臨床実習。医学部の5年次生が初めて診療の現場に入る機会だ。医学教育の国際認証取得が求められる中、日本の医学系大学は臨床実習の質向上を中心とした医学教育の変革を推進している。

 このほど福井大学医学部は、同大学発ベンチャーの日本医学教育技術研究所と共同で、臨床実習を支援するICT教育システム「F.CESS(エフ・セス)」を開発・製品化した。同大学医学部での2年の評価運用を経て、2020年から他大学医学部や医療機関向けて販売していく。

発表会見に登壇した医学部長の内木氏(中央)、医学部附属教育支援センター長の安倍氏(右)、日本医学教育技術研究所 代表の田中氏(左)(写真:Beyond Healthが撮影)

 福井大学 医学部長の内木宏延氏は「日本の医学教育は大きな変革期にある。それに対応するため5年の歳月をかけて臨床実習を支援するICT教育システムを開発してきた。我々のシステムが日本の医学教育を変革しうると信じている」と意気込みを見せた。

「従来の紙運用での対応は困難」

 開発の背景には、医学部の“2023年問題”がある。米国で医業を行う資格を審査するEducational Commission for Foreign Medical Graduates(ECFMG)が、ECFMGへの申請は「2023年以降は国際的な基準で評価・認定を受けている医学部出身者に限る」としたのだ。

 このため、日本医学教育評価機構(2015年に発足)は、国際的な基準で医学部の教育の質を保証するため、臨床実習の質と量を充実させる臨床実習改革を進めている。具体的には、臨床実習期間の増加(35週から70週)、見学型実習から診療参加型実習への転換、実習全体の根拠を持った評価、などだ。

 その結果、実習期間が増え、学生が書いたカルテのチェックや手間が増大した。400項目以上に増えた評価項目で学生を一人ひとり確実に評価する必要が出てきた。「従来行われている紙運用による実習の管理・評価の仕方では対応は困難」(同大学 医学部附属教育支援センター長の安倍博氏)となった。そこで開発に至ったのが、F.CESSというわけだ。

効率的・効果的なオンラインコミュニケーションが可能に

 F.CESSでは、1つのシステム上で実習の計画・実施・評価・改善ができる。学生用電子カルテの記載が病院で実運用している電子カルテシステムと連携し、学生と教員がオンラインで質問・指導などのコミュニケーションを図れる。実習データを蓄積できるため、実習を行う診療科間での情報共有も可能だ。

実際の電子カルテ画面を参照しながら学生用電子カルテの記載が可能。画面右のコミュニケーションボードで学生と教員のコミュニケーションができる(出所:福井大学)

 学生のカルテ記載については従来も電子カルテで可能だったが、診療端末とは別に学生用端末を用意・設定する必要があったという。「F.CESSでは実際に運用している電子カルテの画面を参照表示させ、学生用カルテを記載できるようにした。その日の診療録のみが学生と教員がやり取りするコミュニケーションボードに反映されるため、学生は記載内容などに関して疑問点を質問したり、教員は回答やコメントを返したりして、効率的・効果的なオンラインコミュニケーションが可能になる」(安倍氏)。

 学生が実習で経験しなければならない医行為と疾患はカリキュラムのガイドラインに定められているが、自身がどれを経験したかはシステム上に逐次入力できる。「個々の達成率と学年達成率が自動表示されるので進捗度が可視化され、不足している経験や達成度把握が容易になる」(安倍氏)。

 こうした実習記録のほか、学生評価や診療科評価などのデータは年度を超えて履歴として蓄積される。このため、学生は自らの実習データの振り返りがいつでも容易にできるという。

学生が経験した医行為と疾患の逐次記録により、実習の達成度把握が容易(出所:福井大学)

 福井大学医学部では2018年度からF.CESSを運用しており、学生および教員に対するアンケートを実施した。その結果について安倍氏は、「学生からは『診療に参加している実感が持てる』、教員からは『学生への丁寧な返信が、やる気を起こさせる原動力になっている』などの評価を得た。見学型から診療参加型への転換が実際に進み、電子化したことで効率的・機能的な実習指導への改善が見られる」と話す。

既に約10大学から引き合い

 今後、F.CESSを国内の医学部・医療機関に販売していくうえでは、導入先の医療機関が運用する電子カルテシステムと連携できるようなカスタマイズが必要になる。さらに、F.CESSをベースに卒後研修医版をはじめ、看護教育版、コメディカル版などへ展開する構想もある。

 これらの設計・開発を担うのが日本医学教育技術研究所と、福井発祥のシステム開発会社である永和システムマネジメント。販売・顧客対応はパナソニック システムソリューションズ ジャパンなどが行う予定だ。「大学・ベンチャー・産業の水平連携によるオープンイノベーションで製品化を進めている。チーム福井で、全国の医療教育の向上に貢献していきたい」(安倍氏)。

 既に、学会発表や展示デモ、福井大学医学部での視察などを通して紹介してきてこともあり、他大学や他施設から関心が高く、約10大学から引き合いがあるという。

 価格については、「F.CESSのビジネスを安定的に成長させていくことが重要であり、慎重に検討している」(日本医学教育技術研究所 代表の田中雅人氏)。現段階では未定ながら、目安として学生1人当たり月額2000~3000円の利用料を考えており、「5・6年生だと約200人が利用する場合、年額で500~700万円程度になると考えている」(同氏)とした。

(タイトル部のImage:mikelaptev -stock.adobe.com)