東芝は、がん遺伝子治療向けの「がん指向性リポソーム技術」を開発した。ナノサイズのカプセルである生分解リポソームに治療遺伝子を内包することで、がん細胞に効率的に治療遺伝子を運ぶことができる技術である。まずは3年後に治験を開始することを目指している。

「がん指向性リポソーム」の概要(出所:東芝)

 信州大学医学部小児医学教室 教授の中沢洋三氏らの研究グループと共同で開発した。東芝と信州大学は2019年11月に共同研究の開始を発表しており、今回の成果はその第1弾となる。研究成果は、2020年5月12日にオンラインで開催された米国遺伝子細胞治療学会(ASGCT 2020)で発表した。

 そもそも遺伝子治療とは、標的となる細胞に治療遺伝子を運搬することで、細胞の機能を修復・増強する治療である。遺伝子治療の対象は必ずしもがんだけではないが、世界における遺伝子治療の65%ががんを対象にしており、「次世代のがん治療として期待されている」と東芝 研究開発センター ナノ材料・フロンティア研究所 技監の菅野美津子氏は言う。

 遺伝子治療において最も重要なポイントになるのが、標的となる細胞に効率よく治療遺伝子を運搬することである。現在、治療遺伝子の運搬体としては、ウイルスが用いられることが多いが、ウイルスを用いることによって、「可能性は低いものの感染のリスクがある」と中沢氏は指摘する。

信州大学医学部小児医学教室 教授の中沢洋三氏(写真:オンライン記者発表会のキャプチャー)

 そこで着目したのが、東芝がかねて開発していた生分解性リポソーム。6種類の脂質を主成分とした直径100nmのカプセルである。治療遺伝子を内包することができ、細胞の中でのみ分解するという特徴を持つ。