アルツハイマー薬を脳に届ける

 さらに研究グループは今回、「BBB突破型スマートナノマシン」と呼ぶこのレゴボールの中にアルツハイマー病の治療薬として抗体のFabを入れたもの(図3)を脳内に導くことに成功した。

<b>図3●「BBB突破型スマートナノマシン」の構造</b>(出所:iCONM・東京大学・東京医科歯科大学等による2020年5月20日付報道発表資料)
図3●「BBB突破型スマートナノマシン」の構造(出所:iCONM・東京大学・東京医科歯科大学等による2020年5月20日付報道発表資料)
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 研究グループがこのナノマシンをモデル動物に投与したところ、血液から脳へと運ばれ、抗体を安定的に保ち、血液脳関門を通過することを確認。しかも、ナノマシンと抗体との間で、酸性度の変化によってばらばらになる化学的な変化を加えた。脳実質環境の中でpHが上昇してアルカリ性に傾くことで抗体を放出することも確認した(図1)。単純にFabだけを投与するよりも、脳内の濃度は42倍に高められていた。

 さらに、脳内のアミロイドβの凝集を防ぐことも確認。脳内のアミロイドβを劇的に減らし、過去に報告されている抗体を単独で投与した場合よりも10分の1の投与量で同等の効果を出した。

 動物実験ではあるが、今後、人での安全性や有効性が検証できれば、アルツハイマー病の治療が大きく前進する可能性を秘める発見となる。抗体を放出した後の殻に当たるポリエチレングリコールやポリリジンの影響など、安全性や効果についてはさらなる検証は要るものの有望な技術だろう。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科脳神経病態学(脳神経内科)分野教授の横田隆徳氏は、「まだ不明な点もあるアミロイドβと認知症との関連をより明確にする研究も進んでいる。これからは認知症だけではなく、治療が期待される病気は神経難病など他にも考えられる」と指摘する。

 折しも5月25日に、薬物と抗体を組み合わせた抗体薬物複合体であるトラスツズマブデルクステカン(商品名エンハーツ)が第一三共から発売された。同様な開発は他にも広がりを見せており、ナノマシンや化学物質の組み合わせによる薬物はより注目される可能性がある。


(タイトル部のImage:monsitj -stock.adobe.com)