従来治療が効かず足切断もやむを得ないと考えられた、糖尿病などによる難治性四肢潰瘍10例に対し、血管再生治療(MNC-QQ細胞治療)を行ったところ、全例で「痛みの改善」「歩行の維持」「血流の改善」を認め、足切断を回避できたと、順天堂大学医学部形成外科学講座先任准教授の田中里佳氏が、第11回日本下肢救済・足病学会学術集会(6月28~29日、神戸)で報告した。治療と因果関係のある有害事象は認めず、安全性も確認された。

 最近、糖尿病や末梢動脈疾患(PAD)の増加に伴い、足の潰瘍や壊疽が多く見られるようになってきたと専門医は口をそろえる。関係学会の調査によれば、我が国の60歳以上の約700万人が足病変を有しており、PADの有病者数は約320万人、重症下肢虚血(CLI)は約18万人、うち1万人以上が下肢切断に至るといわれている(関連記事:「足の後進国」から脱し、100歳まで歩ける足を)。中でも糖尿病患者の足潰瘍の発症率は4~25%と高く、潰瘍が治癒しない場合、足切断を余儀なくされるケースは多い。

 血管を流れる血液中の白血球に含まれる単核球には、血管内皮前駆細胞(endothelial progenitor cells:EPC)や再生型マクロファージ、血管新生性Tリンパ球といった、血管再生に重要な役割を果たす細胞が含まれていることが近年の研究で分かってきた。田中氏らは、患者から採取した末梢血単核球(MNC)に含まれるEPCの質と数を飛躍的に改善する独自の方法(末梢血単核球生体外増幅培養法[MNC-Quality and Quantity Culture]、MNC-QQ法)を確立。糖尿病患者由来のMNCをMNC-QQ法で増やし動物に注射したところ、高い創傷治癒効果と組織内血管再生効果が認められ、造腫瘍性がないことを確認してきた。そこで2015年に、再生医療等安全性確保法の下、糖尿病や膠原病などを持つ難治性四肢潰瘍10例を目標に第1相臨床研究を開始した。

 冒頭に紹介したのは、その結果だ。一定の安全性と有効性が確認され、多くの患者が3ヵ月以内で治癒していた。中には、カテーテルを用いた血行再建術でも治らない重症の足潰瘍や大きな組織欠損が治療後6カ月で完治したという。

低侵襲・低価格・高効果を併せ持つ再生医療技術

 現在、下肢の難治性潰瘍やCLIに対しては、同様にMNCに含まれ血管再生作用があるCD34陽性細胞を用いた細胞治療の治験や臨床研究も進行中だ。ただ、十分なCD34陽性細胞数を得るためには、患者に顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)を投与して白血球を増やした上で、アフェレシス(成分採血)を通して単核球を採取する必要がある。さらに単核球からCD34陽性細胞を単離する磁気細胞分離装置も要る。

順天堂大学医学部形成外科学講座先任准教授の田中氏(写真:Beyond Health)

 一方、田中氏らの治療法は、外来で通常の採血で得た検体からMNCを調製し、7日間浮遊培養した後、回収したMNC-QQ細胞を手術室で潰瘍周囲の皮下と筋肉に注射するというものだ。「外来でわずか200mLの採血のみで多くの機能的な細胞を採取できる上、患者に負担のかかるG-CSF投与やアフェレシスの必要もない本治療法は、簡便で患者に負担が少ない血管再生治療法といえる。また、検体を輸送してもらえば、MNC-QQ細胞にして輸送し戻すだけなので、日本のみならず世界中のどこにでも本治療法を届けられる」と田中氏は話す。

 同氏らは、より高い治療効果を得るため、注射範囲を下腿まで広げ複数回投与をする第1/2相臨床研究を、CLI患者を対象に進めている。2021年度末までには大学発の再生医療・細胞治療開発ベンチャーReEirによる企業治験へ移行する計画。自動培養装置や検査キット、バイオマーカーなども開発し、低侵襲・低価格・高効果を併せ持つ新規の再生医療技術として世界に展開したいとしている。

(タイトル部のImage:mikelaptev -stock.adobe.com)