医師と患者のギャップ

 これには井上氏も同意見で、医師が「このがんは、しっかり治療すれば治る」と説明したくても「患者は頭が真っ白で何も入らない」というシーンを多々経験してきたそうだ。

 医師は同じような患者の反応を何度も見ているため、先の展開が「パターンのように分かってしまうことも多い」と大塚氏は説明する。ただ、それが逆に患者とのギャップを生んでしまう可能性もあるとのこと。例えば、治るがんであれば医師は「患者が戸惑うステップを頭の中ではショートカットしてしまい、すぐに前向きな話を始めてしまう」という間違いを犯すケースもあるそうだ。「医師には見えている未来が、患者には見えていない」からこそ起きる間違いであり、「そのギャップの見極めが難しく、とても気を使う」と補足した。

 井上氏は、以前に外来で「同じ説明を1日に何度もした」という経験は何度もあったという。そこで考えたのが、「この説明をインターネットなどで提供できないか」ということ。病気の基本情報などが患者側に少しでも事前に入っていると、医師としてはルーティン的な説明が不要となるため、「その後のコミュニケーションがとても豊かになる」と感じているそうだ。

メディカルノート 代表取締役・共同創業者で医師でもある井上祥氏

 しかし、とある調査では「約80%の人がインターネット上で医療情報を見ている」ものの、「インターネット上で信頼できる情報は約26%しかない」と言われている。井上氏自身は、現役の医師による医療Webメディア「メディカルノート」で正しい医療情報の発信に努めているものの、「インターネット上の医療情報は信頼されていない」と吐露した。

 佐渡島氏は、以前にマンガ『宇宙兄弟』でALS(筋萎縮性側索硬化症)のテーマに携わったとき、「安楽死」について考えさせられた経験を語った。現在は技術が進歩したことで、脳死状態でも生き続けることが不可能ではない。そのため、いつ死ぬのかという「死の自由」が「我々の手に委ねられてしまった」と佐渡島氏は分析する。

 しかし、この死の自由を医者は決められないし、患者やその家族もそう簡単には決められない。誰もが死の自由に対して向き合えていないことが現代の問題で、「ほとんどの人にとって、死の自由は重過ぎる荷物になっているのではないか」と危惧した。

コルク 代表取締役会長(編集者)の佐渡島庸平氏

 これに対して大塚氏は、「医療現場で死の話がタブーになっている」ことを課題として挙げる。人は必ずいつかは死ぬのだから、その話を診察室でできるのか。そして、患者にその話をする覚悟があるのか。大塚氏は、日本の病院では「その土壌が育っていない」と感じており、だからこそ「その議論が遅れている」と現状を憂いた。