「あぶら取りフィルム一枚で皮脂中のmRNAを網羅的に解析」

 次に、花王 生物科学研究所 皮脂RNAプロジェクト プロジェクトリーダーの井上高良氏が、皮脂RNAの解析技術について紹介した。

花王 生物科学研究所 皮脂RNAプロジェクト プロジェクトリーダーの井上高良氏
花王 生物科学研究所 皮脂RNAプロジェクト プロジェクトリーダーの井上高良氏
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 花王は、皮脂腺の全分泌様式に着目した研究から、皮脂の中には「ヒトのRNA情報が豊富に含まれる」(井上氏)ことを解明。さらにこの発見を起点とし、皮脂中のヒトのRNA発現情報を網羅的に解析する技術を構築することに成功した。皮脂は「いつでもどこでも誰でも採取できる」ことから、この技術の最大の特徴は「生体試料の採取簡便性」にある。井上氏は「あぶら取りフィルム一枚で非侵襲的に皮脂中のmRNAを網羅的に解析できる」と説明する。

 花王はこれまで、健常者とアトピー性皮膚炎の皮脂RNA情報の比較から、皮脂RNAの解析技術で「アトピーの状態をモニタリングできる可能性」(井上氏)を示唆してきた。さらに、健常な皮膚においても「日々変化する皮膚の状態を精緻にモニタリングできる可能性」を示唆してきた。これまでの研究で「皮脂RNA情報は採取時の皮膚状態を反映する」ことがわかってきたことから、今回はその成果をベースに「皮脂RNA情報でのPDのモニタリング」(井上氏)に挑戦したという。

 今回の皮脂RNA解析では、未治療のPD患者を含むグループと治療中のPD患者を含むグループの2つを対象とし、「健常者とPD患者で皮脂RNA発現量に差異のある遺伝子の抽出」を行った。その結果、健常者とPD患者の間では「一部の皮膚RNA発現量が異なる」ことがわかった。

 そこから、PDの皮膚RNA情報と関連する生物学的現象を探索。今回は「PDで増加した遺伝子」に対して「既知現象との適合性」を解析するためにデータベースを用いた探索を実施したところ、両方のグループで「パーキンソン病」と「ミトコンドリア関連」の機能が密接に関連していることが見えてきた。ミトコンドリアはPDの病態と密接に関連していることから、ミトコンドリアに関連した16分子にフォーカスして「健常者とPD患者における発現差の解析」(井上氏)に取り組んだ。

 その結果、両方のグループで「PD患者はミトコンドリアに関連した分子が多い傾向を示す」ことが明らかになった。これにより、PDの皮脂RNA情報は「ミトコンドリア関連分子の変化を反映する」ことがわかったそうだ。

 今回、皮脂RNA情報により体内の疾患状態をモニタリングできる可能性が示唆されたことに対して、井上氏は「非常に大きな意義を持つ」と考える。花王としては今後、皮脂RNAの採取簡便性を最大限に活用し、さまざまな早期発見や診断につながるような研究を進めていくほか、美容やヘルスケア領域においてもその応用化を目指す考えだ。さらに井上氏は「日々の暮らしの中で手軽に体の状態をモニタリングできる技術を構築し、人々の健康寿命の延伸に貢献していく」と語った。

 最後に、Preferred Networksの小林啓之氏が、今回の機械学習技術について説明した。PFNと花王は、皮膚RNA解析領域における協働プロジェクトを2019年11月から開始。今回のプロダクトでは、取得した皮膚RNA情報等から機械学習モデルを構築し、「できる限り高精度なPDの判別モデルを構築する」(小林氏)ことがPFNの役割となる。

Preferred Networksの小林啓之氏
Preferred Networksの小林啓之氏
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 PD判別モデルの処理の流れでは、主に2種類のモデルを組み合わせて分類される。第1は「皮脂RNAのデータなどからPDの重症度を予測するモデル」、第2は「第1のモデルの予測結果と皮脂RNAのデータなどを組み合わせ、PDかどうかを判別するモデル」である。また、これらモデルの評価結果としては「皮脂RNA・年齢・性別情報を用いてPDをかなり高精度で判別できる」「重症度予測の結果を用いることで、より精度が高くなる」ことが判明したとし、小林氏は解説を終えた。

(タイトル部のImage:オンライン会見のキャプチャー)