人が動く力を電気エネルギーに変える──。そんな繊維を村田製作所と帝人フロンティアが開発した。

 両者は2020年4月1日に合弁会社ピエクレックスを設立し、人が動く力を電気エネルギーに変換する圧電繊維「PIECLEX(ピエクレックス)」を中心とした事業を展開していく。電気エネルギーを使って抗菌機能が発揮できるため、まずは、抗菌剤を使用しない抗菌繊維として国内アパレルメーカー向けに2020年度に発売を開始する。同年6月4日に開催した記者発表会で概要を説明した。

記者会見の様子(出所:ピエクレックス、以下同)

 PIECLEXは、植物由来のポリ乳酸(PLA)を原料としており、生地を曲げ伸ばしすると電気が発生する繊維である。この電気エネルギーによって、線維と線維の間に存在する菌に電場がかかり、細胞の増殖を抑制する抗菌機能が発揮できる。

 この特徴を活用して、「人が運動する力を抗菌機能に変換できるスポーツウエアや、人が歩く力で消臭機能を備えた靴や靴下などに活用できそうだ」と村田製作所 代表取締役会長 兼 社長の村田恒夫氏は言う。第1弾として、スポーツウエアや靴下、インソールなどへの活用を想定しているという。例えば、靴下やインソールに関しては、人が歩いているときには、繊維に応力やひずみがかかっているため、常に抗菌機能が発揮されるというわけだ。

PIECLEXを使ったスポーツウエア

 一般には、抗菌剤を使用することで抗菌機能を発揮する製品が多い中、PIECLEXは有機材料や金属を全く使用していない。後加工を施すわけでもないため、半永久的に抗菌機能が持続できる。そして、繊維なので衣服やシートなどさまざまな加工が可能である。

 PIECLEXを活用すれば、これまでは抗菌薬を使うことがはばかられていた製品にも、抗菌機能を持たせることができそうだ。今後は、「マスクや紙おむつといった衛生材にも活用していきたい」と帝人フロンティア 技術・生産本部 技術開発部長の竹下皇二氏は意気込む。

PIECLEXを使ったマスク

生地の曲げ伸ばしが電気に変わる理由は…

 PIECLEXが生地を伸縮することで電気エネルギーを発生させる圧電性を持つのは、実は、原料のポリ乳酸の特性によるものである。ポリ乳酸の材料は、ひずみや応力をかけることで材料自体が電気を発する性質があり、これを利用した。通常、圧電製品に多く使われるセラミックではなく、高分子のポリ乳酸を利用することで、「糸や生地といったフレキシブルな活用が可能になる」と竹下氏は説明する。

PIECLEXを使ったさまざまな製品

 これまで、村田製作所や帝人フロンティアでは、ポリ乳酸を応用したセンサー開発などを行ってきた。両者がタッグを組んだピエクレックスでは、センサーではなく、抗菌効果を発揮する素材として、ポリ乳酸の性能を最大限に生かせるような糸や生地の設計を検討し、このほど製品化の目途が立ったというわけだ。

 具体的には、1V前後の電圧が繊維から生じるため、近接している繊維と線維の間に存在する細菌に大きな電場がかかる。これによって、細胞膜に穴が開いたり、細胞が存在を維持するためのエネルギーを生み出せなくなったりし、細胞の死滅や増殖抑制につながる。ただし、人間の皮膚には影響がない程度の電気エネルギーだという。

 今後は、抗菌効果を高めるための検証や、細菌よりも小さなウイルスへの効果(抗ウイルス性)の検証も行っていきたいとしている。

人の運動エネルギーを医療にも

 同社は、PIECLEXの特性を抗菌機能以外にも活用したい考えだ。実は、同社が着目しているのは抗菌機能ではなく人の運動エネルギー。人が動く力を利用できる素材としてPIECLEXを活用していきたいとしている。

 将来的には、PIECLEXを「医療や美容にも応用していきたい」と竹下氏は話す。過去の研究で、体の細胞に電気を流すとさまざまな効果が得られることが分かっているため、PIECLEXの電気エネルギーを発生させる特徴を活用できそうだという。

(タイトル部のImage:出所はピエクレックス)