ホウ素化合物をナノ技術でがん病巣に集積させる

 冒頭で触れたように、このBNCTには、がん病巣にホウ素を集中させ、そこをピンポイントで狙う技術が適用されている。「LAT1」と呼ばれる、正常細胞にほとんど発現しておらず、がん細胞の表面にだけ過剰に現れるタンパク質(アミノ酸トランスポーター)に着目し、これにホウ素化合物が取り込まれる仕組み(エンドサイトーシス)を利用した。がんは活発に増殖するために多くのタンパク質を必要とするが、その元となるアミノ酸を、LAT1を通して細胞内に取り込む性質がある。

 BNCTでは、アミノ酸の一種であるフェニルアラニンとホウ素を結合させた「BPA(ボロノフェニルアラニン)」という薬剤を用いる。BPAはアミノ酸の構造を含んでいるので、LAT1に認識されて、細胞の中へと導くことができる。BPAを製造・販売するステラファーマが行った臨床試験では、再発頭頸部がんに対してBNCT施行90日後の奏効率は71.4%に上っている。

 西山氏らはナノレベルの機能性高分子技術によりBPAの細胞滞留性を高めて、BNCTをさらに進化させようと研究を進めている。「BPAは水溶性で腫瘍滞留性が低いのが課題だった。腫瘍滞留性が低いのは、BPAの血中濃度が下がるとアミノ酸を吐き出してしまうから。そのためBPAは点滴しながら、熱中性子線を当てるが、血液中にもBPAが高い状態にすると正常組織に対する障害が起こる可能性がある。照射しながらであるため、医療事故の懸念もある。そこで高分子が使えるのではないかと考えた」

 西山氏らは、「スライムの化学」と呼ばれる、液体のりの主原料としてよく知られている高分子のポリビニルアルコール(PVA)とホウ素を含むホウ砂を混ぜるとスライムが作られる化学反応に着目。BPAとPVAを組み合わせてお互いに化学結合をすることでスライムを作り出し(図2)、細胞からの流出を防ぐ方法を考案した(関連記事)。実際、BPAと結合させると、細胞から容易に流出しにくくなった。これまでの動物実験で、BPAをより腫瘍に貯留しやすくすることができ、治療効果も高まることを確認している3)

図2●西山氏らが開発したPVA-BPA
スライムの化学を利用してBPAをPVAに結合した。PVA-BPAはLAT1介在型エンドサイトーシスにより細胞に取り込まれエンドソーム・リソソームに局在するようになる

 西山氏の研究グループでは、「水中でPVAとBPAを混ぜるだけで簡単に合成可能。製造が容易である上に治療効果も非常に優れている。今後、ステラファーマの協力を得てさらなる研究を行うことになり、安全性を精査しながら臨床応用への可能性を検討していく予定」としている。