一人暮らしの高齢者が意識不明で救急搬送されても、迅速に本人の意思に基づいた適切な救急医療が受けられる――。東京都八王子市を拠点とする北原病院グループ(KNI)とNECは、そんな実証実験を2019年7月に開始した。

 「リビングウィル(DLW)」と呼ぶ今回のシステムは、まず、事前に個人の病歴や手術歴、服薬歴、アレルギーなどの医療情報と生活情報、万一の際に延命治療を行うかどうかなどの希望する治療方針を本人承諾の下で保存しておく。救急搬送時には生体認証により個人を同定し、同意内容に沿って救急治療を実施する仕組みである。利用する生体認証情報は、指紋・指静脈・顔認証の3種類。NECの生体認証技術「Bio-IDiom」を活用する。

「既往歴が分からず、血縁者もいないと治療は難しい」

 実証実験は、北原病院グループの事業会社であるKitahara Medical Strategies International(KMSI) が提供する会員制の医療・生活サポートサービス「北原トータルライフサポート倶楽部」の会員が対象。会員種別によって年会費が決められているが、今回の救急医療サポートは月額500円から利用できる。医療情報や希望する治療方針、生体認証情報の登録・保存などはKMSIが、救急医療の実施はKNIが担う。対象の会員が八王子市内の提携医療機関に救急搬送された場合も、医療情報の提供を行う。

KNI理事長の北原氏(写真:Beyond Healthが撮影、以下同)

 KNI理事長の北原茂実氏は、実証の背景として独居高齢者が増加していることを指摘する。「独居高齢者が、自宅で意識がなくなって救急搬送されても受け入れてくれる救急病院はほとんどない。既往歴が分からず、承諾書に署名する血縁者もいないと治療は難しく、例え受け入れても費を支払う人がいるかどうか分からない」(同氏)。

 加えて、昨今は延命治療を望まない人が多くなっていることも今回の実証の背景にあるという。「万一のとき、どのような治療を望むか事前に本人の意思を確認しておくシステムが必要だ」(北原氏)。

 ただし、本人の意思を確認する上では、「(利用者が)教育を受けた上で、どのような治療を望むか自己責任で意思表明することが大切だ」と北原氏は言う。どう生きたいかは、経験や知識によって変化するからだ。「例えば、救命しても植物状態になる可能性が高い患者でも治療の中止を望む家族はほとんどいない。しかし、結果として植物状態になるのを見た家族は、自身はそうした医療を受けたくないと答える。そこには知識の乏しさが大きな問題としてある」(同氏)。そのため、今回の仕組みを機能させるには、様々な教育コンテンツを提供しながら運用していく必要があるとする。