デジタルヘルス(ヘルスケア×IT)に特化したスタートアップ総合支援プログラムである「TECH for LIFE」。ファイザー、バイエル、帝人ファーマなどといった企業がスポンサーとなり、2019年3月から連続してシード・アーリー期のスタートアップ支援を行ってきた。

 5月の「CHALLENGE DAY」(関連記事)を経て、9月6日に成果発表会となる「SOLUTION DAY」が開催された。CHALLENGE DAYで見出されてアクセラレーションプログラムに参加したスタートアップに加え、直接参加した企業を合わせた計9社が登壇し、自社サービス/ソリューションについて熱弁をふるった。登壇した9社(登壇順)は、Aikomi、HoloAsh, Inc.、エーテンラボ、HERBIO、シルタス、Triple Edge、キママニ、BionicM、アトピヨである。

登壇した9社のスタートアップ(写真:小口 正貴、以下同)

 審査の結果、最優秀賞をHERBIOが獲得。優秀賞はAikomiとHoloAsh, Inc.が受賞した。3社には今後、2019年10月の「TechCrunch Disrupt SF」(サンフランシスコ)、2020年1月の「Innovfest Unbound」(シンガポール)などの展示会への出展サポートが実施される。

 今回の9社のプレゼンでは、事業の着想の多くが創業者自身の体験や、業務の中で感じた課題に起因していたのが印象深い。強い思い入れと的確なニーズの把握がサービスをドライブさせるカギになる――あらためてそうした印象が浮き彫りとなった。

 以降では、9社のピッチの概要を登壇順にレポートする。

●Aikomi

 「認知症と共存できる社会」を目標とするAikomi。同社は認知活性化療法をデジタルで実現する世界初のシステムを開発している。五感を活かした非言語コミュニケーションによって個人の生活史を体感してもらい、家族、趣味、仕事への思いなどを引き出す状態を作る。

 Aikomi 共同創業者/COOの加藤潤一氏は武田薬品で認知症薬の研究開発を担当していたが、現状では根治薬の実現可能性は限りなく低いとの思いから非薬物療法による認知機能改善に着目した。

Aikomi 共同創業者/COOの加藤潤一氏

 「ケアマネジャー、介護士、看護師などが介護をする上で何が困るか。上位には共通して意思疎通がランクインする。なぜなら心理的なケアを含んでいるからだ。これは単にリソースを割いても解決できない、介護における特殊な問題。我々のシステムでは決してこちらから質問して言葉で誘導することはない。最終的に認知症の方に、本当にしたいこと、興味があることを自発的に発話してもらい、行動を引き起こしてもらう」(加藤氏)

 すでにテストを開始し、高度な認知症の方々から潜在的な記憶を引き起こすことに成功した。現在、テストに協力した施設からLOIを取得し、大日本住友製薬と共同研究契約を結んでいる。加藤氏は「医療、技術、現場、研究の背景を持つメンバーが集結して事業を推進していることが強み」と話す。

デジタルで世界初の認知活性化療法を実現するAikomi

 提供する内容はコンテンツ、ソフトウエア、ハードウエアで構成され、マスメディアやレコード会社と認知症コンテンツに関してコラボレーションを協議中だ。ビジネスモデルは月額制で、2020年を目標にまずは介護施設への導入を予定する。そこから認知機能の効果を調査してエビデンスを蓄積し、最終的には治験を行って医療機器申請をゴールとする。

●HoloAsh, Inc.

 HoloAsh, Inc.ではADHD(注意欠陥・多動障害)患者に特化した独自デバイスとソフトウエアの開発・提供を行う。同社CEOの岸慶紀氏は自らがADHD障害患者であり、「私のような人間が生きやすい社会を作りたい」とのビジョンから起業に至った。

 「忘れ物が多かったり、スケジュールに遅れたり。ADHDの人たちは生活の中で疎外感を感じることも多い。一方でクリエイティブな能力に長け、その人にしかない能力を持っている人が多いのも事実。究極的にはADHDだけでなく、精神疾患、LGBT、その他の発達障害の人たちといった、目に見えない社会的弱者を救いたい」(岸氏)

HoloAsh, Inc. CEOの岸慶紀氏

 米サンフランシスコに拠点を置くだけに、同社のマーケットは米国となる。岸氏によれば米国には2000万人のADHD患者がいるものの、セラピー料金は非常に高額で45分で200ドル以上もかかる。こうした状況を打破するために、「AIが悩みの相談に乗り、24時間いつでもメンタルサポートが受けられる」(岸氏)独自デバイスとソフトウエア開発に思い至った。

 開発中の独自デバイスは親しみやすいホログラフィックインタフェースを採用。擬人化したインタフェースを相手に、デバイスに語りかける形でセラピーを受けられる。ソフトウエアのエンジンはMotivational Interviewingというセラピー手法に基づく。先行してアプリを展開しており、これまでに約5000件のコミュニケーションデータを収集済み。このデータをフィードバックしてデバイスのブラッシュアップやAI開発につなげる。

独自デバイスによるセラピーのイメージ

 ビジネスモデルはBtoCとBtoBを想定する。BtoCはデバイス販売とソフトウエアの月額9ドルでの課金。「1回200ドルの負担が、いつでも好きなときにセラピーを受けられて9ドルになる」(岸氏)。BtoBは製薬会社や保険会社に向け、加工した取得データの販売を行う。そこには、デジタル創薬やデジタル保険に役立ててほしいとの狙いがある。米国で足下を固めた後、日本に進出する構えだ。

●エーテンラボ

 日々の生活の中で行動変容を促すためにはどうすべきか。エーテンラボは、この難しい課題にスマホアプリでチャレンジしている。同社が提供する三日坊主防止アプリの「みんチャレ」は、5人1組のチームを組んでお互いに励まし合いながら生活習慣を変えていくピアサポートアプリだ。

 ソニーの新規事業創出プログラム「Seed Acceleration Program」に端を発し、2017年2月に独立。同社代表取締役 CEOの長坂 剛氏の父親が高血圧が原因で脳幹梗塞によって帰らぬ人となり、生活習慣病予防を痛感したことも開発動機の1つになっている。

エーテンラボ 代表取締役 CEOの長坂 剛氏

 「同じ習慣を身につけたい人たちが匿名で5人のチームを作り、その日にクリアした行動の証拠写真を投稿することで、励まし合って習慣づけることが目的。現在、デイリーのアクティブユーザーが1万3000人おり、成功率は69%。1人で習慣を身につけようとしてもほとんど身につかないが、5人1組だと8倍の効果があることがわかった」(長坂氏)

みんチャレの概要

 その性格上、健康行動に特化したものではない。それゆえ幅広い分野で利用され、数多くのユーザーを獲得してきた。一方で長坂氏は、生活習慣病予防として広く使われている事実に注目。今後は医学的な方向へとシフトし、2019年後半からは神奈川県や東海大学と共同で臨床試験を実施する。その上で「医学的エビデンスを積み重ねて、将来的には糖尿病の治療ガイドラインへの掲載を目指す。医師が患者に薦める第一選択アプリになるようにしたい」(長坂氏)と意欲を見せた。

●HERBIO

 HERBIOでは、へそに装着して体温を計測するウエアラブルデバイス「picot」を開発している。同社CEO 田中彩諭理氏の生理痛体験、そして自身の祖父の死から「基礎体温、深部体温の重要性を実感した」(田中氏)のが発想の原点だ。

HERBIO CEOの田中彩諭理氏

 舌下、耳中、直腸といった伝統的な計測方法に代わるものとして衣服内や腕表面などに装着するウエアラブルデバイスが出てきている。しかし田中氏は「こうしたデバイスはモニタリングが不可能、計測の不正確さ、装着時の違和感の強さといった理由で大きな欠点がある」と指摘。これらの課題を解決する策としてpicotが生まれた。

 へそを選んだ理由としては、汗腺を持たず汗をかかないこと、外界に対しての障害要素がないことを挙げた。就寝中の装着実験では95%が違和感がないとし、1時間の充電で35時間の駆動が可能。また、1〜10分の深部体温を計測できる安定性もpicotのメリットだという。

picotのメリット

 マネタイズはBtoC、BtoBの2つ。個人向けには基礎体温ウエアラブルとしてアプリとともに使ってもらうことを想定し、法人向けはデータ提供や一括デバイス販売などを考えている。「基礎体温計測だけではなく、幼児保育、在宅医療、熱中症予防などのニーズがある。それらをすべて含めると1000億円以上のマーケットになる」(田中氏)。すでにサントリーやフジクラと実証実験を行っており、今後の方向性を探る。

 田中氏は「将来的には体温データを軸に、リアルな体調のパーソナライズと看病、体調管理までを網羅したい」と展望を語る。デバイスのみでは他社に追随されてしまうことから、体温計測のアルゴリズムで特許を取得したいとも話す。そのために2人の体温研究専門家を擁し、産婦人科や医療機関とも連携していく予定だ。

●シルタス

 シルタスが提供するのは“買い物をするだけで健康になる”とうたう、斬新な同名の栄養管理アプリだ。アプリにポイントカードを登録して、その購買履歴から購入した食品の栄養情報を可視化。ユーザーに日々の栄養バランスをフィードバックする。すなわち、購買と栄養のビッグデータをかけ合わせたサービスである。

同社代表取締役 小原一樹氏は「健康寿命延伸は社会のペインだが、個人のペインにはつながらない。だからこそ我々は、誰もができる栄養管理サービスを提供する」と話す。購買履歴から栄養に換算するためにはその食材が何グラムかを知る必要があるが、同社では過去のビッグデータを活用して「リンゴ1袋、マグロ1パックがどれだけなのかを推測できる」(小原氏)としている。

シルタス 代表取締役の小原一樹氏

 2019年3月から神戸市内のダイエー13店舗と連携して導入を開始。7月には東京都内2店舗も加わり、徐々に輪が広がりつつある。「導入した流通・食品企業は、来店頻度、利用金額も向上。ユーザーは自分が不足している栄養をわかった上で買い物するようになった。きちんとビジネスとして成立することが証明された」(小原氏)。

シルタスを全国に拡大するのが狙い

 スマホユーザー間でもアプリによる日常的な栄養管理は普及してきたものの、これまで食事データ、栄養データは自分で登録する必要があった。小原氏は自動で収集できる長所を強調し、「データを囲い込むのではなく、保険や既存のヘルスケアのサービス、ECとどんどん連携していきたい」と語った。

●Triple Edge

Triple Edgeでは唾液を用いた口腔内歯科デバイスの開発・販売を主力とする。現役の歯科医が代表を務めるスタートアップだが、現在インドに研修中であることから、開発・デザイン担当の廣瀬旬哉氏がピッチを担当した。

 虫歯の分析、予防促進という伝統的なテーマに挑むが、現在ではデバイスとデジタルの組み合わせにより、分析結果をユーザーがクイックに確認できるようになった。そこで試験紙デバイスと口腔内の状況を可視化するアプリを提供し、継続的なオーラルケアのモチベーション向上につなげる。

Triple Edgeの廣瀬旬哉氏

「まず試験紙の色の変化でpH値がわかり、口腔内のアルカリ性、酸性状態を把握できる。これにより、自分の口腔内の虫歯リスクがどの程度なのかがおおよそわかる。さらに日々のデータをアプリで積み上げていく。ハードとソフトによる総合的なパーソナルヘルスケアと言える」(廣瀬氏)

ハードとソフトの両輪で口腔ケアをサポート

 デバイスを自社開発し、オーラルケア企業とパートナー契約しながら販売していきたい構え。アプリに関しては歯科医との連携も視野に入れる。また廣瀬氏は代表がヒアリングしたインドでの手応えを述べ、「我々のサービスなら遠隔でのアドバイスが可能。途上国市場での可能性は大きい」と期待を込めた。

●キママニ

 スマホアプリ「KibunLog」を手がけるキママニ。日々の感情を思うがままに記録する感情ログアプリとして、すでに一定数の支持を得ている。これまでの蓄積を活かし、同社はKibunLogをデジタル治療アプリとして開発していく。同社 COO 田中圭氏はKibunLogのもたらす効果について次のように説明する。

 「KibunLogは認知行動療法を、Expressive Writing(筆記開示)に基づいて設定している。感情を見える化して、客観視した後、自分を苦しめている考え方に対して違う考え方を持ってくる。このアプリは、この3ステップを自然にかつ楽しくできるものだ。

 『職場のイライラが解消された』『自分を客観視することができた』『起き上がるのがつらくても記録できるのがうれしい』といったように、アプリストアでは非常にたくさんのユーザーから評価されている。この評価を受けて、医療機器として開発することを決めた。精神疾患領域のアンメットメディカルニーズにデジタルアプリで応えたい」(田中氏)

キママニ COOの田中圭氏

 現在、製薬企業と共同開発しており、間もなく観察研究を開始。産後うつに関しても北里大学の精神科と共同で観察研究の計画を進めている。さらには線維筋痛症、不妊治療うつについても開発を進める予定だ。

KibunLogをデジタル治療アプリへと進化させる

 海外には先行しているアプリがあるものの、田中氏は「同じ対象疾患でも100%の競合になるとは思わない。これらの会社と一緒にデジタル治療アプリ業界を大きくしていきたい」と意気込む。背景にはFDAや日本国内でのデジタル治療緩和の波がある。「デジタル治療アプリが世の中に浸透することは間違いない。精神疾患の領域におけるデジタル治療のリーディングカンパニーとして、世の中を変えていきたい」(田中氏)。

●BionicM

 自らが義足ユーザーであるBionicM 代表取締役社長 孫小軍氏は、ロボット義足の開発・販売を手がける。2009年に交換留学生として来日した後、エンジニアとしてソニーに入社。だが「もっといい義足を作りたい」との思いからソニーを退社して東京大学の博士課程に進学、2018年12月に起業した。これまでにUTEC(東京大学エッジキャピタル)から資金調達を受けている。

 「市場に流通している義足の99%は、動力を持たない受動式義足で機能が限られている。一歩ずつしか階段を登れず、膝折れや転倒のリスクも多い。片足で椅子から立ち上がる日常動作さえも辛い。もちろんロボット義足はあるが、ハイスペックなものは1000万円を超える。そのため、いつでもどこでも使えるロボット義足を開発する必要があるのだ」(孫氏)

BionicM 代表取締役社長の孫小軍氏

 2015年に東京大学に戻ってから3年間、ロボット義足の開発に従事。現在、商品化に向けて開発を加速している。2019年10月には初製品のリリースを予定し、2020年夏の東京パラリンピックにあわせて量産開始を目指す。ソニー、三菱電機、ホンダなど有名企業出身者が開発・設計の脇を固めるのも強みだ。

開発しているロボット義足のイメージ

 孫氏によれば、義足メーカーは欧州の主要3社が約70%を占める寡占市場で、競争原理が働かないため価格が高いままなのだという。「日本発の義足ユーザーのモビリティを高めるロボット義足を作り、ユーザーにパワーをもたらす。義足は日本と中国では福祉機器の扱いなのでハードルが低い。まず日本と中国において販売していく」(孫氏)。購入ハードルを下げるために金融機関、リース会社と組んで、義足のリース、レンタル、購入ローンなども構想している。

●アトピヨ

 アトピヨは、日本で初めてとなるアトピー専用の画像SNS「アトピヨ」を2018年7月にiOSアプリとしてリリースした。同代表 Ryotaro Ako氏は自らが元アトピー患者。本業は公認会計士だが、独自にプログラミングを学んでアプリを作成した。かつてアトピー患者だった薬剤師の妻から医療的な知見を得て反映するなど、二人三脚で作り上げた。

アトピヨ 代表のRyotaro Ako氏

 「アトピーは悪化するとき、よくなるときを繰り返す。例えば夏は汗で、冬は乾燥で悪化するが、昨年の夏の汗がどうだったかを記録していないため比較ができない。心理的には肌が荒れていると人に会いたくないし、相談もできない。

 そこで同じ部位の画像を横並びで投稿し、去年の同じ汗をかいた時期と今年を部位ごとに比較できるようにした。もう1つのポイントはアトピーの友だちと匿名で共有できること。これにより適切な症状管理とメンタル面でのサポートを行う」(Ako氏)

シンプルだがアトピー患者にとっては心強いアトピヨの機能

 約1年で8000人のユーザーが入手するなど、反応は悪くない。今後はAndroidアプリやWebアプリを公開し、短期的には日本のアトピー患者の1%に当たる6万人のユーザー獲得を目指す。言語を変えるだけで、米国や中国などより広い市場に展開できるのも利点だ。

 ゆくゆくはアトピーの画像データを提供して医療機関の診療や、製薬企業の治験サポートにも活かしたいと話す。Ako氏は「集約した画像データを元にAIで分析する。みんなの知恵を持ち寄ってアトピーを治す時代になれば」と結んだ。


(タイトル部のImage:mikelaptev -stock.adobe.com)