医療機関向けの業務効率化サービス「AI問診Ubie」。そして、患者向けの病気推測サービス「Dr.Ubie」。これらを手掛けているのが、スタートアップのUbieだ(関連記事)

 「AI問診Ubie」は提供を始めて約2年が経過。大規模病院10件を含む100件を超える医療機関が導入しているという。そして現在、同社はインド市場にも挑戦している。インド版「Dr.Ubie」の提供を2018年10月に開始した。

 ここに至るまでにUbieはどのような段階を踏んできたのか。「TECH for LIFE SOLUTION DAY」(主催:INDEE Japan、共催:LINK-J、2019年9月に開催)では、「世界を目指すヘルスケアスタートアップが黎明期にやったこと」と題してUbie 共同代表の久保恒太氏が登壇。後半にはINDEE Japan テクニカル・ディレクターの津田真吾氏とトークセッションを繰り広げた。

初期段階で事業ピボット(方向転換・方針変更)を実施

 前半ではまず、Ubieの久保氏が自社の経緯について紹介した。

Ubieの久保氏(写真:近藤 寿成、以下同)

 創業のキッカケは、2012年の第3次AIブーム到来の中で、「自分も何かAIのビジネスをやりたい」(久保氏)と思い立ったこと。日本は医療における課題先進国であることから、「医療分野であれば、米国や諸外国とも戦っていける」(同氏)と考えたという。

 最初に手掛けたのが、日本で展開した患者向けソリューション「Dr.Ubie @JAPAN」。当時はまだ競合サービスはなかったものの、BtoCサービスの課題として「AIの学習データが取りにくい」「規制のシビアさ」などが存在したという。そこで、INDEE Japanから出資を受けるとともに事業ピボット(方向転換・方針変更)を行った。

 その中で開発することになったのが、医療機関向けの「AI問診 Ubie」である。これは、紙の問診票をAIによる事前問診へ代えていくサービス。医師がデスクワークに忙殺されている現状に対して、「業務の効率化」の価値を提供していく。

 患者が入力した情報は医師語へ翻訳されるので、その内容は電子カルテにそのままペーストできる。このため、「電子カルテに記入していた時間を削減できる」(久保氏)ようになる。競争優位性として、「教師あり学習」で継続的にAIが賢くなる仕組みも組み込まれている。

インド市場を選んだ理由は…

 一方で、課題だったのが「高齢者がユーザーであることの障壁」(久保氏)だという。「AI問診 Ubie」はタブレット端末で入力するのだが、例えば、最初に選ぶ「主訴」をユーザーが選び出せないという状況があった。そこでさまざまな検証を重ね、カラオケの入力デバイス(リモコン)などから着想を得て、タップだけで済む新しいUIを採用した。

 当初は小さなクリニックへの導入も想定していたが、大病院の方が時間削減へのニーズが高いことが分かったことから、病院向けにピボットして開発を進めるようになったという。その結果、現在では「大病院10件を含む100件以上の医療機関に導入」(久保氏)されており、外来での問診時間は実績として1/3に短縮されたとする。

 そして現在は、前述の通りインド市場にも挑戦している。ただし、インドをはじめとする海外では、「営業部を組織してBtoBを攻めることが、スタートアップではなかなか難しい」(久保氏)。このため、Webでユーザーとの接点を持てるBtoCのサービスを選択した。そこで、2018年10月にスタートしたのが、個人の患者向けに、症状にあわせたアドバイスを提供するインド版Webサービス「Dr.Ubie」というわけだ。

 インド市場を選んだ理由を久保氏は、「ユーザーのニーズが強いから」と語る。そもそも、インドは保険に加入している人が非常に少ないばかりか、裕福ではない人が多いことから、受診抑制の傾向が強い。その結果、患者は重症化しがち。そこに、ニーズがあると考えた。さらに、規制についても新規テクノロジーを活用したサービスに対して寛容性が高く、13億人という圧倒的な人口の市場性も魅力的だとする。

 海外展開は始まったばかりのフェーズだが、久保氏は「最初から世界で戦える市場を選び、世界で戦える優位性を作ることが重要だ」と説く。そして、どの国であっても「ユーザーの声が大切」と強調する。インドであれば価格を気にする人が多いことから、「治療費などを提案する機能を付けている」(久保氏)という。

 これを受けて、後半のINDEE Japan津田氏とのトークセッションに移行した。

仮説が間違っていた場合、それを受け入れる文化が重要

 久保氏の講演の最後に「ユーザーの声が大切」という話が出た。その一方で技術開発に対するプライドも存在する。そこで津田氏は「そのバランスをどう取っているのか」と投げかけた。

INDEE Japanの津田氏

 久保氏は「起業した当時と比べると、検証にフォーカスするようになった」と回答。「作ることに時間をかけ過ぎたら終わり」と補足した。過去の経験談として、あるサービスを開始してから約2カ月で10人ほどの利用者すべてがチャーン(churn:離脱)してしまったときに、「ユーザーの声の重要さに気づかされた」と久保氏は語る。

 次に津田氏は、Ubieについて「(事業の)軸はしっかりしつつも、機敏にピボットする」という点を指摘。ピボットする際のポイントや考えなどを尋ねた。

 これに対して久保氏は、「社内での積極的なコミュニケーション」を挙げた。それまでに立ててきた仮説がもし間違っていた場合に、「全員がそれをしっかり受け入れ、次のステップに没頭することを良しとする文化が大切」とし、「(いまのUbieには)そういった環境が形成できていると感じている」と語った。

 「話を聞いていると、すべてがうまくくいっているようにも思えるが、課題はないのか」。津田氏はそう振ると、久保氏は喫緊の課題として「ビジネス系の人材をスケールできていない」と打ち明けた。

 もっとも、そのような人材採用は進めているところだというものの、病院やクリニックから「サービスを使ってみたい」と言われても、「セールスの人材がいないので商談に行けない」(久保氏)のが実態だという。

 津田氏が「ビジネス系の人材とエンジニアで、採用に違いや共通点はあるのか」と聞くと、久保氏は「共通の軸はあるが、事業開発などのセールスにはチャレンジングな部分も必要なので、ビジネス系にはそういった能力が求められる」と回答。そういった人材になかなかリーチできていない中で、「最近はエージェントの利用なども始めている」と久保氏は語った。

いまは参考になる“教科書”がたくさんある

 「若いスタートアップに対して、何かアドバイスや注意点などはあるか」と津田氏が聞いた。これに対して久保氏は、数年前の自身を振り返って「自分たちを安く売るべきではない」と忠告する。

 自分たちに価値があることをクライアントにしっかり伝え、「自信を持ってやることが大切だ」と久保氏は強調。同時に、「いまは参考になる“教科書”がたくさんある」とし、先人が陥った落とし穴にはまらないためにも「学びは大事である」と付け加えた。

トークセッションの様子

 最後に、スタートアップを支援する企業(事業会社)や団体などに対して、どういったサポートが望むのかを津田氏が聞いた。久保氏は「Ubieは投資家に恵まれ、多くの叱咤激励もいただいたので、とくに要望はない」としつつも、創業期に感じた壁として「採用の難しさ」を挙げた。その上で、「シードステージに求められる人材を紹介してもらえるようなコネクションがあると有難い」と吐露し、ディスカッションを終えた。


(タイトル部のImage:mikelaptev -stock.adobe.com)