デジタルヘルス(ヘルスケア×IT)分野に特化したスタートアップ総合支援プログラム「TECH FOR LIFE」の一環として、健康・医療の社会課題共有を目的に2019年5月末に開かれた「TECH FOR LIFE CHALLENGE DAY」。衆議院議員の甘利明氏と経済産業省の西川和見氏(ヘルスケア産業課長)が、「わが国の政治的視点における健康・医療分野の課題の共有」をテーマにそれぞれ講演した。

日本を世界一イノベーティブな国に

 甘利氏は、安倍内閣のアベノミクスが「日本がデフレを脱却し、正常な経済成長モードに戻る」ことを目標とする中、その実現とともに「日本を世界一イノベーティブな国にする」ことを最終目標として挙げる。そのためには「基礎研究を実用化し、製品やサービス、システムとしてできる限り早く社会に提供していく」ことが求められるため、「どんな時代や状況でも、イノベーションを発信できるようなエコシステムが必要だ」(同氏)とする。

講演する甘利氏(写真:近藤 寿成、以下同)

 こうした考えに対して、中には「日本にイノベーションを起こすだけの潜在能力があるのか?」といぶかる声も少なくない。しかし甘利氏は、「大学には基礎研究につながるシーズが多く存在しているし、製品化を担う企業の底力も捨てたものではない」と強調する。

 一方で、大学や企業の連携が上手うまくかみ合っていないという問題があるのも事実。そのため、内閣府特命担当大臣(経済財政政策)を務めていたときには、「それぞれの強みを活用できるような仕組みづくりに取り組んだ」と甘利氏は言う。そして、この取り組みにおける政府の司令塔ととなったのが「総合科学技術・イノベーション会議(Council for Science, Technology and Innovation、略称:CSTI、システィ)」である。

 同時に甘利氏が注力したのが、「データベースの整備」だという。

「使い勝手の良い仕組みづくり」や「徹底したルールの整備」

 日本は国民皆保険制度や介護保険制度などが整っており、世界に類を見ないほど医療や介護に関する膨大なデータが集まっていると甘利氏は見る。高齢化などの課題先進国である日本が、その課題を解決するソリューションをいち早く実現して優位な立場に立つためには、「これらのデータをいかに活用していくかが重要になる」(同氏)。

 こうしたデータを取り扱うシステムやその相互利用のベース構築を手掛ける組織として、甘利氏は日本医療研究開発機構(AMED)を挙げる。AMEDでは、医療機器や医薬品などの基礎研究から製品化までを一気通貫につなげるような仕組みづくりを進めており、データベースの構築やその利活用などにも現在取り組んでいる。

 データの加工やデータベース化においては様々なルールが必要となる。例えば、データ活用における患者の同意を必要とするかしないか、すなわち「オプトイン/オプトアウト」は大きな議論の一つとなっている。甘利氏は、同意を求める「オプトイン」では時間がかかりすぎることから、「オプトアウトでなければ十分なスケールにはならない」との考えを述べた。

 最後に甘利氏は、データベースの基礎を構築するポイントとして、「使い勝手の良い仕組みづくり」や「徹底したルールの整備」などを指摘。「我々は21世紀のインフラを作っている」と力説し、「為政者目線ではなく、国民目線で生活が向上するようなインフラを作らなければならない」として講演を終えた。

従来とは違うアプローチで新しいソリューションを

 後半に登壇した経済産業省の西川氏は、「予防・進行抑制・共生型の健康・医療システムを、デジタルの力でしっかり進めていく必要がある」と力説する。「単一標的型疾患」に対するソリューションは20世紀のうちに多く登場したが、「老化に伴う疾患」や「生活習慣に係る疾患」などのソリューションはまだまだ少ないことから、「従来とは違うアプローチや連携で、新しいソリューションづくりを進めることが求められる」(同氏)。

講演する西川氏

 ヘルスケアIT投資の現状を見てみると、日本はその重要性こそ感じているものの、世界と比較すると「規模は小さく、遅れている部分も多い」と西川氏は指摘する。日本でこの分野への投資が進まないのはなぜか。同氏が要因の一つとして挙げるのは、医師や介護士などとIT/AIエンジニアなどを結びつける場がないこと。さらに、同分野のデータをやり取りする場合にはお互いの信頼関係も重要となるため、「それらの課題を解決するような教育や研修が求められるほか、認証制度などでデータを取り扱う事業者の安全性を周知させる必要もある」(同氏)との考えを示した。

 厚生労働省では現在、根本匠大臣のイニシアティブにより2040年を展望した医療・介護の提供体制の在り方を議論している。2040年ともなれば、高齢化だけでなく都心への人口集中などがさらに進む一方で、テクノロジーのさらなる進歩によって社会の利便性も一層向上し、遠隔診療や介護の在り方も現在とはまったく異なったものになっている可能性が高い。そこで、経済産業省としても厚生労働省と協力し、「2040年に向けた取り組みを中長期的で研究・開発していく」と西川氏は語った。

(タイトル部のImage:mikelaptev -stock.adobe.com)