短期集中リハビリに「金はいくらでも出す」
「脳梗塞で倒れたある有名経営者から、『誰にも知られず2カ月でまたゴルフができるようになりたい。お金はいくらかかってもいい』と言われたことで、世の中にはそういう需要もあるのかと気付いた」──こう話すのは、ポラリスの代表取締役で心臓外科医・リハビリテーション医としての経歴を持つ森剛士氏だ。
森氏は「水分摂取」「食事」「排泄」「運動」の4つのケアポイントに重点的に対応する独自メソッドを開発し、「要介護度の改善」「介護保険からの卒業」を目指す自立支援サービスを提供してきた。実際、同社では2020年までの6年間で608人が介護保険からの卒業に成功し社会保障費の削減に貢献してきたとする。
こうした中で介護保険や社会保障とは全く別の観点からの需要があることに気付き、2020年1月に「豪華客船で世界一周の旅を楽しみながら自立支援介護サービスを受けられる」という企画を発表した。「乗るときは車椅子、降りるときは自分の足で」をうたう、3カ月の集中リハビリを実施する介護ツーリズムだった。ところが乗船者を募集しようという矢先に新型コロナウイルス感染症が拡大し、特にクルージング業界が大打撃を受けたことでこの計画は一旦とん挫してしまった。
海がダメなら陸の上で──との思いに応えたのが、ロイヤルホテル 代表取締役社長の蔭山秀一氏だ。コロナ禍でホテル業界も大きなダメージを受ける中、同社では「新しいホテルのあり方」を模索。例えば新たに提案した長期滞在型宿泊プランは専用に確保した約60室が稼働率6~7割を維持するなど好評で、プランの提供延長を決めたという。
「ポラリスが新たにリーガロイヤルホテルのテナントとして入居することが決まり、話しているときに『宿泊しながらリハビリができて、患者さんを元気にできたらいいね』と盛り上がったことがきっかけで今回の商品化につながった。従来、ホテルの使い方と言えばビジネスかレジャーだった。これからはヘルスケアツーリズムやメディカルツーリズムといった提案もできるのではないかと考えている」(蔭山氏)。
この案に加わったのが、先にリーガロイヤルホテル内に入居していたワイズ(脳梗塞リハビリセンター)だ。脳出血などは40~50代の患者も多いために職場復帰に向けて保険外サービスでも利用したいとの需要が高く、「患者は増えているのに社会保障によるリハビリは限られている。今後は保険外サービスが増えていくとみている」(ワイズ 代表取締役会長兼CEO 早見泰弘氏)。最近は医療施設からの紹介事例も増えているとする。脳梗塞リハビリセンター大阪に関しては県外利用者も多く、利便性を考えて宿泊プログラムも検討していたため、今回の企画に参加した。
ホテル内で同フロアに対面して入居するポラリスと脳梗塞リハビリセンターは、ともすれば慢性期リハビリサービスを提供する競合でもある。そこを「この2社が入居する施設はここが日本初」(蔭山氏)とプラス方向に捉え、保険内のリハビリでは飽き足らない層に向けて、2施設での徹底的な集中リハビリと人気のホテル連泊プランを組み合わせたサービスにしたのが、今回の「ホテルリハビリ」というわけだ。なお、今回のサービスでは内容の重複を避けるために、ポラリスは歩行訓練に特化し、通常はトレーニングも提供している脳梗塞リハビリセンターは痛みや疲れに対応できる鍼灸や手足・生活動作の機能改善に特化する形となっている。
2021年10月1日に提供開始する。基本の「ベーシックプラン」の価格は前述のリハビリトレーニングにリハビリ対象者と付き添いの計2人分の宿泊費(同プラン専用ツインルーム1室2人、諸税・サービス料・朝食含む)30泊分を含めて196万円からと設定する。「体験プラン」として、ポラリスとワイズによるカウンセリング、リハビリ体験を受けられる2泊3日のプラン(同2人分の宿泊費2泊分含む)は11万円から用意している。
今回のサービスに向け、リーガロイヤルホテルは専用に2室を用意している。ベッド脇に手すりが用意されているほか、浴室にも手すりが設置され、入浴時に使う置き式の補助用品を備えている。現段階では特に目標などは設けず、サービスを提供しながら需要を探るとする。