経済産業省中部経済産業局と厚生労働省東海北陸厚生局は10月27日、「ガバメントピッチin中部」をオンライン開催した。自治体がベンチャーなど地域企業と共に取り組みたいヘルスケア分野の課題・ニーズを発表、それらに応える企業からの提案を募集し、自治体との個別マッチングを行うというものだ。同様の企画は昨年、関東経済産業局が初開催しており、今回、2回目の関東ピッチ(関連記事はこちらこちら)とコラボする形で、中部でも初めて実施されることになった。

「ガバメントピッチin中部」では中部地域の6自治体が共に課題を解決する企業を募集。熱いプレゼンを繰り広げた。以下、登壇順にその内容を見ていく。

●愛知県豊橋市

 愛知県東部に位置する豊橋市は、人口37万人の中核都市。今回取り組みたい課題として、糖尿病対策を掲げた。同市の40歳から74歳までを対象とした2020年度特定健康診査では、血糖レベルを表す「HbA1c」の有所見者(HbA1c 5.6%以上)の割合は75.0%と、県平均(58.7%)や国平均(57.9%)を大きく上回っており、危機感を強めてのことだ。

 市の保健所は糖尿病有所見割合が高い要因について、運動実施率が低い、野菜の摂取量が少ない、間食が多いことなどが関連しているのではないかと分析。さらに、若者の朝食欠食率の高さにも注目している。朝食を抜くと、空腹時間が長くなり、昼食時に血糖値が急激に上がるので、上がりすぎた血糖値を下げるためにインスリン分泌が促され、すい臓に負担がかかる。こうした生活が続くと糖尿病の発症リスクにつながるためだ。

 そこで、豊橋市がベンチャー企業などに望むのは、ビジネスパーソンが朝食で野菜を食べられるサービスの提供。同市健康部健康政策課健幸なまちづくりグループの大場駿一氏によると、豊橋市の強みとして、健康経営が進んでおり、健康づくりに取り組む企業が多い、また、実は全国的に見ても農業が盛んな地域であるため、「アグリテック」「フードテック」の聖地となれるポテンシャルもあるのだという。

 「こうした市の強みを生かした提案をベンチャー企業などに求めている」と大場氏。雇用主向けサービスで健康経営として取り組めること、地元野菜が活用されることを要件と課す。

 求めるサービスの主なターゲット層は、会社で忙しく働く20歳代~30歳の従業員。一人暮らしで経済的ゆとりがなく、バランスのよい食事ができていない、朝は時間に余裕がない、そんな若者をイメージしている。

 豊橋市と協業するメリットは、健康経営企業などを対象にした実証実験のフィールドが提供され、スタートアップ支援体制も充実していること、また他市町村とのつながりを活かし、将来的には豊橋市のみならず愛知県東三河地方にもサービスを横展開できる可能性が広がる。

豊橋市健康部健康政策課健幸なまちづくりグループの大場駿一氏
豊橋市健康部健康政策課健幸なまちづくりグループの大場駿一氏

●愛知県西尾市

 愛知県の西三河地方に含まれる西尾市は、自動車産業に関連する事業所が多数立地する、ものづくりの集積地として知られる。2021年現在、人口は約17万人で、高齢化率は25.5%。この先、急激な高齢化が見込まれている。

 そんな西尾市では、「工場勤務定年後の生活に課題がある人が多いことに頭を悩めている」と、市健康福祉部長寿課の杉浦弘樹氏は話す。典型的な高齢者像は、定年退職後、何をしたら良いかわからない、「通いの場」に通い続けても結果が見えない、フレイル状態になってから外出しようとすると家族に「危ないから外に出ないで」とブロックされてしまう、要介護になったら恥ずかしいと感じて要介護認定を受けたがらない──といった特徴を持つ。それで自分の住まいに引きこもり、社会とのつながりを持てずにいるというのだ。

 市として進めたいのは、高齢者が外出したくなるまちづくり。ベンチャー企業などには次のような提案を望む。①好みと外出先を提案してくれるシステム、②高齢者向け意識醸成のソリューション、③通いの場などの実績をデータ処理・分析・説明、④陸の孤島や離島向けのソリューション──。

 ④に関しては、人口約1500人のつくしが丘地区が、陸の孤島と化しているのだという。同地区は、公共交通の便が悪く、地域内に商店もないため、生活には市街地までの車移動が主な手段。今後、移動困難者や買い物難民が増えることになるという。また、離島問題を抱えるのは佐久島。人口約250人中の半分は高齢者で島民のほぼ全てが顔見知り。島には介護保険サービスがヘルパー派遣しかなく、重度化したら、最後は慣れ親しんだ島を出ざるを得ない状況になっている。

 「西尾市は都市機能も過疎地域もある日本の縮図型の都市。実証実験向きで事業の横展開が見込める」と杉浦氏。高齢者に無理なく提案でき、楽しいと感じてもらえるサービス・アイデアを幅広く募集したい意向だ。

西尾市健康福祉部長寿課の杉浦弘樹氏
西尾市健康福祉部長寿課の杉浦弘樹氏

●愛知県蒲郡市

 三河湾に面する観光都市である蒲郡(がまごおり)市。人口は1980年代から緩やかに減り続け、2021年3月現在、人口約7万9000人、高齢化率は29.7%だ。

 そんな蒲郡市は2018年9月に台風24号が接近。市内の約31%の回線で長時間の停電発生を余儀なくされた。

 停電が長く続けば、在宅酸素・人工呼吸患者は命の危険にさらされる。市内には合わせて約100人の患者がいて、その数は今後、高齢化の進展に伴い、増加すると見込まれる。

 市は停電に備えた取り組みを強化しようと、2020年11月に市医師会ならびに医療機器メーカー5社と協定を結び、「蒲郡電源あんしんネットワーク」を設立。台風や地震などにより長期にわたる停電が見込まれる場合には、自家発電機を備えるボートレース蒲郡に避難所を設け、医療機器メーカーや市民病院が必要な装置を届けることとした。対象者は同ネットワークに事前登録しておくと、サービスを受けられる。

 そのほか、災害弱者には避難困難が予想される高齢者や障害者などもいて、要援護者全体は市内で約3000人に上る。

 蒲郡市では、名古屋大医学部付属病院などが開発した、ICTを用いた医療・介護福祉関係者らの情報共有ツール「電子@連絡帳」を既に導入済みで、要援護者をめぐっては、オプションサービスの「災害時連携」も活用している。このオプションサービスは、災害に備えて、自治体があらかじめ要援護者のリスト・マップを作成し、地域内にどのような支援対象者が所在するか、関係者間で把握できるようにするというものだ。また、実際に災害が発生した場合には、安否報告の機能を活用し、自治体と専門職(支援チーム)が要援護者の所在を確認して、互いに情報を共有しながら支援につなげられる。

 もっとも、先の電源あんしんネットワークに関しては、「現状、登録者の3割程度は連絡先が固定電話。携帯電話を持っていないか、持っていても通話以外使っていない」と、市健康福祉部長寿課地域包括ケア推進室の井坂和美氏は明かす。電子@連絡帳の災害時連携の対象者となっている要援護者に関しても、4割程度が同じ状況なのだという。

 在宅酸素・人工呼吸患者をはじめとする災害弱者の「助けて!」をすぐに見つけられる、伝えてもらえるようにしたいというのが、蒲郡市の願い。そのための共創相手となる企業を募集している。

 受け付ける提案内容としては既に導入済みの電子@連絡帳を活かすことが前提。例えば、要援護者マップに、助けるのに必要な対象者の住宅周辺の状況(天気や道路状況など)が一目でわかる仕組みが搭載されている、どの地区から優先的にバッテリーを持っていくか、どこの人たちを優先的に見守りにいくかなどのモデルルートも提示されるといった具合だ。緊急時や停電時にスマホなどがなくてもやり取りができるコミュニケーションツールも求めている。

 実証実験のフィールドとしては、「電源あんしんネットワークに登録している在宅酸素療養者46人を対象に行ってもらえれば」と井坂氏。市が連携協定を結ぶ市医師会や医療機器メーカーの協力も得やすい体制にある点をメリットに挙げる。

蒲郡市健康福祉部長寿課地域包括ケア推進室の井坂和美氏
蒲郡市健康福祉部長寿課地域包括ケア推進室の井坂和美氏

●愛知県大府市・東浦町(ウェルネスバレー推進協議会)

 愛知県大府市と東浦町が、あいち健康の森周辺で整備する健康長寿の一大拠点「ウェルネスバレー」。半径2km圏内に病院や介護施設、都市公園、研究・研修センターなどの施設が多数集まる全国有数の地区だ。名古屋駅から電車で30分ほどの場所に位置する。

 地区内の各施設を横軸で連携する機能を果たすのがウェルネスバレー推進協議会。様々な取り組みを手がける中、医療と工業、介護福祉の分野が連携して進める、いわゆる“医福工連携”のものづくり支援にも力を注いできた。

 2017年からはウェルネスバレー地区の医療・福祉関係機関にアイデア提案箱(アイデアボックス)を設置し、現場ニーズを収集。そのニーズをホームページ上で一覧にして公表し、ヘルスケア商品を製造する企業を募る「医福工連携マッチング」事業を2018年から展開している。

 ただ、現場のニーズに対して提案企業数が少ないのが困りごと。現在は介護現場の課題解決策を募集しており、地区内の介護施設からは2017年から2020年度にかけて毎年約20件のニーズが出されるも、「企業からは10アイデアぐらいしか寄せられない」と、大府市産業振興部ウェルネスバレー推進室の戸田稔彦氏は語る。

 そこでベンチャー企業などに提案してほしいのは、次の2点だ。

 1点目は、介護事業所の生産性向上につながるソリューション。大府市のホームページには約70の多種多様な課題が掲載されており、その詳細を確認してもらった上でのアイデア出しを希望する。「シーズベースでの相談であっても構わない」と戸田氏。

 2点目は、アイデアボックスの周知促進のソリューションだ。アイデアボックスをもっと活用してほしいが、企業の人たちにどのように知ってもらったらいいかわからずにいる。全国の熱意ある企業に広報・周知する方法、自治体職員が実施できる周知促進方法、各種セミナー勉強会などでの周知機会を求めている。

 提案してもらったら、協議会と面談、続けて介護施設との面談と続き、その後、介護施設での実証開始に至る流れ。その間、コーディネーターが伴走支援する。

 こうしたマッチングから実証開始までにかかる期間は最速3カ月。ここまでスピードアップできるのは、「これまで培ったノウハウがあるため」と戸田氏は胸を張る。

 全国有数の健康・長寿施設が集積するウェルネスバレー地区での連携・実証作業は、健康長寿推進企業としてのブランド化にも寄与すると言えそうだ。

大府市産業振興部ウェルネスバレー推進室の戸田稔彦氏
大府市産業振興部ウェルネスバレー推進室の戸田稔彦氏

●三重県いなべ市

 人口約4万5000人を抱える三重県いなべ市。これまで企業誘致や宅地造成を進めてきたことで、同市の人口は増減を繰り返しながらほぼ横ばいで推移してきた。だが近年は出産・子育ての中心である20歳から40歳までの年代が都市部へ流出しており、今後より一層人口減・高齢化が加速することが危惧されている。

 現在、高齢者人口が1万2000人であるのに対し、高齢者を見守ることのできる生産年齢人口は2万6000人。2030年には高齢者人口が1万3000人に増えるも、生産年齢人口は2万3000人へ減少するとみられる。

 見守る高齢者は増え続けるが、支える人は減るばかり。ならば、少ない人手でも効率よく高齢者を見守れるようにする。さらには高齢者同士が見守り合える仕組みを構築できないかというのが、いなべ市のニーズだ。

 後者に関し、同市では以前より健康で元気な高齢者づくりの取り組みに注力しており、そうした元気高齢者に見守り役として活躍してもらうことを想定している。

 効率的な見守りにはITツールが有用だが、既存のものは高齢者にとってなかなか使いくいのも事実。タブレットやスマートフォンなどはクリック、タップ、スクロールがしづらい、またそこから流れる音声も耳が遠くなっている高齢者には聞き取りにくく、老眼が進んでいるので画面に書いてある文字が小さくて読みづらい。

いなべ市福祉部長寿福祉課の太田正則氏
いなべ市福祉部長寿福祉課の太田正則氏

 それらを解消するため、同市がベンチャー企業などに求める提案は「おじいちゃん、おばあちゃんでも簡単に操作できる見守りツールの開発」(市福祉部長寿福祉課の太田正則氏)だ。「例えば、クリック、タップ、スクロールなどの操作が容易で、難聴レベルにより音量の調整が可能、また老眼でも見やすい大きなアイコンが表示されるといった機能を備えたもの」と、太田氏は話す。

 そうした簡単操作見守りツールの活用場面としては、こんなケースを挙げる。

 いなべ市では2011年から、日中独居や高齢者世帯などを対象に、定期的にボランティアによる電話連絡で安否確認を行う「あんしん電話」サービス事業を展開している。だが、ボランティアの高齢化も進み、年々、その確保が難しくなりつつある。電話でできることには限界があるわけだ。そこで、簡単操作見守りツールを使って、ボランティアが安否確認の必要な高齢者へWeb通信を行う。

 他にも、高齢者が身に着けやすいもの、例えばブレスレットやアンクレットなどに、医療情報やGPS機能などのチップを内蔵し、行方不明者の位置確認、救急隊による搬送先への情報伝達として、本人や家族の同意のもと、市、社会福祉協議会、警察、消防、病院で情報を共有する。

 いなべ市は、2025年までに高齢者の50人に1人(200人)が同世代の先導や指導役になれるITツールを活用して、市とつながっていることを目指す。その実現のために「奇抜なアイデアはもとより試行錯誤も大歓迎」と太田氏は結んだ。

 さて、今回の「ガバメントピッチin中部」に対する提案締め切りは11月5日(金)まで。エントリーシートや登壇自治体のプレゼン資料は中部経済産業局サイト「Link Chubu」のトップページからダウンロードできる。

(タイトル部のImage:monsitj -stock.adobe.com)