メタボ発症前の「揺らぎ」を検出

 生活習慣病の中でもメタボリックシンドロームを題材に未病状態を立証しようとした理由を和漢医薬学総合研究所 准教授の小泉桂一氏は、次のように説明した。「病気の状態へ緩やかに遷移していく生活習慣病を対象に、同時にいくつかのモデルを研究している。メタボリックシンドロームは動脈硬化による心疾患や糖尿病などにつながる重要な医療課題であり、先行して実証するモデルとして一番いいだろうと考えた」。

 共同研究グループは未病を科学的・定量的に検出するため、生体信号の「揺らぎ」に着目した数学理論を用いた。合原教授らが2012年に発表した「動的ネットワークバイオマーカー(DNB)理論」と呼ばれるもの。生体から得られるさまざまなビッグデータから動的状態の遷移過程を識別する方法である。

 DNB理論では、健康な状態から病気の状態へと遷移する直前で、一部の互いに関連した生体信号の揺らぎが大幅に増加することが数理解析によって予測されているという。「『揺らぎが大幅に増加した時点=未病の状態』と考えることができ、くぼみの底でエネルギーが安定している状態(健康状態)から、くぼみが浅くなり大きく揺らぐようになる」(和漢医薬学総合研究所 特任准教授の奥牧人氏)と説明する。

 この数学理論がヒトなどにも当てはまるのか、医学的な観点から実証したのが今回の研究成果である。具体的には、メタボリックシンドロームを自然発症するマウス(TSOD マウス)を用いた。3週齢から7週齢まで1週間おきに脂肪組織を採取し、数万種類の遺伝子発現量を一度に測定する技術(マイクロアレイ法)で、マウスの遺伝子を網羅的に測定。

 測定結果をDNB理論に基づくデータ解析を行い、測定期間内で揺らぎの増加した時点があるかどうかを調べた。その結果、メタボリックシンドロームを発症する以前の5週齢の時点で遺伝子の発現量の揺らぎが大きく増加していることを捉えた。「5週目の顕著な揺らぎは、147個の遺伝子の発現量で起きていた。(8~10週齢で)メタボリックシンドロームを発症する前の未病をマウスのモデルで捉えられたことが大きな成果だ」(小泉氏)と述べた。