病気の悪化を防ぐためには、早期診断と早期治療が欠かせない。ハイリスク者の早期拾い上げには、医療や健康に関連した個人のデータにどれだけ目を配れるかが重要になる。

 この分野に情報通信技術(ICT)を活用して本腰を入れる製薬企業の一つ、グラクソ・スミスクライン(GSK)は2019年9月30日、「医療現場におけるデータ・ICT利活用の事例と展望」と題した、報道関係者向けセミナーを開催。本セミナーから前後編2回に分けて、GSKが得意とする呼吸器疾患領域で進めるデータ活用戦略と事例をリポートする。

 まず前編では、沖縄県で進める、COPD(慢性閉塞性肺疾患)患者のデータを活用した、ハイリスク者の早期拾い上げの取り組みをお伝えする。

COPD患者が治療に至らない課題

 GSKを代表して登壇した同社の張家銘氏(ガバメント・アフェアーズ&マーケット・アクセス部門長)が、最初にCOPDをめぐる同社の活動の全体像について解説した。

グラクソ・スミスクライン ガバメント・アフェアーズ&マーケット・アクセス部門長の張家銘氏(写真:Beyond Healthが撮影、以下同)

 COPDは、主な原因が長年にわたる喫煙であることから、「たばこ病」と呼ばれることもある。肺の中で喫煙により炎症が起きて、肺の組織が壊され、肺気腫などの元に戻らない状態になってしまう。こうなると、肺機能が徐々に低下。咳や痰、息切れなどが起こり日常生活も困難になり、肺がんや肺炎などの合併症にもつながる。COPDの急性増悪といって、かぜなど軽い気道感染症をきっかけに呼吸機能が悪化し、死亡に至るケースもある。

 厚生労働省の人口動態統計によると、2017年にCOPDによる男性の死亡者数は1万5266人。男性の死亡原因の8位だった。同省の患者調査によると、2014年、COPDを含む「慢性気管支炎」で医療機関を受診する推定患者数は2万1700人。潜在的な患者を含めれば、500万人近くに上るという推計もある。

 GSKは、2002年以降、COPD治療薬を市場に投入してきた。張家氏は、「優れていた薬があっても、適切な患者に、適切なタイミングで使わないと意味がない。診断管理を適切に行えるようにICTを活用する」と話した。

 患者がどれくらい適切に薬を使えているかをめぐっては、「アドヒアランス」という言葉もあり、医療現場では注目されてきた。薬が医師から処方されたのに使われていなければ大問題になるからだ。そこでGSKではICTを活用し、自社が送り出している医薬品が適切に使われているか評価可能にし、新しいアクションにつなげられないかと模索する。

 以前の記事で紹介したように、医薬品や医療機器の承認・再評価において「リアルワールドエビデンス」が重視されるようになっている。そうしたデータは、今後、「医療技術評価(HTA)」の考え方の導入により、薬剤やデバイスの費用対効果評価にも関係してくる。GSKでも、ICTをフル活用し、市販後の情報を企業活動に生かそうとする。


簡易な質問票だけでCOPDを早期拾い上げ

 そうした事例の1つが、2018年9月に沖縄県、那覇市医師会、慶應義塾と包括的連携に関する協定を結んで進めているCOPDの早期診断プロジェクトだ。

 沖縄県医師会と那覇市医師会の理事を務める、那覇西クリニック診療部長の玉城研太朗氏が登壇、「沖縄県における地域医療連携の取り組みとその進歩」と題して、研究の進捗や臨床での課題、今後の展望などを述べた。

那覇西クリニック診療部長の玉城研太朗氏

 玉城氏は、沖縄県民の健康問題についてまず説明。かつて「日本一の長寿県」と見なされていたが、2017年は女性こそ平均寿命が全国7位であるものの、男性は36位に転落。男性の死亡率は、今では35~65歳の年齢層では全国でワースト3位以内となっている。沖縄県医師会では、65歳未満の健康悪化や死亡率上昇に対処するため、「働き盛り世代の健康作り」を掲げて活動を広げようとする。

 玉城氏も医師会理事として、県内の課題を県内で解決すべく、複数のプロジェクトを進める。例えば、八重山諸島で乳がんの治療にうまく対応できないといった課題に対して、県内の健康意識を高めるなどの啓発活動を行う「沖縄のすみずみプロジェクト」、抗がん剤による妊孕性低下に対処する「沖縄県妊娠期がん診療ネットワーク協議会」、離島での医療を支える「離島・遠隔地医療連携体制」である。

 そうした中で、今回のプロジェクトにも参画しCOPDの問題に取り組んでいる。沖縄県はCOPDによる死亡率が全国ワースト1位だという。現在、那覇市で進められているのが、「OCEAN Study」と呼ぶ研究だ。その目的は、COPDに関する「CAPTURE」と「COPD-Q質問票」という2タイプのスクリーニングのための質問票の有効性を確かめること。それぞれごく簡単な質問項目によるアンケート形式になっている。通常COPDのスクリーニングには、スパイロメトリーと呼ばれる気流閉塞の有無を調べる検査が行われるが、器具が普及していない上、測定にはスタッフが必要。もしこの質問票が有効に機能することが示せれば、COPDの疑いのある人を早めに拾い上げて医療介入できる。

 なお、COPD-Q質問票は「COPD screening Questionnaire」の略称で、年齢や咳・痰・労作性息切れの頻度、喫煙数などに応じて点数を付けるもの。CAPTUREは、「COPD Assessment in Primary Care To Identify Undiagnosed Respiratory Disease and Exacerbation Risk」の略で、空気の悪い場所での勤務経験、呼吸状態の季節変化、作業時の息切れ、疲れやすいさ、かぜや気管支炎、肺炎で欠席や欠勤の経験について問うもの。ここまでの簡単な質問でCOPDのリスクを判定できるかが注目される。


データ集積への基礎づくり

 玉城氏によると、既に2500人の研究への組み入れは完了し、解析に入っている。玉城氏は1532人のデータを使った中間解析から、気道閉塞が認められたCOPD疑いの人は約3%、そこまでの状態ではないものの、1秒間の吐く息を示す「1秒率(%FEV1)」が80%未満の人は約18%であるというデータが出てきた。

 玉城氏は、「喫煙者が多いことが影響しており、異常のある人は40代が半数だった。ここからCOPDに移行する人が出てくると予想される。質問票と実際のスパイロメトリーによる検査の整合性を評価しているところで、まだ完全なデータ解析ではないが、正の相関があるとみられた」と説明する。

 データ活用やICT活用という観点から見ると、玉城氏らがこうして進める研究は、意味のあるデータを構築する基礎になるものになる。データを取ったとしても、そのデータに価値がなければ、無用の長物。こうした研究を通して、実際の病気のリスクにつながる意味のある情報をつかんでいくことが欠かせないといえる。

 これは他の分野であっても同様だろう。今、様々なデータが医療分野では生まれているが、それを使いこなせるかは、そのデータを取る企業などの腕の見せ所。利用への道筋を付けるスキームが求められているのかもしれない。

 玉城氏は、こうした研究を通して沖縄で健康問題への解決を進めていきたいという考えを強調した。「世界一の、夢と希望に満ちあふれた輝かしい沖縄の未来を作るのが夢。世界トップレベルの研究が進む米国サンフランシスコも南北50kmほど。沖縄で言えば、那覇市から名護市ほど。今後、企業誘致なども考えられる。沖縄はアジアの中心。医療から医療の未来を作りたい」。地固めをまずは進める。

 次回後編では、アプリを利用した、COPD患者の情報収集の仕組み作りについてさらに見ていく。

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