ヘルスケア×IT(デジタルヘルス)分野での存在感を高めているイスラエル(関連記事)。2019年7月に神戸で開催された「イスラエル・デジタルヘルスセミナー 2019」では、イスラエルから9社が参加し、自社サービスのプレゼンテーションで熱弁をふるった。

 9社のプレゼン内容は、傾向として大きく4つに分かれた。(1)独自デバイス/センシングによるバイタルサイン計測、(2)睡眠ソリューション、(3)高齢者向けソリューション、(4)医療業務効率化と医療機器のサイバーセキュリティー、である。このうち本記事では、(1)と(2)についてレポートしていく。

デバイスをすべて自社開発

●Beecardia

Beecardia Founder & CEO ヴィタリー・シロタ氏

 Beecardiaは循環器、呼吸器分野でのデジタルヘルスプラットフォームを提供する。ウクライナとイスラエルの2拠点で展開しており、ウクライナでは30年以上の医療機器開発経験がある。

 プラットフォームはECG(心電図)センサー、電子聴診器、肺活量計などから成り、ポータブルな往診セットとして携帯が可能。これにより、看護師が患者宅へ往診し、収集したバイタルサインをクラウドにアップして担当医師が遠隔から診断する仕組みである。ノイズ除去のアルゴリズムにより、高品質なバイタルサインを取得できる。

Beecardiaの遠隔医療ポータブル往診セット

 同社Founder & CEOのヴィタリー・シロタ氏は「手頃なクラウドベースの医療サービスをあらゆる家庭に提供して命を救うことが我々のミッションだ」と語る。ウクライナでは移動式ナースステーションとかかりつけ医、中央病院を接続して農村地域の遠隔医療手段として導入されている。標準的な診断方法であるECGを採用し、デバイスをすべて自社開発することで柔軟性を保っていることも利点だ。

「これからも日本のパートナーを増やしていきたい」

●Biobeat

Biobeat Business Development Manager オリ・レヴィ氏

 キャッチーなスマートウォッチ状のデバイスとウエアラブルパッチによって遠隔モニタリングを実現するBiobeatのソリューション。血圧、心拍数、体温といった複雑なバイタルサインを非侵襲で計測する。

 計測技術にはPPG(光電式容積脈波記録法)を採用した。これはApple Watchの心拍数測定にも用いられるものだが、同社Business Development Managerのオリ・レヴィ氏は「我々のデバイスはれっきとした医療機器なので精度が段違い。ノイズを極力低減することに成功した」と技術力の高さに胸を張る。さらに独自アルゴリズムの併用により非常にクリアなシグナル伝送を可能とした。

Biobeatによる2つの独自ウエアラブルデバイス

 ウォッチは長期利用、パッチは5日〜8日間の短期利用となる。パッチはディスポーザブル式で、どちらも欧州のCEから承認済み。一部の機能は米国FDAから適用の承認を受けており、日常生活における医療向けウエアラブルモニタリングの新手法として期待されている。

 「ウォッチを装着することで血圧を継続的に計測できる。PPGでこれを可能にしているのはおそらく弊社ぐらいだろう。今後は製薬企業の治験モニタリングなども考えられる。ある日本の大企業からは、バイタルサインを読み取ることで従業員の疲労感をモニタリングしたいとのオファーもある」とレヴィ氏。その他、慢性疾患患者、在宅高齢者、介護付き施設での利用など、手軽に導入できるだけに応用できる分野は多い。

●Elfi-Tech

Elfi-Tech VP Product & Business Development オリ・ブライトバート氏

 Elfi-Techが提供するのはレーザーを利用した独自のセンシング技術。体内の血流をオンラインで可視化する医療機器を開発して、すでに実用化している。同社VP Product & Business Developmentのオリ・ブライトバート氏はその独自デバイスを人さし指に装着しながらプレゼンを進めた。

 「光学機能によって血流を測定するのが他社との大きな違い。この人さし指につけたデバイスで血圧を計測できる。非常に小さくポケットに入る大きさだ。高齢者によっては、カフを巻くのさえ大きな負担になる場合もある。処理のアルゴリズムも我々が開発した」(ブライトバート氏)

Elfi-Techの小型デバイス

 計測技術は異なれど、さまざまなバイタルサインを非侵襲で取得する手段はBiobeatと似ている。例として挙げたのは血圧、心拍数、呼吸などだ。シグナルの品質も高く、小型のメリットを活かして手の指だけでなく足にも装着できる。ユースケースとしては在宅看護、遠隔医療、高齢者のケア、睡眠モニタリングなどを想定している。日本の村田製作所とは、建設現場の作業者安全モニタリングシステムで提携した実績がある。そのうえでブライトバート氏は「これからも日本のパートナーを増やしていきたい」と語った。

異なるアプローチから睡眠を科学する

●Neteera

Neteera Director of Business Development and Marketing マリア・レヴィン氏

 Neteeraの提供ソリューションはBiobeatやElfi-Tech同様の独自デバイス/センシングによる遠隔モニタリングだが、計測技術に敏感な「BCG(心弾動)」を用いる。これは心臓の鼓動に伴う微小な体の振動をキャッチするもので、ここから心拍、呼吸速度、心拍変動などを計測する。

 創業者はインテルに巨額買収されたMobileye出身で、技術力は高い。自動運転時の乗客データモニタリングでも注目される同社の技術は、デジタルヘルスでもいかんなく発揮されている。マイクロ波レーダーをチップ上に乗せた4.5センチ四方の小型デバイスを開発。同社Director of Business Development and Marketingのマリア・レヴィン氏は「弊社のセンサーはリモートでバイタルサインの測定が可能。2メートルまでの範囲内であれば、患者のバイタルサインを測定できる」と言う。

 同社では測定精度を向上するため、動作補正のアルゴリズムを開発。より明確なバイタルサインの取得を可能とした。レヴィン氏は米国で進行中の睡眠時無呼吸症候群患者の臨床試験サンプルを示しながら、「どこで呼吸が止まっているかが一目で分かる」と精度の高さを強調した。

Neteeraのデバイスとソリューション概要

 肌に身につけない遠隔モニタリングによって、睡眠を始め、入院患者、在宅患者、新生児などさまざまな計測に利用できる。先述したようにこの技術はすでにドライバーのモニタリングに活用されており、13種類もの特許を有する。2019年2月にFDAの認証プロセスを開始し、2020年に向けて本格展開を見込む。

●Widemed

Widemed CEO ヤーコブ・バー・レヴ氏

 Widemedは2000年の設立以来、睡眠実験室による検査、在宅睡眠検査の自動分析技術を提供してきたその道のパイオニア。コンピュータによる睡眠スコア支援ソリューションとして世界で初めてFDAの認証を取得した。

 同社CEOのヤーコブ・バー・レヴ氏は、現代人が受ける過度なプレッシャーが睡眠障害や睡眠時無呼吸症候群を引き起こすとするが、「大半の人はそのことにさえ気づいていない。なぜなら睡眠検査は2時間もかかるからだ。睡眠に関して問題を抱えている人たちすべてを検査するのは不可能に近い」と指摘する。

 そこで同社が開発した小型デバイスが有用だと説く。デバイスで取得したデータを自動分析ソリューションに収集し、クラウドを介して医師の診断を仰ぐ。「我々はデバイスを売っているのではなく、あくまでサービスを提供している。自分の慣れ親しんだ自宅の環境で睡眠検査を行い、サービスで稼ぐモデル。5~10分で分析できるのもメリットだ。医師は分析結果の報告書を見て、この患者にはCPAP(睡眠時無呼吸症候群用の装置)が必要なのか、それとも他の治療方法が必要なのかを判断できる」(レヴ氏)。

日本語で書かれたWidemedのサービス概要

 欧米で事業化も済んでおり、NASAとの協業では宇宙空間での宇宙飛行士の睡眠テスト用に同社のシステムが採用された。こうした実績を武器に、日本での事業会社設立にも意欲を燃やす。


(タイトル部のImage:mikelaptev -stock.adobe.com)