手術室をあたかも1つの医療機器として機能させるスマート治療室「SCOT」(Smart Cyber Operating Theater)――。既に、そのハイパーモデルが東京女子医科大学、ベーシックモデルが広島大学、スタンダードモデルが信州大学に導入済みで、実際の手術に活用されている(関連記事)

スマート治療室「SCOT」。平成26年度から平成30年度までの5年間にわたりAMED(日本医療研究開発機構)の支援下で、東京女子医大、広島大学、信州大学など5大学と、デンソー、日立製作所など国内企業11社による“オールジャパン”体制で開発が進められてきた(写真:Beyond Healthが撮影)

 このSCOTの中核を成すプラットフォームが、「OPeLiNK(オペリンク)」である。デンソーが、同社が保持する工場内のミドルウエア「ORiN」を応用し、メディカル分野の新事業として取り組んできた手術情報統合システムだ。手術室内で利用される各機器からのデータを一元管理することで、これまで手術者の脳内で組み立てられていた判断情報を可視化・共有する仕組みである。

 デンソーはこのたび、オペリンクの事業をカーブアウトさせ、外部人脈を投入して新会社「OPExPARK(オペパーク)」を設立した。オペリンクを担当していた同社のチームを中心として、代表に現役医師が就任。現場の視点を反映しながら事業を展開していく。

デンソー ソリューション事業推進部 部長 永井立美氏(写真:小口 正貴、以下同)

 デンソー ソリューション事業推進部 部長 永井立美氏は新会社設立の経緯について、「2019年3月にAMED(日本医療研究開発機構)のプロジェクトが完了し、本格的な事業展開を社内で議論した結果、まずは一刻も早く社会実装すべきと考えた。そのためにデンソーの外で事業を育てることにした」と説明する。

事業化支援のアクセラレーションプログラムがきっかけに

 新会社設立は、前述の通りカーブアウトの手法を採用した。カーブアウトとは事業の一部を切り出し、外部パートナーの投資・人材といった経営資源を活用してベンチャー企業を育成するものだ。今回、資本パートナーに選んだのは医療・ヘルスケア分野のベンチャー投資で高い実績を誇るBeyond Next Ventures。同社はこれまで、富士通のカーブアウトベンチャーであるQDレーザ、筑波大学発ベンチャーのサイバーダインなどに出資を行ってきた。

 オペパーク設立のきっかけは、Beyond Next Venturesが手がける「BRAVE」という事業化支援のアクセラレーションプログラムだった。BRAVE は技術シーズに特化した2カ月間のプログラムで、事業計画作成、知財戦略、資金調達などを学びながら“経営者の視点”を身につける。

 Beyond Next Ventures 代表取締役社長 伊藤毅氏は「我々は組織に所属しながらベンチャー設立の経験を積むことができるプログラムを2年前から開催し、過去5回の実績で5人の創業者/共同創業者を輩出した。オペパークにおけるデンソーのチームと経営者もこのプログラムを通じて出会った」と語る。

Beyond Next Ventures 代表取締役社長 伊藤毅氏

 Beyond Next Venturesでは経営者候補のマッチングを担当した。複数名をピックアップする中から選ばれたのが本田泰教氏だ。「本田さんとデンソーのメンバーが非常に意気投合した。また、十分に投資に値する事業計画書が完成したこともあり、今回のカーブアウトに至った」(伊藤氏)。今回、同社にとってカーブアウトプログラムによる会社設立は初めてとなるが、今後は同様のプログラムを推進していきたいという。

社長の経歴は…

 本田氏は信州大学医学部卒業後、日本赤十字医療センター消化器内科などに所属。昨年1年間は欧州大手コンサルのローランド・ベルガーで医療分野のコンサルに従事した経験を持つ。

OPExPARK 代表取締役社長 本田泰教氏

 本田氏はオペパークのミッションを「医師の判断を見える化し、どこでも最善の医療を享受できる世界の実現に貢献する」ことだと話す。具体的には、オペリンクを活用した情報統合システムの販売、そして同システムから抽出した手術動画や情報コンテンツを教育向けに制作・配信する事業が柱となる。

 本田氏は現役医師の視点から「現場の医師は1人でも多くの患者の命を救うために高価な教材で学んでいる。優れた手術者には、予期せぬことが起きたときに対応できる引き出しの多さが必要だ。時間同期可能なシステムや教育コンテンツの提供を通して、手術者の経験値が力量を大きく左右する課題を解決したい」と決意を述べた。

(タイトル部のImage:小口 正貴)