スタートアップのエクサウィザーズと山口大学は、医療AI活用のための包括的な共創事業を行う。データサイエンスの技術を用いて、診療現場の課題解決を目指すという。2020年7月14日にオンラインで開催した記者発表会で発表した。

オンライン記者発表会の登壇者(出所:エクサウィザーズ)

 共創事業では、エクサウィザーズが持つAI技術や事業開発力と、山口大学が持つ医療現場やアカデミアの専門性を掛け合わせて、患者や医療・介護従事者に向けたサービス開発を目指す。エクサウィザーズの技術者2人を山口大学のAIシステム医学・医療研究教育センター(AISMEC)に派遣し、ニーズやシーズの発掘、プロジェクトの立ち上げなどを行う。

 既に新規プロジェクトについての議論が行われており、まずは3つのテーマを設定した。(1)フレイル予防に向けたパーソナルヘルスレコード(PHR)とAI解析の融合による行動変容ツールの開発、(2)受精卵タイムラプス画像のAI解析による良好胚の選別、(3)CT画像などのAI解析に基づく虐待が疑われる児童の医学的判別支援システムの構築、である。

新規プロジェクトの概要(写真:オンライン記者発表会の画面キャプチャー、以下同)

 企業と大学が連携するこうした事業は、プロジェクトありきで進む場合が多いが、今回は「連携できる体制を作った後、プロジェクトを構想していくのが特徴」と山口大学 AIシステム医学・医療研究教育センター長の浅井義之氏は説明する。

 エクサウィザーズはAI技術をさまざまな領域に応用しているが、「医療の領域は特に専門知識が必要。大学全体と連携できることに感謝して、医療現場で使える成果を出すことを目指したい」とエクサウィザーズ 取締役会長の春田真氏は意気込む。

エクサウィザーズ 取締役会長の春田真氏

 同社では医療領域の事業にも力を入れており、創薬研究におけるAI活用を皮切りに、細胞画像の解析や病理診断支援システムの開発など事業拡大を図ってきた。データとAIを活用して、患者と医療・介護従事者の双方にとって価値のあるヘルスケアの実現を目指している。

 最近では、体の骨格をAIで抽出して、どんな動作を行っているかを解析する技術の研究開発も進めており、スマートフォンに実装して簡単に使うことが可能だという。共創事業で取り組むプロジェクトのうち、(1)のフレイル予防に向けた行動変容ツールの開発では、高齢者の動きを解析するため、「アプリケーションレベルに実装された骨格抽出のAI技術を応用できるだろう」とエクサウィザーズ MedTech部 部長の羽間康至氏は言う。

将来的には“地域密着型AIホスピタル”として集約

 山口大学では、かねてデータサイエンスを重視しており、医学部における教育でもプログラミングや生体機能シミュレーションに関する講義をいち早く導入してきたという。医学や医療にAIなどの技術が活用されることを見越して、データサイエンスに精通した医療人の育成に力を入れているというわけだ。

 2018年には、システムバイオロジーとAIを両輪としたAIシステム医学・医療研究教育センターを設置。基礎医学研究の推進や新しい医療技術の開発、データサイエンス医学の人材育成に取り組んでいる。

 柱の一つであるシステムバイオロジーとは、生命現象をシステムとして理解することを目的とする学問のことである。これを医学応用して、多階層的な生体機能のダイナミクス(力学的特性)をコンピューターでシミュレーションすれば、病気の発症メカニズムの解明や、新しい治療技術・治療薬の開発などに応用できる可能性がある。

システムバイオロジーの医学応用の概要

 AIについては、医学に応用すれば、膨大な医用データから、人には見付けられない特徴を探索し、病気の早期発見や治療効果の予測などに応用することができる。

 将来的には、こうした取り組みを“地域密着型AIホスピタル”として集約し、個別化医療の実現や、地方の医師不足をサポートするモデルケースとすることを目指している。システムバイオロジーやAIによって疾患ごとの解析ができるシステムを構築し、「医療スタッフの業務効率化も図りたい」と浅井氏は展望する。

将来展望像

(タイトル部のImage:monsitj -stock.adobe.com)