既に5社のグランプリ企業を生み出してきた経済産業省主催の「ジャパン・ヘルスケアビジネスコンテスト」。6回目を迎える2021年大会は、最終プレゼン審査を2021年1月28日に予定している(関連記事: [詳報]経産省ヘルスケアビジコン、5代目グランプリ決定)。

 その最終プレゼン審査に向け、アイデアコンテスト部門とビジネスコンテスト部門において書類審査を通過したセミファイナリストの一次プレゼン審査が2020年10月、「日経クロスヘルスEXPO 2020」内で実施された。コロナ禍のため、オンラインでのプレゼン参加も交えた審査となった。

 アイデアコンテスト部門に登壇した15組の様子は既報でお伝えした通り(関連記事: 15のアイデア競演、2021経産省ビジコンの一次プレゼン審査)。一方、6代目グランプリの座を争うビジネスコンテスト部門には、12社が登壇した。

 冒頭の挨拶では、経済産業省 商務・サービスグループ ヘルスケア産業課長の稲邑拓馬氏が登壇。コロナ禍の影響がありながらも、応募数やその中身の質が充実していた点に触れた。「コロナ禍によってあらためて社会課題が認識され、それに対応する新しいアイデアやソリューションが生み出されたのではないか」(同氏)。政府として「イノベーションにつながる新しいアイデアの社会実装にしっかり対応していく」(同氏)とした。

経済産業省の稲邑拓馬氏(写真:寺田 拓真、以下同)
経済産業省の稲邑拓馬氏(写真:寺田 拓真、以下同)
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 以降では、ビジネスコンテスト部門のセミファイナリスト12組によるプレゼンの様子を、登場順に紹介していこう。

●Opening Line

 障害者向けの買い物支援アプリ「3 Step Wallet」を開発するOpening Line。同社が着目したのは、知的障害を持つ子供は「欲しい物を購入するまでに1カ月かかるケースもある」(同社 代表取締役 佐々木亮一氏)という課題である。というのも、購入には後見人の承認が必要となるほか、実際の購入に同行してもらう付添人の予約にも時間がかかるからだ。

Opening Lineの佐々木亮一氏
Opening Lineの佐々木亮一氏
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 3 Step Walletはこの課題を解決するために、「商品のQRコードを読み取って決済をし、後見人の承認を得て、実際に商品を受け取る」(佐々木氏)という3つのステップをアプリでサポートする。例えば、従来は電話だった後見人の承認はアプリ上で得られるようになっているほか、決済まで可能な仕組みを導入している。なお、Opening Lineはもともとブロックチェーン技術を開発する企業であることから、その技術を「承認や決済の不正防止に活用している」(佐々木氏)。

 現在は、福岡の放課後等デイサービス「わかば」で実証実験を実施中。フィードバックを受けながら、UIなどの改善を進めている。今後の展望として、知的障害者の子供たちから得たノウハウやフィードバックをもとに、「高齢者向けの買い物支援に関する市場も目指していく」(佐々木氏)と語った。

●Holoeyes

 主にVR(Virtual Reality:仮想現実)の技術を使った外科医向けのサービスを提供するHoloeyes。CT画像データから人体の骨などをホログラム化し、その映像を医師がAR(Augmented Reality:拡張現実)によってゴーグル越しに見ることで、実際には見えない骨の様子を患者の身体に重ねながら確認できる技術を解説した。実例として、背中から脊椎に針を刺して麻酔を入れる様子を紹介し、「見えないものを見えるようにすることで、医者の迷いがなくなる」(同社 代表取締役 谷口直嗣氏)と補足する。

Holoeyesの谷口直嗣氏
Holoeyesの谷口直嗣氏
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 Holoeyesには、医療機器に関する「ソフトウエア開発・販売」と「IT開発」という2つの軸がある。この2軸を組み合わせることで、「遠隔カンファレンス」「遠隔トレーニング」「遠隔教育」などの新しいデジタル医療のマーケットを開拓していく考えだ。例えば「遠隔カンファレンス」では、離れた場所にいる複数の医師が、同じ患者の患部映像をリアルタイムにVRで見ながら検討できるツールを提供中。「遠隔教育」では、VRで収録した解剖の解説映像をスマホ視聴で自宅にいながら学習できる仕組みを開発している。

 「“臨床”を中心に、その周りにさまざまな医療のロングテールマーケットが広がっている」と谷口氏は語る。臨床から生まれた三次元のデータを使って「そのマーケットをつなぐとともに、データのエコシステム作っていく」(谷口氏)との方向性を示した。

●Magic Shields

 Magic Shieldsは、高齢者の転倒による骨折の防止を目的に、転んだ時だけ柔らかくなる床「ころやわ」を開発している。代表取締役の下村明司氏によれば、高齢者が大腿骨を骨折すると「4割がそのまま歩けなくなり、そのうちの半分は他の病気を併発して1年以内に亡くなる」とのこと。さらに、高齢者の転倒・骨折は2000年以降急増しており、「その数は国内で毎年100万人、医療費・介護費は毎年2兆円になる」という。

Magic Shieldsの下村明司氏
Magic Shieldsの下村明司氏
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 このような現状の解決を目指す「ころやわ」は、歩いているときには硬くて転びにくく、転んだときには柔らかくなって衝撃を吸収するという機能を備えている。その仕組みには、素材では出せない機能・性能を構造で出す概念「メカニカルメタマテリアル」を応用している。具体的には、「大きな力がかかると形が大きく変わり、その剛性も大きく変わる」(下村氏)。試験結果では、フローリングと比較して「歩行安定性は同等」「衝撃吸収性は倍」となったそうだ。

 事業展開としては、センシングを活用した見守りサービスと「ころやわ」を組み合わせることで「人手の削減を目指す」(下村氏)。高齢者施設のみならず、新素材として「保育園」「体育館」「乗り物」などへの拡大も見込んでいる。

●Medii

 Mediiは、「E-コンサル」で地域医療の専門医偏在問題の解決を目指している。E-コンサルは、場所を問わずに各専門医からの知見共有を受けられる専門医シェアリング事業で、「従来は院内で行われている医師同士のコンサルを、院外にも広げる取り組み」(同社 代表取締役医師 山田裕揮氏)である。

Mediiの山田裕揮氏
Mediiの山田裕揮氏
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 そもそも、専門性の高い領域の医師は地方に少ないほか、診療科別の医師数を見ても、内科や外科などに比べてリウマチ科や感染症内科などは極端に少ない。そのため、人口の少ない地方では「特定の専門医が一人もいないというケースも多い」(山田氏)という課題がある。E-コンサルは、地方の主治医と離れた場所にいる専門医をオンラインで結び、画像や動画などをセキュアに共有することでその課題を解決していく。

 E-コンサルの強みは、医師である山田氏のつながりを生かし、総勢300人を超える各領域の専門医が対応する点にある。これにより、例えば「医師が1人しかいない離島の病院であっても、都市部の大病院に近い環境で診てもらえる」(山田氏)というクラウドホスピタルのような医療を提供していくイメージだ。さらに、現場のニーズに応じて「人件費の削減や医師の働き方改革につながる」(山田氏)というメリットを挙げた。

●LaView

 「人生100年時代」と言われ、「健康寿命の延伸」に注目が集まっている。しかし、血管の老化によって健康寿命は短くなることから、「血管を若々しく保つためには、しなやかな血管を維持する必要がある」(同社 代表取締役 益田博之氏)。そこでLaViewは、血管のしなやかさを見える化する計測技術の実現に取り組んでいる。

LaViewの益田博之氏
LaViewの益田博之氏
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 2000年頃から動脈硬化への認識が高まり、その早期発見を目指したさまざまな血管機能検査装置が開発されている。ただし、それらは主に医療機関向けの機器として動脈硬化の進展をチェックすることから、「血管の硬さ」を指標としていた。LaViewの機器は、「血管のしなやかさ」を指標とする。益田氏によれば、血管のしなやかさは「血管固有のパターンで、そのなかには、硬さをはじめとしたさまざまな血管の機能が含まれる」という。

 一方で、そのデータを活用するためには、研究のみならず現場での実証実験も必要となる。そのために名古屋大学や医療機関の協力を得るとともに、医療機器や健康器具メーカーへの参加も呼び掛けている。最終的にはセルフケア市場を目指す考えもあり、「血管を診る」ことで「ウェルビーイングサービスと連携したビジネスエコシステムを形成して社会に貢献していく」(益田氏)。

●OUI Inc.

 OUI Inc.(ウイインク)は、慶応大学の眼科医3人が起業した大学発のベンチャー。Smart Eye Cameraによる眼科診断AIと遠隔診療を活用した、新しい眼科診療モデルの構築を推進している。OUIの目的は「失明」をなくすこと。失明や視覚障害は治療が可能でありながら、「医師や医療機器の不足から適切な眼科診療を受けられず、失明が減らない」(同社 代表取締役 清水映輔氏)という問題があるからだ。

OUIの清水映輔氏
OUIの清水映輔氏
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 その解決策として、OUIがゼロから開発実用化したのが、眼科診察を可能にするスマホアタッチメント型医療機器「Smart Eye Camera」である。これにより、誰もがどこででも眼科診療が可能になり、スマホアプリによって眼科医の遠隔診断や患者相談も対応する。さらに、眼科は100%画像診断であることから、「AIを活用した自動診断や自動スクリーニングも視野に入れた診療モデルを考えている」(清水氏)。

 すでにいくつかの事例もあり、眼科医のいない三宅島の中央診療所では、Smart Eye Cameraによる診断やD to Dの遠隔相談に利用されている。海外でも、ベトナムやアフリカのマラウイで眼科AI診断や遠隔画像診断が活用されているそうだ。清水氏は「2025年までに世界の失明の50%を減らす」という目標を掲げ、「明るい世界を提供するだけでなく、最終的には経済損失も補填する」と語った。

●シルバコンパス

 顧客ニーズの増加とともに慢性的な人材不足にある薬剤師の現状において、薬剤師が最も心配するのは、調剤の間違え(誤配)によって患者に健康被害が起きる「調剤過誤」。シルバコンパスは、誤配を防ぐことで安心して薬剤ピッキングができるピッキング支援システム「PickingCompass」の開発に取り組んでいる。

シルバコンパスの井本健太郎氏
シルバコンパスの井本健太郎氏
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 これまでの薬局では、棚にある薬の配置を覚え、それを間違えずに取る必要があった。シルバコンパスはその古い体質をPickingCompassによって解放し、薬剤師には「対人業務に集中してもらう」(同社 代表取締役 井本健太郎氏)べきだと考えている。

 PickingCompassは、薬剤情報データベースと連携し、棚の上に設置するディスプレイに必要な薬を最短ルートで取れるようなガイドを表示する仕組みを備える。これにより、「棚の配置を知らない新人であってもミスなく対応できる」(井本氏)ようになる点が大きなメリットであり、薬剤師の業務改善にもつながると井本氏は考える。

 また、大掛かりな装置が不要でどんな薬局でも利用できる「省スペース」や、棚以外の場所も指示できる「拡張性」もポイントに挙げた。将来的には医療にとどまらず、「品出しを目的とした他業種への拡大や、海外展開も見据えている」(井本氏)。

●ORANGE kitchen

 生活習慣病は放置すると人工透析になる可能性があり、医療費増加の一因となる。そこで代表取締役/管理栄養士の若子みな美氏は、「日本の医療費増加を解決したい」という思いから、人工透析予防に特化した重症化予防プログラム「しおみる」の開発に取り組んでいる。

ORANGE kitchenの若子みな美氏
ORANGE kitchenの若子みな美氏
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 人工透析の予防には、その前段階の慢性腎臓病(CKD)の進行を食い止める必要があり、「食事制限をともなうCKDステージG3b以上の患者は日本に約150万人いる」(若子氏)。ORANGE kitchenは、透析導入となる可能性が高い65~69歳のCKDステージG3bをコアターゲットとし、人工透析を食い止めることで、費用削減と患者のQOL向上を目指す。

 「しおみる」は、行動変容ステージモデルを応用したプログラムを完全オンラインで提供する。期間は6カ月で、「前半3カ月は、確実な行動変容の方法と生活習慣を身につける。後半3カ月は、前半で培った行動変容の習慣を定着させ、介入頻度も徐々に減らしていく」(若子氏)。

 中長期的な事業展開として、当初は国保から導入を進め、段階的に企業健保へと拡大していくほか、CKDの前段階の疾病を有する対象者への介入も検討していく。また、プログラム終了後も行動変容の維持をモニタリングし続けるために「摂取食塩量の測定機器を自社で開発」(若子氏)しており、2023年頃からの販売を目指す。

●フロンティア・フィールド

 2021年1月にPHSのキャリアサービスが終了し、外線利用ができなくなるため、訪問診療などには大きな影響を与えることが予想される。そこでフロンティア・フィールドは、日本病院会と業務提携し、2020年1月に医療機関専用スマートフォン「日病モバイル」のサービスを開始した。

フロンティア・フィールドの佐藤康行氏
フロンティア・フィールドの佐藤康行氏
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 日病モバイルは、PHSに代わって院内・院外の連絡手段(ナースコール含む)として利用できる。また利用にあたっては、医療従事者が個々にログインする仕組みとなっており、「ログイン情報と内線番号を紐づけることで、スタッフ間の端末共有が可能になっている」(同社 代表取締役社長 兼 CEO 佐藤康行氏)。さらに、ログイン情報から職員の出勤情報も確認できる。この技術はフロンティア・フィールドの特許となる。

 通話機能にとどまらず、さまざまな業務系機能を搭載する。例えば在宅診療では、在宅現場から病院内の医師や看護師とビデオ通話ができるほか、電子カルテの閲覧・編集にも対応。「病院外からスマホで電子カルテにアクセスできるのは日本初」(佐藤氏)となる。

 今後の構想としては、「日病モバイルによる地域医療情報ネットワークの構築」を見据える。佐藤氏は「日病モバイルを通じて、病院のコミュニケーションサービスと病院業務のDX推進に取り組んでいく」と語った。

●エナジーフロント

 「介護のイメージを変える」をメッセージに掲げるエナジーフロント。社会問題を連携型ビジネスで解決する取り組みを手掛けており、今回は倉敷発のユニバーサルデザインブランド「AUN」を紹介した。代表取締役の上田剛慈氏がこの取り組みを始めたきっかけは、両親の介護にあったそうだ。

エナジーフロントの上田剛慈氏
エナジーフロントの上田剛慈氏
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 AUNでは、骨折予防のジーンズや水を弾くシャツ、人を簡単に運べるズボンなど、隠れた機能を盛り込んだ商品を企画・販売している。人気商品の1つである「リフティ・ピーヴォ」は、介護で腰痛の原因になりやすい「人が人を運ぶ作業」を効率的に行える座布団のようなクッションである。てこの原理を使うことで、「自分の体重の2倍の相手まで、力なしで上げられる」(上田氏)そうで、第三者研究機関でもその有効性が確認されている。

 リフティ・ピーヴォは手軽に持ち運べるため、上田氏は「行く先々がバリアフリーになる」と表現する。しかも、簡単に洗えるほか、コストがかからない点もメリットとなる。そのほか、お風呂などで利用できる防水タイプや、デザイン性の高いジーンズタイプも展開する。世界的な注目も集めており「香港ではすでに販売さている」とのことだ。

●FOVE

 FOVEは、認知症の「早期発見」と「早期の予防対策」に着目し、自社の視線追跡型VRを利用した「認知機能セルフチェッカー」を開発している。認知機能セルフチェッカーは、VRヘッドマウントディスプレイを約3分間覗きながら、画面上に表示される10問の選択式問題を目線を使って解いていく。その結果や視線情報から、認知機能の評価項目を試算する。

FOVEの仁科陽一郎氏
FOVEの仁科陽一郎氏
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 既存の認知症スクリーニングテストは「30~60分の時間が必要」「筆記が必要」「医師との問答が必要」だったことから、「身体的、精神的負担の少ない」(同社 ヘルスケア事業部 マネージャー 仁科陽一郎氏)ことがこのサービスの強みとなる。さらに、測定中の目線の動きや生体情報の取得も可能なことから、将来的には「判別・判断ができる医療機器にまで進化できる可能性がある」(仁科氏)と考える。

 このセルフチェッカーを利用し、まずは自分自身で認知機能の状態を知る。そして認知機能の維持・向上に有効とされる健康習慣を行い、継続的にモニタリングしていくことで「認知機能低下の小さな変化に気づける」(仁科氏)ようになる。これにより、認知症の「早期発見」と「早期の予防対策」が同時に達成していく。そのほか、将来的には視線追跡の技術を活用し、緑内障の視野検査によるビジネス展開も狙っていく。

●ファストドクター

 ファストドクターは、医師との分業・連携による24時間体制を構築し、かかりつけ医機能の強化に取り組んでいる。仕組みとしては、時間内はかかりつけ医が患者を往診し、時間外はファストドクターが往診代行するほか、紹介状で連携を取っていく。これにより、かかりつけ医だけでなく救急の負担も軽減していき、「より良い地域医療体制を目指す」(同社 代表取締役医師 菊池亮氏)。

ファストドクターの菊池亮氏
ファストドクターの菊池亮氏
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 現在、ファストドクターの救急往診チームは、365日体制で東京・神川・千葉・埼玉・大阪・兵庫をカバー。所属する800人の医師が「要請から最短30分で現場に到着する」(菊池氏)。利用依頼は電話やLINE、アプリから受け付け、患者からの相談を受けると、まずはトリアージによって状況を判定する。また、さまざまな救急疾患に対応できる設備を備えており、「一般の救急外来と同程度の医療を自宅で受けられる」(菊池氏)そうだ。そして、往診後は紹介状によって、地域のかかりつけ医にバトンタッチしていく。

 不急の救急搬送を往診で減らせれば、コストは大きく減少できる。ファストドクターとしては、今後も実績を増やしていくことで、受診行動の適正化やコストの抑制をはかっていく。また、夜間や休日の救急相談窓口として地域に貢献していくとともに、「テクノロジーとオペレーションの融合で医療業界のDXを推進する」(菊池氏)と語った。


(タイトル部のImage:寺田 拓真、コラージュはBeyond Health)