患者発のデータは宝?

 武藤氏は中国を例に出して、医療の仕組みが大きく変わっている状況について紹介。その一つが「無人クリニック」だ。

 「そこに入ると、声や動きがカメラで撮られ、そこから自動問診が行われて、1分ほどでおおむねの診断ができるようになっている。オンラインで医師と話すことも可能で、診断がつけられた後、薬の自動販売機で薬を受け取る」と武藤氏は説明する。中国では人口増加に対応できる医療の担い手不足を、こうしたICTの活用で乗り切ろうとしている。少子高齢化などの問題が横たわる日本にも、「こうしたイノベーションの波が来る」とみている。

 ICT活用という観点から、医療現場で武藤氏が解決すべき問題の一つと見るのは、患者の服薬管理がうまくできていないこと。「慢性疾患の薬は、医師の管理下に置かれておらず、患者さんが自分で飲んでいるのが前提になるが、薬が本当に使用されているかが分からない。医療現場を見ると、実際にいまの医療でできていないことがある。本来、私たちが知るべき情報が入ってこない。患者に伝えたくても伝える暇がない。慢性疾患の管理は難しく、どうにかしないといけない」。

 いくら薬があっても、使われなければ効くはずがない。「薬を出してどうやっていい形で使ってもらえるか。本当のバリューを出すことを考えるフェーズにある」と武藤氏は話す。

 武藤氏らが推し進めようとするのが、患者自らがデータを記録し出していく仕組みである。

 これは、PRO(patient reported outcomes:患者報告アウトカム)と呼ばれているものだ。PROは、医師など医療従事者が検査などで評価するのではなく、患者自らが患者の症状やQOLを測定して評価する。スマートフォンなどの電子機器を使ってデータをやりとりする仕組みに注目して、電子的PRO=ePROと呼ばれることもある。

 前述の通り、現在では患者がうまく薬が使えているかなどが見えづらい。患者の行動を変容させて、治療の結果を上げることが欠かせない。それに対して、YaDocの中では、患者の血圧や食生活などのモニタリングなどを可能としてきた。医師が問診をしたり、診察をしたりすることもできる。

 武藤氏は、YaDocの中で、COPDの症状を把握するためのチェックシート「CAT(COPD Assessment Test)」の利用を拡大し、COPDの症状についても見える化を進めてきた。CATでは、呼吸機能に関連した8項目をそれぞれ0~5点で評価。合計スコアが高くなると悪化していると判断することができる。数字に応じて患者を医療機関に呼んだり、薬の変更や禁煙などを指示したりすることが可能となる。

 武藤氏は、「COPDの潜在患者数は約530万人ともいわれ、治療を受けている患者数は約26万人と4.9%にとどまる。COPDに起因する1人当たりのコストは、生産性損失も含めると年間119万円。早期診断と早期対応によってリスク低減の可能性がある」と説明。既にCATの導入施設数は55施設となり、2624人を登録して、CAT回答総数は2493になった。