「父を治したい」…ここからすべては始まった

 楽天グループががん治療薬を皮切りにヘルスケア分野に参入したのは、三木谷氏の父親である三木谷良一氏が膵臓がんになったことがきっかけだ。

 膵臓がんは進行して発見されることが多いために治療が難しく、現在でも死亡までの期間が最も短いがんの1つ。三木谷氏は有効な治療法を求めて世界中を探し回った。

 その中で、米国国立衛生研究所(NIH)の1部門である米国国立がん研究所(NCI)主任研究員である小林久隆氏が研究する光免疫療法にたどり着いた。「光を使ってがんを殺すと聞いても半信半疑だったが、小林氏の説明を聞き、サポートしていく価値があると判断した」(三木谷氏)という。

 NIHは、小林氏の研究に基づく光免疫療法の商用化を行う企業を公募、ミゲル・ガルシア・グズマン氏(現・楽天メディカル副会長・最高科学責任者(CSO))が2011年に設立した当時のアスピリアン・セラピューティクス社が独占的な開発権を取得した。三木谷氏は賛同する投資家を集めてアスピリアン・セラピューティクス社に出資するとともに経営に参画、2019年3月に、社名を楽天メディカル社に変更した。今後、取締役会の承認を得た上で、楽天の出資比率をさらに高める考えだ。

 開発中の治療薬のコードネームである「RM-1929」は、ガルシア・グズマン氏らの勧めで、父・良一氏のイニシャルと生年を組み合わせたものだという。また、父・良一氏のイニシャルは楽天メディカルの社名の頭文字とも一致する。

 三木谷氏個人の強い思いから出発しただけに、これまでに世界の薬剤規制当局が認可したことがない新しいタイプの治療薬でありながら、「患者さんが待っている」を合い言葉に、実用化に向けた体制作りが急ピッチで進められている。楽天メディカルの従業員数は現時点で約170人。米国、日本のほか、オランダ、ドイツ、台湾の5カ国に計8拠点を置く。本社は米国カリフォルニア州サンマテオ。同州サンディエゴで医薬品開発を、ドイツ・ジンヘッセンで治療用の医療機器開発を進めている。

 なお、米国では、2018年に米国食品医薬品局(FDA)がRM-1929について、早期承認を想定したファストトラック指定を与えた。日本でも2019年4月、「極めて高い有効性が期待される医薬品」として、審査期間を最短6カ月に短縮する「さきがけ審査」の指定対象品目に指定された。