新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防止するために、介護サービス事業においても休業や縮小経営などの影響が出ている。そのため、自宅で家族のケアをしている在宅介護者への負担が高まっている恐れがある。

 これを解決するため、AIを活用した介護向けサービスなどを手掛けるスタートアップのエクサウィザーズは、ケア技法「ユマニチュード」を動画で学べるスマートフォンアプリ「CareWiz」を開発した。2020年7月末まで無償で提供を行う。

CareWizの画面イメージ。困りごと対処するためのさまざまな動画が紹介されている(写真:オンラインイベントの画面キャプチャー、以下同)
CareWizの画面イメージ。困りごと対処するためのさまざまな動画が紹介されている(写真:オンラインイベントの画面キャプチャー、以下同)
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 ユマニチュードとは、フランス生まれのケア技法。人間らしくあるという意味のフランス語が語源になっており、大変な状況でも笑顔を生み出したり、優しさや安心感を伝えたりするコミュニケーションを軸としている。

 技法の基本となっているのは、「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの柱である。人の感情は感覚から入る情報が脳に届くことによって生まれるため、この4つの柱を日常生活で意識して使うことでポジティブな感情を生み出すことができるというわけだ。

ユマニチュードの4つの柱
ユマニチュードの4つの柱
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 福岡県福岡市が人生100年時代へのチャレンジとして取り組んでいる「福岡100」では、ユマニチュードが認知症戦略の中核を担っている。同市ではユマニチュードのケアを広く知ってもらうため、市民や小中学生、介護をする家族のそれぞれを対象に、講座を実施。その結果、介護者の負担感が20%低減し、被介護者の認知症症状が15%和らいだといった効果が現れたという。

 今回開発したCareWizでは、自宅で介護をする人の困りごとを解決するため、ユマニチュードを実践する動画を多数紹介している。アプリ上では、実践した内容を記録したり、分からないことをアプリから直接ユマニチュード認定インストラクターに相談したりすることもできる。さらに、困りごとを入力すれば、地域で受けられるサポートをAIが答えてくれる機能も搭載している。

インストラクターへの相談予約ができる画面イメージ
インストラクターへの相談予約ができる画面イメージ
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在宅介護者向けのオンラインイベントを開催

 今回のアプリの開発に合わせ、エクサウィザーズは在宅介護者が自宅でユマニチュードを学べる、無料オンラインイベント「今日からできる!優しさを伝えるケア技法」を2020年6月13日に開催した(YouTube動画はこちら)。

 イベントには、介護施設を回りながらレクリエーションを行っているお笑い芸人の「レギュラー」と「span!」が登場。イベントでは、ユマニチュードの4つの柱のうち、特に「見る」と「話す」について、ゲームを交えて実践のポイントを紹介した。

 「見る」を実践する場合は、視線によって相手が自分をどう思っているのかが伝わることに気を付ける必要がある。具体的には、ケアをする相手が腕の中に納まるくらいの近い距離で、正面から水平に、長い時間目を合わせることが、相手にとって心地よさを与えるという。逆に、上方向や横方向から見たり、遠くからちらっと目を向けたりするのは、相手にとって不快感を与える。

近い距離で正面から水平に目を合わせている様子
近い距離で正面から水平に目を合わせている様子
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 イベントでは、お題を視線だけで表現して当ててもらう「心のジェスチャーゲーム」を実践。遊びながらお互いに目を合わせることに慣れてもらうという狙いがあるという。

 「正直さ」「嘘隠し事」「見下し」「優しさ」の4つのお題が与えられたが、レギュラーの西川晃啓さんが表現した「優しさ」は、視線だけで当ててもらうことができなかった。視線で優しさを伝えるのが難しかったのは、ソーシャルディスタンスを保っていて物理的な距離感があったためだといい、優しさを表現する際には腕の中に納まる20cmくらいの距離まで近づかなくてはいけないことが分かった。

心のジェスチャーゲームを実践している様子
心のジェスチャーゲームを実践している様子
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横から名前を呼ぶより、正面から近づく

 正面から見る必要があるのは、高齢になると横方向を認識しにくくなるからだという。そのため、横から近づいたり話しかけたりするとびっくりさせてしまう。正面からゆっくり近づいて目を合わせれば、驚かせることない。

 レクリエーション介護士2級の資格を持つspan!の水本健一さんは、「これまで、介護施設に行った際は名前を呼んで横から話しかけてしまっていた。今後は正面から話しかけようと思う」と意気込んだ。

 ユマニチュードを実践するときは、笑顔も忘れてはいけない。介護の現場では大変なことがあると、つい笑顔が減ってしまう。特に被介護者とのコミュニケーションが難しくなるほど、なかなか笑いが生まれない。しかし、笑顔を生み出そうとして自ら笑顔になれば、それにつられて相手もつい笑ってしまうものだ。

 これを実践するために、イベントでは、2人で目を合わせたま、始めの5秒間は無表情で、5秒後にどちらか1人がとびっきりの笑顔で笑いかける「スマイルアイコンタクト」ゲームを行った。ゲームに参加したレギュラーの松本康太さんは、「つられて笑ってしまうのを実感できた」と笑顔で語った。

スマイルアイコンタクトを実践している様子
スマイルアイコンタクトを実践している様子
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 イベント終盤には、「話す」のポイントも紹介された。言語でコミュニケーションをとる際、話す内容によって、人は無意識に話し方を変えているという。良い内容を話すときは声のトーンがゆっくり穏やかで抑揚があるのに対し、良くない内容を話すときは声のトーンが大きく強くなり途切れ途切れになる──という具合だ。

 つまり、話し方を変えることで、相手に伝わる印象が変わる。そのため、ケアを行う際には、穏やかにゆっくり歌うように話すと心地よく聞こえるという。

相手を喜ばせるような言葉を話しかけることで、自然と朗らかになっている様子
相手を喜ばせるような言葉を話しかけることで、自然と朗らかになっている様子
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(タイトル部のImage:オンラインイベントの画面キャプチャー)