「現在のPD診断に変わりうる」

 今回の研究の概略については、斉木氏が説明した。まず、PDの症状は「PD運動症状」と「PD非運動症状」の2種に大別されており、運動症状では「筋肉の強張り」や「手の震え」などが有名である。ただ、近年は「PD非運動症状も非常に重要であることがわかってきた」(斉木氏)という。

順天堂大学大学院医学研究科神経学の斉木臣二先任准教授
順天堂大学大学院医学研究科神経学の斉木臣二先任准教授
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 例えば、PD非運動症状としては、PD運動症状が出る前から「抑うつ」「睡眠障害」「嗅覚低下」などの症状が出ることはよく知られているが、今回の取り組みでポイントとなる「自律神経機能が関与する症状」も「非常に高頻度に見られてくる」と斉木氏は指摘する。また、PD運動症状の原因は黒質ドーパミン神経細胞の脱落にあると考えられており、PDの黒質ドーパミン神経細胞の変性には「ミトコンドリアも重要な役割を果たす」(斉木氏)ことが確立されている。

 一方で、皮脂の調節については、自律神経の中枢である視床下部から「皮脂腺」に命令が伝わり皮脂の調節が行われるのだが、これに加えて「プロラクチン等のホルモンよって皮脂腺が制御される」(斉木氏)こともわかっている。これにより、皮脂腺細胞そのものが剥脱し、表皮に細胞内成分(皮脂)を供給する「全分泌様式」という構造でコントロールされている。

 このような構造があるなかで、PD患者は「自律神経を含む神経終末が減少する」や「60%に疲労性皮膚炎あり」、「皮脂化合物で脂質組成変化・脂肪酸β酸化機能低下あり」といった報告がある。そのため、斉木氏は「PD患者にも皮脂の変化が起こっているのではないか」と考えた。

 PDの検査においては、「皮脂が理想的である」ということもポイントの1つだ。これまでの10年間、斉木氏のグループはPD患者を血液で診断する「血液診断バイオマーカー」の研究を中心に進めてきた。しかし、血液は「専門的な病院で採血しなければならない」や「その後の処理も重要になる」といった課題があったため、「より簡便で安全なサンプルが求められていた」(斉木氏)。その点、皮脂の採取には侵襲がなく、血液あるいは尿よりも取りやすいため「とても優れている」(斉木氏)わけだ。

 また、現在のPD診断では、大まかに「医師による問診、診察」→「脳MRI」→「核医学検査」→「PD治療薬が効くか?(i-dopa製剤への反応性)」という流れを経て、それらを根拠に確定診断を行う。しかし、この流れでは「煩雑」「高侵襲」「高価」といった課題があった。そこで、「簡便」「非侵襲」「安価(従来の1/7)」である今回の皮脂RNA解析技術であれば、「現在のPD診断に変わりうる」と斉木氏は期待する。

 研究成果の発展性について、斉木氏は「皮脂検査による精密診断に基づく精密医療」を将来的な目標と位置付ける。具体的な方向性としては3つある。第1は、PDの早期診断による「早期治療介入(リハビリなど)」。これを実現し、PDの進行を抑制して医療/介護費の削減につなげる。第2は、PDを発症した人に対する「病状評価への拡張」。これにより、治療の成功率が向上し、新薬上市の迅速化がはかる。そして、第3は「発症前診断への拡張」。発症する前に先制医療を行うことで発症を予防し、それにより医療/介護費の削減を目指す。