コロナウイルス感染症が拡大した現場では、適切な医療提供体制の維持が大きな課題となった。中でも医療従事者の不足や柔軟性のある対応が困難だったことから、「2022年の成長戦略では、改めてヒト(人)に焦点を当てた」と切り出した。

 厚生労働省では、2040年には日本の全就労人口の約2割が医療・介護職に就かないと医療提供体制が回らないと試算。さらに病床数の多さに比べて圧倒的に医師・看護師が不足し、結果的に勤務医の労働時間は諸外国よりも多い。そこに大規模な災害やパンデミックといった有事が連続したことで「メンタル面でも追い込まれ、医療従事者のバーンアウトも多いのが現状だ」と多田氏は指摘する。

GEヘルスケア・ジャパン 代表取締役社長兼CEO 多田荘一郎氏(写真:小口 正貴)
GEヘルスケア・ジャパン 代表取締役社長兼CEO 多田荘一郎氏(写真:小口 正貴)
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 マクロの課題では、1人の高齢者を1.5人の現役世代が支える「2040年問題」や医療ニーズの多様化などがある。多田氏はこうした状況を打開するためにこそ医療DXが必要だとし、次のように続けた。

 「DXにおいて重要なのは電子化ではなく、デジタルやデータを活用しながら医療提供のあり方そのものを変革していくことだ。デジタルよりむしろ、トランスフォーメーションの比重が高い。その中心には必ず人がいる。GEヘルスケア・ジャパンは未来に向け、一人ひとりにあった質の高い医療を効率的に提供するプレシジョン・ヘルスに向けて変革を続けていく」(多田氏)

コマンドセンター導入で看護師の残業時間が約44%削減

 松葉氏は、プレシジョン・ヘルスの具体的な取り組みについて語った。同社は診察・治療・フォローアップまで全ステージに関わる画像診断の分野で存在感を発揮。画像診断ではAI活用が普及し始めており、2022年度の診療報酬改定では適切な管理・運用下にある場合のAI画像診断支援が保険適用として認められるなど、最新技術に関する追い風が吹きつつある。

 「画像診断における一連のフローにAIを導入して効率化を図る。例えばディープラーニングによって短時間でノイズのない良質なMRIを提供したり、画像を先鋭化したりする『AIR Recon DL』などだ。

 また、画像診断関連のAIツールは領域、モダリティ(医療機器)に特化しており、非常に数が多い。診療報酬の評価を受けて今後も画像診断のAIアプリケーションは増えてくるだろう。そこで、どのような検査をどのAIに推論させるのか、最適な組み合わせを自動化する『Edison AI Orchestrator』を提供。医師の負担を増やすことなく、医療機器認証済みのAIアプリケーションを業務フローに組み込むことができるようになった」(松葉氏)

 高い医療提供体制維持に向け、リアルタイムデータの活用、病院運営効率化支援にも力を入れる。医療機器の効率的な最適化についてはAPM(Asset Performance Management)とCPM(Clinical Performance Management)を提供。機器の稼働状態を可視化し、改善提案から実行までを伴走する。「大規模市中病院ではCPM導入によって最終検査終了時刻が20分短縮され、予約待ち日数が23%短縮されるなどのポジティブな結果が現れた」(松葉氏)。

GEヘルスケア・ジャパン 執行役員 アカデミック本部長 兼 エジソン・ソリューション本部長 松葉香子氏(写真:小口 正貴)
GEヘルスケア・ジャパン 執行役員 アカデミック本部長 兼 エジソン・ソリューション本部長 松葉香子氏(写真:小口 正貴)
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 病床管理については、滋賀県草津市の淡海医療センターに導入した「コマンドセンター」を紹介。病床稼働率、看護師の空き状況、入退院・転入出の一覧などをリアルタイムデータによって一元的に把握し、院内の意思決定者が共有。コマンドセンター導入前と比較して病床稼働率は約4.6%向上し、看護師の1カ月残業総時間は約44%削減された。

 「経営陣の合意とサポート、現場の理解、円滑な地域連携が成功要因となった。患者にとって医療の質が向上することに加え、医療従事者は可能な限り病棟間での支援が受けられるなど、効果は大きかった。このことは当然、病院経営全体の健全化につながる」(松葉氏)

 今後は各病院や大学と連携しながら、医療の質と効率・人材を支えるリーダーシップ研修、AIやデータ関連の人材の育成プロジェクトなどを進める。「将来的には、ヘルスケアのすべての場面で低侵襲・高精度・個別最適化が望まれる。一つの場所で成功した事例を広く展開していくためにも、しっかりとした基礎固めをしていきたい」(松葉氏)。

慶応病院が実践する「AIホスピタル」構想

 ゲストには慶應義塾大学 医学部・医学研究科 放射線科学(診断)教室 教授の陣崎雅弘氏を招き、慶應義塾大学病院(慶応病院)が実践する「AIホスピタル」構想について講演した。

 慶応病院では2018年から「AIホスピタルプロジェクト」をスタート。内閣府の「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」が医療に対するAI活用で募集を開始したのがきっかけだ。

 「最も時間をかけたのは、どのような組織構造にするかということ。AIに興味を持つ一部の人たちだけが取り組んでも仕方がない。そのため全体が連動する組織変革を考え、各診療科にAI担当医を置き、ボトムアップで解決したい課題を吸い上げるようにした」(陣崎氏)

 そこから見えてきた研究課題を6分野に設定。内訳は1.患者の受付・問診・同意取得支援、2.患者との効率的な情報共有、3.患者の非接触・遠隔化、4.院内データの可視化、5.ロボットによる医療従事者の負担軽減、6.専門家支援用のデータベース構築となる。

 「一般的にAIと聞いてイメージするのは6.で、画像、病理、ゲノムなどを利用して人間と同じ高みを目指すものだろう。しかし我々はまず、単純なタスクの置換である1.〜5.での効率化を目指した。6.は論文が多数出ているものの、社会実装されていないからだ」(陣崎氏)

慶應義塾大学 医学部・医学研究科 放射線科学(診断)教室 教授の陣崎雅弘氏(写真:小口 正貴)
慶應義塾大学 医学部・医学研究科 放射線科学(診断)教室 教授の陣崎雅弘氏(写真:小口 正貴)
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 例えば1.ではタブレットを活用して問診票をデジタル化。診療時の音声情報をAIによってテキスト化し、自動的に電子カルテに記録する研究も続ける。2.の情報共有では、スマホアプリによって自分自身の医療データを保持。スマホのリテラシーが高い妊婦の超音波画像から始め、過去の検査結果も蓄積できるようにした。アトピー性皮膚炎や関節リウマチでは、日常生活の中で起きた異変をクラウドに記録して次回診察時の参考としている。

 4.の院内データ可視化では、松葉氏が触れたコマンドセンターを導入。「病床利用率の向上、看護師のタスクシフトの実現、患者ケアの向上に役立てている。直感的なタイル(管理画面)で構成されており、効率よく病床運用できることで、医療従事者の負担軽減はもちろん、経営面にも効果が出てくる」(陣崎氏)。

 もう1つ、GEヘルスケア・ジャパンのソリューションではAPMとCPMによる超音波装置の適正化・ライフサイクル監視、CT/MRIの運用最適化に成功。MRIでのAIR Recon DLも導入済みだ。

 「人ができない予測や、手間のかかる部分をAIに代替させるのがポイント。GEヘルスケア・ジャパンとは連携を図っており、これからもICT、AIを院内に実装して、実現可能なAIホスピタルモデルを構築していきたい」と陣崎氏。実装して有効だったソリューションや技術に関しては、さまざまな病院に横展開してく姿勢を示した。

(タイトル部のImage:小口 正貴)