ボストン・サイエンティフィック ジャパンは、心房細動という不整脈に伴って起こる脳卒中(心原性脳梗塞)を防ぐ「WATCHMAN左心耳閉鎖システム」を9月2日に発売し、18日に報道関係者向け説明会を開催した。

 左心耳とは、左心房から突き出した“盲腸”のような部位(図1、2)。心房細動が起こるとそこに血液が滞留し、脳梗塞の原因となる血栓が形成されやすい。「WATCHMANでは、鼠径部よりカテーテルを挿入し、心房中隔を経て左心耳に形状記憶で自己拡張するフレームを留置。数カ月後には自然にフレームを内皮細胞が覆うことで左心耳を閉鎖する。これにより、出血リスクを伴うワルファリンなどの抗凝固薬の服用を中止できる可能性がある」と東邦大学医療センター大橋病院循環器内科准教授の原英彦氏は説明する。

図1●WATCHMAN埋め込みイメージ 左心房から突き出した“盲腸”のような部位が左心耳(出所:© 2019 Boston Scientific Corporation. All rights reserved. 図2も)

 心房細動はよくある不整脈の一つで、加齢とともに発症することが多い。80歳以上では10人に1人は心房細動があるといわれ、高齢化に伴い患者数が急増。2010年時点で80万人だった患者数は、10年後の2030年には100万人を突破すると予想されている。心臓では、本来洞房結節から一定のリズムで電気信号が起こり正常な拍動を作り血液を体内に循環させる。一方、心房細動では心房に無秩序な電気信号が起こることで小刻みに震え、心房が規則正しく収縮ができず、心臓のポンプ機能が20〜30%低下する。長年心房細動が繰り返されると心房の変形が進み、心不全の原因にもなる。

 心房細動のもう一つの大きなリスクが、血栓の生成だ。心房細動で心房内に血液が滞留すると血栓ができやすく、剥がれた血栓が動脈を通って移動し脳卒中(心原性脳梗塞)の原因となる。心原性脳梗塞の9割が左心耳に起因するといわれている。心房細動患者の約3分の1が脳卒中を発生し、心房細動がある人はない人に比べて脳卒中のリスクが5倍高いという報告もある。

図2●WATCHMANが留置された左心耳 WATCHMANは、塞栓を防ぐ約200μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルターと、ナイチノール製フレームで構成されている。PETフィルターは塞栓を防ぐとともに、内皮細胞による被膜生成を促進する。

 このため、塞栓症のリスクが高い(心不全、高血圧、糖尿病、脳梗塞の既往や高齢者)心房細動患者には、長期にわたり抗凝固薬治療が行われる。一方で、「心原性脳梗塞のリスクが高い人は抗凝固薬の投与による出血リスクが高い人とも重なり、実際には長期間経口抗凝固薬療法を行えない人たちも少なくない。これが治療上のジレンマになっていた」(国立循環器病研究センター心臓血管内科部長の草野研吾氏)。

 WATCHMANは、心房細動による脳梗塞の予防効果を期待できるとともに、抗凝固薬による出血リスクを低減できる方法として注目されている。欧州では2005年に、米国では2015年に承認されている。

全例でワルファリンの服用が中止された

 WATCHMANの承認に当たっては、2000人以上を対象にした複数の臨床試験が実施された。1114人を対象にした「PROTECT AF試験」と「PREVAL試験」の2件のランダム化比較試験(RCT)で、ワルファリンと比べて出血性脳卒中リスクの低減と、長期的な出血性イベントの低減が確認された。ワルファリンとの比較では、心血管死/原因不明の死亡は52%低減(P=0.006)、手技6カ月以降の大出血は72%低減(P<0.0001)、出血性脳卒中は78%低減(P=0.0004)した。また、PROTECT AF試験とPREVAL試験のメタアナリシスでは、WATCHMAN留置期間が長いほど出血性イベントが低減した。

 42人の日本人を対象にしたSALUTE試験では、脳卒中、全身性塞栓症、心血管死の発現率で有効性を、周術期の重篤な合併症の発現率で安全性を評価、全例でワルファリンの服用が中止された。手技から1年後の経過を調べた試験では、虚血性脳卒中が2例(4.8%)認められたが、いずれも体に障害は認められず、入院も必要ない軽度のもので、塞栓性の脳梗塞ではないと判断された。また、出血性脳卒中や全身性塞栓症、心血管死は認められなかった。経食道エコーで、留置後1年まで左心耳が適切に閉鎖されていることも確認された。

国立循環器病研究センター心臓血管内科部長の草野氏(撮影:武田京子)

 なお、日本循環器学会では、WATHCMANの適正使用指針および実施施設認定のフローが定められた。メーカーの市販後調査対象患者は、CHADS2スコアまたはCHA2DS2-VAScスコアに基づく脳卒中および全身性塞栓症のリスクが高く、長期的に抗凝固療法が推奨される非弁膜症性心房細動患者。さらに、(1)HAS-BLEDスコア(抗凝固療法における大出血のリスクを評価する指標)が3以上、(2)転倒に伴う外傷に対して治療を必要とした既往が複数回ある、(3)びまん性脳アミロイド血管症の既往がある、(4)抗血小板薬の2剤以上の併用が1年以上にわたって必要、(5)出血学術研究協議会(BARC)のタイプ3に該当する大出血の既往がある──の1つ以上に適合する患者であることとされた。

 また、実施施設基準は、(1)日本循環器学会認定循環器専門医が2人以上在籍、(2)日本不整脈心電学会認定不整脈専門医が1人以上および日本心血管インターベンション治療学会が認定する血管カテーテル治療専門医が1人以上在籍──など。実施施設認定までには、製造販売業者による施設調査、トレーニングの受講、日本循環器学会による認定証発行を経る。ボストン・サイエンティフィック ジャパン代表取締役社長のスティーブン・モース氏は、「今年中に30〜45施設で実施されるようになるのではないか」とみる。

 「近年、左心耳閉鎖手術や胸腔鏡下左心耳切除術など、心房細動の脳卒中予防療法として左心耳治療に注目が集まっている。今回の左心耳閉鎖デバイスWATCHMANの登場で、治療の幅が広がった」と草野氏は話している。

(タイトル部のImage:mikelaptev -stock.adobe.com)