新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を受けた新たな生活様式を余儀なくされる中、健康二次被害が懸念され始めている。例えば、外出自粛の影響で日々の活動量が減少し、基礎疾患やメンタルヘルスが悪化してしまったり、認知機能が低下してしまったりする報告がされている。

 筑波大学 人間総合科学学術院 教授の久野譜也氏によると、外出を自粛していた高齢者が、久しぶりにフィットネス施設に訪れた際、何をしに来たのか忘れてしまったり、徘徊してしまったりする事態が各地で起きているという。同氏のもとには、「人と会わないだけでこれだけ認知機能が低下するなんて…」という相談も数多く寄せられている。

 こうした健康二次被害を予防するために、大阪府高石市と福岡県飯塚市、奈良県田原本町、鳥取県湯梨浜町の4自治体は、ソーシャル・インパクト・ボンド(SIB)を活用した「飛び地型自治体連携プロジェクト」を実施する。2020年7月28日に開催した記者会見で発表した。

 代表自治体である大阪府高石市の市長を務める阪口伸六氏は、「健康街づくりを長年共に進めてきた同志である自治体とともに、COVID-19を正しく恐れた上での健康維持や健康増進を図りたい」と意気込んだ。

大阪府高石市長の阪口伸六氏(写真:記者会見のオンライン画面キャプチャー)
大阪府高石市長の阪口伸六氏(写真:記者会見のオンライン画面キャプチャー)
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 プロジェクトには4自治体のほかに、ICTを活用したヘルスケアサービスを提供するタニタヘルスリンクや、中間支援組織であるつくばウエルネスリサーチ、筑波大学久野研究室が参画する。なお、この仕組みは4自治体が参画する「Smart Wellness City首長研究会」が支援しており、飛び地型自治体連携によるヘルスケアプロジェクトは2018年と2019年に続いて3例目となる。

 具体的には、4つの自治体が連携して「社会参加型健幸ポイント事業」を実施する。合わせて1万4000人に参加してもらうことを目指している。プロジェクトを通じて、COVID-19のよる健康二次被害の予防に加えて、以前から課題視されていた社会保障費の急増が懸念される2040年問題の解決にもつなげたい考えだ。2020年9月までに各自治体が順次事業をスタートする予定で、2025年に4つの自治体で11億8000万円の医療費・介護費の抑制を達成することを目指している。

「タニタ健康プログラム」を実施

 社会参加型健幸ポイント事業では、80~90歳代の後期高齢者でも参加できる取り組みとして、タニタヘルスリンクが手掛ける「タニタ健康プログラム」を実施する。通信機能を搭載した体組成計や活動量計などを使って自分の状態を計測することと、管理栄養士や健康運動指導士などの専門職によるサービスを組み合わせたプログラムである。体の状態や活動量を見える化したうえで、生活習慣の改善や定着をサポートする。

「タニタ健康プログラム」の概要(出所:タニタヘルスリンクの発表資料)
「タニタ健康プログラム」の概要(出所:タニタヘルスリンクの発表資料)
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高齢者への対策の概要(出所:タニタヘルスリンクの発表資料)
高齢者への対策の概要(出所:タニタヘルスリンクの発表資料)
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 大阪府高石市と福岡県飯塚市、奈良県田原本町には、タニタヘルスリンクの個別健康づくりソリューション「T-Well」も導入する。T-Wellでは、参加者の体力や身体活動量、体組成データに合わせた筋力トレーニングや有酸素メニューを提示する。このほか、個人の食事記録や食習慣アンケートの情報を基に、運動や食習慣の現状と改善点をまとめた紙のレポートを作成したり、健康二次被害に対応した情報発信をしたりといった支援も行う。

「T-Well」の概要(出所:タニタヘルスリンクの発表資料)
「T-Well」の概要(出所:タニタヘルスリンクの発表資料)
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 歩数や体組成データの改善、健康行動の継続などのプロジェクト達成度に応じて「健幸ポイント」を付与する。健幸ポイントは、地元の商業施設で利用可能な商品券に交換できるため、参加者のモチベーションを維持する狙いだ。健幸ポイントを利用した健康街づくりへの取り組みは、これまでも行われてきており、大阪府高石市では健幸ポイントの導入後、「医療費が下がってきている」と阪口氏は説明する(関連記事:健康への「無関心層」をターゲットに成果、SWC首長研究会)。

高石市の医療費の推移(出所:阪口氏の発表資料)
高石市の医療費の推移(出所:阪口氏の発表資料)
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 特に、高齢者や仕事を退職したリタイア層への社会参加を促すため、これらの層に対しては、プロジェクト入会時に「健幸アンバサダー」に就任してもらう。健幸アンバサダーは、健康情報を身近な人に伝えるボランティアである。参加者自身の健康度を向上させるとともに、参加者の社会的役割を創出する狙いだ。

 COVID-19の健康二次被害で最も怖いのは、「要介護や要支援の認定率が上がること」と奈良県 田原本町 町長の森章浩氏は言う。同市では高齢化率が30%を超えており、年々認定率が上がっている中、さらに認定率が上昇して医療費が増大することを懸念する。

 さらに、外出や活動を過度に控えてストレスがたまり、免疫力が下がった状態でCOVID-19に罹患して重症化するという悪循環を防ぎたいと強調した。そのためにも、「COVID-19への感染防止策を適切に行い、正しく恐れた上で、With コロナの生活を楽しめる街を目指したい」と同氏は意気込む。

奈良県 田原本町長の森章浩氏(写真:記者会見のオンライン画面キャプチャー)
奈良県 田原本町長の森章浩氏(写真:記者会見のオンライン画面キャプチャー)
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COVID-19の影に隠れた社会課題にも

 外出自粛によって運動不足になると、免疫が低下することが分かっている。つまり、「COVID-19に感染しやすい体になってしまっている」と久野氏は指摘する。これからの社会には、感染拡大を防ぐことと、感染しないための健康づくりのバランスをとることが求められるというわけだ。

筑波大学 人間総合科学学術院 教授の久野譜也氏(写真:記者会見のオンライン画面キャプチャー)
筑波大学 人間総合科学学術院 教授の久野譜也氏(写真:記者会見のオンライン画面キャプチャー)
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 実際、今回プロジェクトに参画する4つの市町に住む75歳以上の後期高齢者を対象に、2020年7月に行った調査では、8割の人が外出頻度の減少を自覚していた。特に、趣味や娯楽、友人に会うといった用事での外出を控えているようだ。そして、友人に会えなくなったことがメンタルヘルスの悪化につながったと答える人が多かったという。

 人とコミュニケーションを取りながら地域で楽しく過ごすことが健康長寿につながることが過去の研究で分かっているにも関わらず、面と向かってのコミュニティーが制限され、ストレスの増加につながっているようだ。

 孤独感とストレスの関係は、今回のプロジェクトのもう一つの目的である2040年問題にもつながる。2040年問題とは、人口のうち後期高齢者が占める割合が増え、社会保障費の急増が懸念されていることである。

 久野氏らが兵庫県西脇市と共同で行った住民調査では、独居者や孤食者(一人で食事を取る人)の割合が80~90歳代で急増していることが分かったという。これまでの研究で独居者や孤食者ほど要介護の状態になりやすいことが分かっており、後期高齢者の割合がさらに増加する2040年に向けては、こうした課題も解決する必要がある。

 このほか、国内では小中学生の長期欠席や若者の無業者、就業者の病期休業など“新しい国民病”と呼ばれる課題も存在する。こうした課題を抱える人に対しては、家族のサポートが必要不可欠であり、実に「日本人の6人に1人は何らかの事情でこうした国民病に関わっている」と久野氏は指摘する。

 ただし現在、多くの自治体ではCOVID-19の対策に追われており、他の課題にまでなかなか手が回らないのが現状のようだ。そこで、今回のプロジェクトでは後期高齢者だけでなく全世代を対象にした健康街づくりを行うことで、こうした課題解決にもつなげたいとする。

(タイトル部のImage:出所は大阪府高石市など)