フィリップス・ジャパンは、2020年9月から遠隔集中治療ソリューション「eICU」を日本市場で販売する。同年9月1日に開催したオンライン発表会で、その概要や導入済み病院での利用状況・有効性などを紹介した。

 eICUは、支援センターと複数の集中治療室(ICU)を遠隔接続することにより、それぞれのICU患者の状態やデータを支援センターの医師や看護師がモニタリングする仕組み。海外では既に15年以上にわたって550の医療施設で導入されてきた実績を持つ。日本では2020年7月に薬機法の認証を取得した。

フィリップス・ジャパン 代表取締役社長の堤浩幸氏(写真:オンライン会見の画面キャプチャー、以下同)

 日本市場への導入により、重篤患者の急増や医療従事者不足、医療の質の格差、新型ウイルス感染拡大への不安といった課題を解消していく考え。フィリップス・ジャパン 代表取締役社長の堤浩幸氏は、eICUについて「集中治療現場の課題を的確に把握し、医療従事者とともにその課題を一つひとつ解決していくソリューションだ」と位置付ける。

 既に導入が進んでいる米国では、死亡率26%低下、在室日数30%短縮、患者1人あたりのICU費用5000米ドル削減などを実現しているという。これから日本での普及を進めていくことで、「現場に即したより良いソリューションを提供し、日本の医療に役立つ新しいソリューションを開発していく」(フィリップス・ジャパン コネクテッドケア 事業部長の田口賢氏)とする。

最大150床のベッド集中治療医1人で

 フィリップス・ジャパンの田口氏は、eICUのテーマとして「People」「Technology」「Process」の3つを挙げる。

フィリップス・ジャパン コネクテッドケア 事業部長の田口賢氏

 「People」は「支援体制」を示す。田口氏によれば、24時間365日運用されるeICU支援センターでは、最大150床のベッドをカバーしようとした場合、集中治療医は1人、専任看護師は3人、医療事務は1人で対応できるという。

 「Technology」には、「CDSアプリケーション(臨床支援ツール)」「オンラインビデオシステム」「レポーティング」「ベンチマーキング」などがある。このうちオンラインビデオシステムは、天井に設置するスピーカーフォンやカメラ、さらには現場が支援を求める際に利用するボタンなどを利用し、eICU支援センターとベッドを24時間365日つなぐ。こうした設備がない施設の場合は、モバイルカートを用いることで同様の仕組みを実現する。

オンラインビデオシステムのイメージ

 「Process」は「支援連携」を指す。田口氏は「PeopleとTechnologyが合わさることで初めてProcessが出来上がる」とし、「短期的と長期的、両方の観点でのプロセスを作り上げることが重要だ」と説く。短期的なプロセスは、目の前の患者をモニタリングし診断・治療の支援を行うことで、ベストプラクティスや臨床介入につなげていくという流れだ。さらに、そこで得らえたデータを分析することによって臨床的な運用改善につなげていくことが、長期的なプロセスの流れとなるとした。

eICU活用が「COVID-19対応に役立った」

 発表会には昭和大学医学部集中治療医学講座の小谷透教授が登壇。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療におけるeICUの活用などについて語った。

昭和大学医学部集中治療医学講座の小谷透教授

 昭和大学は、現在4つの病院を運営。そのうち昭和大学病院と江東豊洲病院でeICUが2018年7月から本格稼働しており、50床のベッドを同時にモニタリングしている。将来的には残りの2病院にも導入し、100床以上を統合して支援していく考えだ。

 小谷氏によれば、今回のCOVID-19の発生にあたって、4月ごろから重症患者が急増し、最重症患者に行うECMO(Extracorporeal membrane oxygenation:体外式膜型人工肺)もうなぎ上りに増えた。東京ではCOVID-19以外の重症患者を普段からケアしている病院が多くあったため、それらの病院は「COVID-19陽性患者の治療と普段の医療とのバランスをどう保っていくべきかという問題に直面した」(同氏)という。

 昭和大学病院でも、都立病院から多数の転送依頼があり、ECMO患者も含めて患者が増加したため「危機的な状況に陥った」(小谷氏)。ただ、幸いにも陰圧個室を多数備えていたことから、中等症患者は一般病棟に、重症患者はICUに振り分けることで患者増に対応した。

 これに加えて、eICUの活用が「COVID-19対応に役立った」と小谷氏は振り返る。陰圧個室内にいるCOVID-19陽性患者は完全防護服を着て診療する必要があるため、完全防護服を1度脱いでしまうと、患者の個室にもう一度入り直すことが簡単ではないからだ。さらに、COVID-19陽性患者の治療はチーム医療で展開されるため、通常であれば多くのスタッフが部屋に入る必要があることも見逃せない。スタッフの安心・安全の確保は重要であり、院内感染を引き起こすことは避けたい。

 そこで昭和大学病院では、スタッフの安心・安全を確保すべく、ワークフローを見直した。各スタッフの業務負担を低減し、「できるだけ短い時間で、患者を十分にケアできるような形に変更した」(小谷氏)。そこで、患者をリアルタイムでサポートし、業務の質を担保するためのツールとして機能したのがeICUだったという。

昭和大学でのeICUの成果

 eICUの導入によって、ICU入室患者の予測値に対する実死亡率が「半分以下に改善された」という成果を小谷氏は紹介した。eICUによってICUのベッドを有効活用できるようになったため、院内の急変患者にも迅速に対応することが可能になり「病院全体の死亡率も改善された」というデータも得られているという。

 一方で、近年は「入室時の重症度が年々増加している」という背景から、患者の滞在日数が増えたというデータも出ているという。小谷氏はこれを、「重症患者に等しく治療機会を与える」という意味では見逃せない問題と認識している。滞在日数の増加はeICUの解析データからリアルタイムで知ることができるので、「そこが次に改善すべき目標であり、改善のためのモチベーションにもつながる。その意味でも、このようなデータは非常に重要だ」と結論付けた。

(タイトル部のImage:オンライン会見のキャプチャー)