脳腫瘍の中でも治療困難であり最も予後が悪い膠芽腫(グリオブラストーマ)に対して、免疫チェックポイント阻害薬と「ナノマシン」技術を併用する化学免疫療法を開発し、動物実験で顕著な抗腫瘍効果を認めたと、川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)の喜納宏昭氏らが8月4日に発表した。この成果は、東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻との共同研究によるもので、8月6日に米国化学会が発行する学術誌『ACS Nano』に掲載された1)

抗がん剤を脳腫瘍にナノマシンで運び込む

川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンターの喜納氏(記者説明会時のオンライン画面キャプチャー)

 脳においては良性腫瘍ですら治療が困難で命に関わるとされている。悪性脳腫瘍はさらに治療困難で、中でも悪性度が高いのが膠芽腫だ。5年生存率は10%。標準治療は放射線照射と抗がん剤(テモゾロマイドなど)投与だが、それでも数カ月しか延命ができない。30年以上、5年生存率の改善に至っていなかった。

 悪性脳腫瘍の治療成績が悪い背景の一つに、血液脳関門(BBB)と呼ばれる血液と脳との間のバリアの存在により、脳にできたがん細胞に薬剤を効かせるのが難しいという問題がある。

 喜納氏らが開発した新技術の重要なポイントは、薬剤の到達が困難な膠芽腫に対して、ナノマシンと呼ばれる技術を用いて、膠芽腫には薬剤を効かせづらいというハードルを乗り越えたことだ。「我々は体内病院を目指している。体の中で検出、診断、治療を同時に行うミクロ決死隊。ウイルスサイズのスマートナノマシンで実現しようとしている」と喜納氏は言う。

 ナノマシンの技術は、体内の病巣をピンポイントで狙うための「運び屋」を用いて、医薬品をあたかも機械のように機能させる技術だ。「親水性ブロックと疎水性ブロックがリンカーでつながり集まって自己組織化する。20~100nm。ナノドラッグデリバリーシステムに成功している」と喜納氏。こうして集まった分子の内部が疎水性ブロック、外部を親水性ブロックが包み込むような形状の「ミセル」を作るのが重要だ。これがナノマシンで、この内部に医薬品などを入れることで、いわばカプセルのように体内の目的の場所に運べるようになる(図1)。

図1●体内の病巣に薬剤をピンポイントで届けるナノマシンの仕組み(出所:喜納氏発表スライド、図2も)