電子カルテをはじめとする病院内の多様なデータをリアルタイムで分析・可視化し、病床の効率的な運用を実現する。しかも現場スタッフの入力は一切不要──5年前には想像もつかなかったテクノロジーを導入し、徐々に効果を上げている病院がある。滋賀県草津市にある社会医療法人 誠光会 草津総合病院がそれだ。

 草津総合病院は、もともと県下で2番めの規模を誇ったケアミックス病院(急性期・回復期・療養期まで一連の機能を持つ病院)であり、自院で完結する病院完結型医療を展開してきた。しかし県都の大津市、草津市を中心とする滋賀県湖南地方は大阪・京都のベッドタウンとして人口が増加しており、あわせて高齢化も進むなど地域ならではの課題を抱えていたという。

草津総合病院(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
草津総合病院(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
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 これに伴い、2018年には地域包括ケアシステムを見据えた地域完結型医療へと方針を転換。2020年10月には急性期病院として草津総合病院を分離し、新たに在宅療養支援病院として淡海(おうみ)ふれあい病院を設立。あわせて周辺の回復期病院や医療療養病院、介護施設などと相互に協力した地域完結型医療を目指すべく、地域医療連携推進法人の湖南メディカル・コンソーシアムを立ち上げ、2020年4月から活動を開始した。2021年6月23日現在、35法人、101施設が参加する日本最大級の地域医療連携推進法人である。

 こうした多施設・多職種連携では、円滑に入退院の情報を共有し、医療機能の最大化を図らなくてはならない。ボトルネックがあれば、送り出す側、受け入れる側ともに貴重な医療資源にムダが生じる。そこで草津総合病院と淡海ふれあい病院が先頭に立ち、空き病床の状況や入退院情報を適時に把握する目的でITツールの導入を検討した。

 検討の結果、同院が導入したのは、GEヘルスケア・ジャパンの「コマンドセンター」と呼ばれる中央管制システムだ。GEヘルスケアが米ジョンズ・ホプキンス大学病院(以下、JHH)と共同開発したもので、統合データ分析サーバーと分析結果を可視化する「Tile(タイル)」アプリケーションから構成される。草津総合病院では2019年にJHHを視察し、病床の効率的な運用に資すると判断。2020年9月から約半年間の実証を経て、2021年4月から本格稼働を開始した。

草津総合病院に設置されたコマンドセンター(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
草津総合病院に設置されたコマンドセンター(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
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「スマートホスピタルの核となる」

 コマンドセンターでは電子カルテ、PACS(医療用画像管理システム)、医療機器、部門システムなどの院内データをデータ収集エンジンの「InSite Edge」が集約し、自動的に整形・加工・演算してタイル上で数値化。これにより、病床の稼働率、入院患者の容態変化、病棟ごとの看護師の忙しさなどがひと目でわかるようになる。キーテクノロジーはAI、機械学習、IoTなどだ。

コマンドセンターの可視化アプリ、タイルが表示される仕組み(出所:発表会のスクリーンショット)
コマンドセンターの可視化アプリ、タイルが表示される仕組み(出所:発表会のスクリーンショット)
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 奇しくも導入検討時期にはコロナ禍が重なった。2021年6月23日に開催した記者発表会で、誠光会 理事長の北野博也氏は「急性期病院の一病棟をコロナ病棟に割り当てたが、コマンドセンターの導入によって非常に効率的な運用が可能になり、急性期のポテンシャルを保ちながらコロナを乗り越えられた」と振り返った。その上で「コマンドセンターの有効活用が地域医療の推進、自院のレベルアップにもつながる。スマートホスピタルの核となるものと考えている」と語った。

誠光会 理事長の北野博也氏(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
誠光会 理事長の北野博也氏(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
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 GEヘルスケア・ジャパンは2021年4月の成長戦略発表会でリアルタイムデータの重要性をアピールしていた(関連記事:GEヘルスケアが成長戦略発表会、データやAIの活用戦略とは)。コマンドセンターは、まさに戦略を具現化したソリューションとなる。同社 代表取締役社長 兼 CEOの多田荘一郎氏は「リアルタイムでデータを分析・可視化することにより、刻一刻と変化する患者の状況を的確に把握して、適切な医療を迅速に提供する。コマンドセンターは課題解決につながるミーニングフルデータ(意義のあるデータ)を活用するのが特徴だ」と自信をのぞかせた。

GEヘルスケア・ジャパン 代表取締役社長 兼 CEOの多田荘一郎氏(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
GEヘルスケア・ジャパン 代表取締役社長 兼 CEOの多田荘一郎氏(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
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「病床稼働率を96%程度まで上げられる」

 草津総合病院のタイルは、初期段階で7種類を用意した。内訳は病床全体の稼働状況をリアルタイムで可視化する「Capacity Snapshot」、病床ごとに医療従事者(看護師)のリソースと対応スキルを可視化して調整・再分配を行なう「Staffing Forecast」、円滑な患者入れ替えのために対応すべきケア、タスクを患者ごとに優先度とともに表示する「Discharge Tasks」、重症化した患者にフォーカスする「News Scoring」などになる。

草津総合病院で採用した7種類のタイル(出所:発表会のスクリーンショット)
草津総合病院で採用した7種類のタイル(出所:発表会のスクリーンショット)
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 GEヘルスケア・ジャパン エジソン・ソリューション本部 ディレクター 松石岳氏は「例えばCapacity Snapshotは緊急入院時の判断軸となり、Discharge Tasksは退院マネジメントを最適化し、News ScoringはICUへの転棟を促す。病院経営、医療従事者、患者にとってベネフィットが得られるのがコマンドセンターの利点」と強調した。

GEヘルスケア・ジャパン エジソン・ソリューション本部 ディレクター 松石岳氏(出所:発表会のスクリーンショット)
GEヘルスケア・ジャパン エジソン・ソリューション本部 ディレクター 松石岳氏(出所:発表会のスクリーンショット)
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 JHHでは2016年から稼働済みで、救急患者の待ち時間を20%、他施設からの転送待ち時間を60%、術後のオペ室の受け渡し時間を80%短縮。このように待ち時間を減らしながら、病床稼働率を85%から92%に改善した。導入から間もない草津総合病院では明らかなエビデンスは出ていないものの、統括看護部長の伊波早苗氏は「コマンドセンターがあることで、稼働率は92〜93%から96%程度まで上げられると思う」と話した。

組織の横断的活動を日常化するためのツールである

 これ以外にも、看護師への恩恵は大きい。患者の容態変化、手術件数や処置量、入退院状況が即時に見える化されることで、数値に基づいて比較的空いている病棟から忙しい病棟に応援を派遣することが可能になった。「自分だけが忙しいというネガティブな気持ちが薄れ、支え合う姿勢がより強固になる。働くスタッフの気持ちにも前向きな変化をもたらしてくれる」と伊波氏は評価する。

草津総合病院 統括看護部長 伊波早苗氏(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
草津総合病院 統括看護部長 伊波早苗氏(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
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 上々の滑り出しを見せた草津総合病院の取り組みだが、先に述べたように将来的には地域を包括した情報連携を目標としている。誠光会 法人本部 副本部長の蔭山裕之氏は、「現在はスタッフの能力を含む病棟の状況、入退院に関する情報がメインだが、今年度には外来に関する情報、医療機器の稼働情報、病院の収支まで広げる予定。その先には患者の病名や状態にあわせた物流管理にも活用したい」と今後の展望を述べ、次のように締めくくった。

誠光会 法人本部 副本部長 蔭山裕之氏(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
誠光会 法人本部 副本部長 蔭山裕之氏(出所:事例紹介ビデオのスクリーンショット)
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 「情報を集約することで素早い意思決定が可能になる。コマンドセンターは医療現場の改善や医療の質向上のみならず、組織の横断的活動を日常化するためのツールだ。これにより縦割り組織は緩やかに解体され、全員が自立したティール組織に生まれ変われるのではないかと期待している。組織変革につながってこそ、真のDXと言えるだろう」(蔭山氏)

(タイトル部のImage:出所は事例紹介ビデオのスクリーンショット)